補中益気湯

健全な胃腸は健康の根本=補中益気湯のねらい

漢方ガイドのマルガリータ・ユキです。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)について、帝国ホテルプラザ内「薬石花房 幸福薬局」の中医師・幸井俊高先生にお話をうかがいました。

補中益気湯の入手方法は?
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ユキ:補中益気湯はエキス剤などでも非常によく処方されている漢方薬です。食欲不振、倦怠感、胃腸の不調、夏バテなどに使われることが多いようですが。

先生:補中益気湯は弱った胃腸機能を健全に回復することを目的としていますが、実際には非常にさまざまな症状に応用可能で、使う機会が多い処方です。体を丈夫にして免疫力を高める効果が期待されるので、コロナウイルスを含めた感染症にかからないためにも役立つと考えられます。

補中益気湯を編み出した李東垣(12-13世紀)は、もっぱら「脾胃(ひい)」(胃腸機能・消化機能のこと)を補って元気をつけることがさまざまな病気や不調の治療の根本であるという考えの持ち主でした。

ユキ:適正な腸内環境が健康の維持や向上につながるという話は最近よく聞かれるようになりましたが、似たような考えですね。

先生:確かに胃腸が丈夫で消化機能が健全な人は概して健康だと思います。腸内環境が脳や精神の健康にも影響を及ぼしているという考えも普及してきました。

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自分はあてはまる? 補中益気湯が効くタイプ

ユキ:補中益気湯が効くのはどのようなタイプの人ですか。

先生:補中益気湯は主に3つのタイプの人に効きます。「気」というのは目に見えないエネルギーのようなもので、現代医学では治療対象として扱われませんが漢方では非常に重視しています。「気虚」は、「気」が不足した状態のことです。

  1. 「脾胃気虚(ひいききょ)」証・・・消化吸収機能が低く、食べたものが体のエネルギーになってくれない体質です。食が細くて体とりわけ四肢がだるい、疲労倦怠感が強く、声に力がない、息切れしやすい、食後に眠くなる、便が軟らかいか、あるいは腸管の弛緩により便秘になる場合がある、などの特徴があります。
  2. 「気虚下陥(ききょげかん)」証・・・体の組織、血液、体液などを正しい位置に引き留めておくために必要な「気」のパワーが不足したために、臓腑がだらりと垂れ下ったり、体内の液が漏れ出したりしやすい状態です。胃下垂、脱肛、ヘルニア、子宮下垂や子宮脱、月経過多、不正出血、立ちくらみ、発汗、慢性的な下痢などの症状がみられます。
  3. 「気虚発熱」証・・・体力が低下して熱の発散がうまく機能せず、熱が体内にこもって浮いてくる状態です。微熱、ほてりなどの症状が現れます。のどが渇くけれども冷たいものより温かい飲み物を好むことが多く、疲れたときに症状が悪化しやすいのが特徴です。熱があるからといってかぜ薬や抗生物質を用いると胃腸を弱らせて事態を悪化させることになりかねないので注意が必要です。

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ニキビ・不妊・生理痛・多汗などの改善効果も補中益気湯で

ユキ:補中益気湯さまざまな症状に応用可能ということですが、食欲不振、疲労倦怠感、夏バテなどの他にはどのような病気・症状に効果的ですか。

先生:まず上に挙げたとおり、補中益気湯は脾胃気虚による便秘、気虚下陥による胃下垂、脱肛、ヘルニア、子宮下垂や子宮脱、月経過多、不正出血、立ちくらみ、発汗、慢性的な下痢、気虚発熱による慢性的な微熱、ほてりなどに効果があります。

他には低血圧や起立性調節障害、自律神経失調症、頭痛、慢性胃炎、慢性肝炎、遊走腎、不妊症、性機能障害、ED(勃起不全)、かぜをひきやすい、めまい、眼精疲労、口内炎、手足のしびれがある人、病中病後や手術前後、妊娠中や産後の体力保持、あるいは老化防止などにも証が合えば使います。

ユキ多汗で悩んでいる人にはどうでしょうか。補中益気湯が効く発汗はどのような汗ですか。

先生:気虚による発汗ですね。運動や暑さに伴う健康的な汗ではなく、何もしないでも、あるいは少し動いただけでもだらだらと汗が出てくるタイプです。

ユキニキビにも補中益気湯が使われると聞きましたが。

先生:免疫力の低下によっていつまでもニキビがなおらない方に効果を発揮します。年齢が高めの方や、ステロイドを長期使用した方にこのタイプが多くみられます。

ユキ生理痛に補中益気湯が使われる場合は?

先生:生理痛にもいろいろなタイプがありますが、気虚が原因となっている時に効果的です。

そのほか、元気がない「脾胃気虚」タイプの男性不妊にも使います。免疫力低下で再発しやすい膀胱炎やカンジダ感染症なども改善が期待できます。

ユキ:本当に使われる機会が多いのですね。

先生:あくまでも補中益気湯は上の(1)(2)(3)のタイプの気虚の方にふさわしいということを忘れないでくださいね。たとえば胃腸の不調、便秘、下痢、微熱、ニキビ、不妊症、生理痛といってもさまざまな原因がありますから違うタイプの人に使っても症状は改善しません。

ユキ:気虚であっても補中益気湯以外の処方がいい場合もあるのですか。

先生:はい、気を補うというと、中身の減った鍋に上からどぼどぼとスープを注ぎ足すようなイメージもありますが、補中益気湯の場合は力なく垂れ下がった元気を下から持ち上げてしゃきっとさせるものですから、気虚であっても少し違う場合があります。

たとえば胃腸障害や微熱、感冒、各種炎症でも体力がまだ残っている場合は小柴胡湯(しょうさいことう)のほうがいい場合もあります。脾胃気虚でもとくに気虚下陥がなく、とにかく脾胃を丈夫にして補気したい場合は四君子湯(しくんしとう)などの方がいいですね。胃腸の不調に腹痛や胃けいれんなどを伴うときは小建中湯(しょうけんちゅうとう)など、おなかの冷えをとりたい場合は、人参湯(にんじんとう)が適しています。

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●●ユキの感想●●
補中益気湯の応用範囲の広さがよくわかりました。補中益気湯が処方された場合、自分が(1)(2)(3)のタイプのどこかにあてはまるかどうかチェックしてみるといいと思います。なんだか違うな―という場合はもっと合う処方がきっとあるはず。漢方の専門家に相談することをお勧めします。

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