こじれた風邪の症例
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
薬石花房 幸福薬局 の漢方薬でこじれた風邪が改善した症例
こちらは症例紹介ページです。かぜの解説ページは こちら へどうぞ
■症例1「かぜがなかなか治りません。かぜを引いてから1か月が経ちますが、まだぐずぐずしています。寝込むほどではないのですが、少し熱っぽく、鼻水や痰が出ます。汗をじっとりとかきます。もともと子どものころからかぜを引きやすく、年に何度もかぜを引きます。季節の変わり目や疲れたとき、無理をしたときなどに、よくかぜを引くと思います」
この女性は、もともとかぜを引きやすい体質であるうえに、一度かぜを引くとなかなか治りません。
かぜの勢いが強いというよりは、この女性自身の抵抗力や免疫力が弱いのが原因のようです。普通の体力の人だとかからないようなかぜに容易にかかり、ふつうだとすぐに治る程度のかぜでも長引かせてしまいます。
この女性の証は「衛気虚(えききょ)」です。衛気が不足しているために抵抗力や免疫力が足りなくて、かぜをこじらせてしまいます。
病気の原因つまり病因には、内因と外因とがあります。漢方では、このうち内因の改善に重点を置いて治療を進めます。かぜのきっかけはウイルス感染などの外因でも、それらの除去と並行して、体質の強化つまり内因の改善を進めます。
かぜをこじらせた場合や、さらにこの女性のように毎年のように繰り返しかぜを引くような場合は、とくに抵抗力や免疫力を高めることにより内因を除去していくのがいいでしょう。
免疫力のような本質的なものは、一日や二日だけ漢方を飲んだところで上がるものではありません。車にガソリンを入れたり電池を充電したりするのとは、わけがちがいます。
美しい花を咲かせ、豊富な果実を実らせるためには日々の手入れが必要なのと同じです。一週間や二週間、腹筋を鍛えたくらいでは、余分な皮下脂肪を取り除いて立派な腹筋を身につけることができないのと同じように、毎日の心がけの継続が大切です。
この女性は衛気虚を改善する漢方薬でかぜを治したあと、これからまた頻繁にかぜを引かないように、さらにワンステップ本質的に、正気を養って体質を強化する漢方薬をしばらく飲み続けることにしました。
■症例2「かぜを引いたあと、咳だけが残っています。ちょっとしたきっかけで乾いた咳がこんこんと出てきます。ひどいときには咳が連続してこみ上げてきてしまい、顔を赤くしてオェーッとえずくほど咳き込んでしまいます」
30代の女性です。かぜを引いてから1か月以上が経ちます。ほかの症状は全くなくなったのですが、咳だけが続いています。ごほごほという湿っぽい咳ではなく、こんこんという乾いた咳です。
痰は少量で切れにくく、のどにからみます。痰を切ろうと咳払いをすると、それがまた咳を誘発し、咳き込んでしまいます。
かぜが長引いて体力を消耗し、気管支あたりが乾燥して炎症が残っているようです。炎症は、人が熱邪(ねつじゃ)に侵されているときに現れやすい症状です。
熱邪にはふたつの種類があります。ひとつは、熱邪そのものの勢いが盛んな証で、もうひとつは、熱と均衡している水が足りなくなって、相対的に熱邪が多くなっている証です。前者を実熱、後者を虚熱といいます。
この女性は、長引くかぜにより体力を消耗して粘膜からの分泌が減っている状態ですので、虚熱による炎症です。肺(呼吸器系)で陰液(水分)が虚している(足りなくなっている)状態なので、証は「肺陰虚(はいいんきょ)」です。乾いた咳、顔面紅潮、痰が少ない、などは肺陰虚の特徴です。
こういう場合は、炎症があるからといって熱を冷ます処方を選んでは行けません。水分を補って虚熱を和らげます。
もし肺陰虚で炎症が激しい場合は、虚熱を和らげると同時に実熱を冷まします。そういう場合は熱を冷ます作用の強い漢方薬を一緒に服用すると効果的です。
漢方はバランスを重視する医療です。熱と水が5:5で健康状態を保っているとした場合、同じように発熱や炎症がある状態でも、実熱証だと、熱:水が体内で7:5になっており、虚熱証だと5:3になっています。どちらも熱が水よりも2多いので発熱や炎症といった症状が現れます。しかし漢方では、実熱証の場合は熱を2減らして5:5に戻し、虚熱証だと逆に水を2増やして5:5にもっていくことにより、バランスをととのえます。
熱や炎症があるからといって、実熱や虚熱の区別なしに消炎解熱剤を投与すると、もしその人が虚熱証だった場合、熱:水が3:3になってしまい、炎症は抑えられても体質はますます弱体化してしまいます。症状を抑える対症療法にばかり頼るのではなく、漢方による原因療法を取り入れるのが効果的です。
■症例3「子どもがかぜを引きました。熱が出て、だるそうです。じっとりと汗をかいています。毎晩、寝汗もかきます。咳、くしゃみ、鼻水などの症状があります。さらに、おなかをこわしているようで、下痢をしています。吐き気もあります」
3歳の子どもの例です。母親が連れてきました。病院に連れて行き、かぜだと診断されました。薬をもらってきましたが、無理に飲ませても吐いてしまいます。
かぜをこじらせて一番心配なのは、子どもや高齢者です。体力がじゅうぶんでなく、免疫力が弱いので、油断していると病気が重くなったり別の病気になったりします。かぜと診断されて一安心ではありますが、この子もふだんから虚弱なほうで、かぜを引きやすく、心配です。
この子の証は、かぜの引き始めによくみられる「風寒証(ふうかんしょう)」であるとともに、「脾気虚(ひききょ)」があります。
咳やくしゃみ、鼻水、じっとりした汗などは風寒症の症状です。下痢や吐き気は脾気虚の特徴です。脾は五臓六腑のひとつで、消化器系などをさします。
こういう場合は、風寒証にも脾気虚にも適した処方を使います。この症例のような小さな子どもにも飲みやすい漢方処方もあります。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を25冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社の医師・薬剤師向けサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・連載・執筆。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル東京内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は東京・銀座で営業している。
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