気管支炎
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気管支炎とは
気管支炎は、気管支に炎症が生じ、咳や痰などの症状を引き起こす疾患です。短期間で治る急性気管支炎と、長期にわたり症状が長引く慢性気管支炎とがあります。喫煙や受動喫煙により、症状が悪化したり慢性化したりします。
症状
よくみられる症状には、咳嗽、痰、発熱、喘鳴、息切れ、呼吸困難、全身倦怠感などがあります。喉の痛みや、鼻水、チアノーゼ症状などが生じることもあります。長期化して気管支喘息や肺炎に移行する場合もあります。
原因
急性気管支炎の多くは、インフルエンザなどのウイルスや細菌、マイコプラズマによる感染症が原因で起こります。慢性気管支炎は、抗酸菌や緑膿菌などによる感染症や、喫煙、自動喫煙、大気汚染などが原因で起こります。
治療
西洋医学では、鎮咳薬や去痰薬などの対症療法が中心に治療が行われます。病原菌の関与がある場合は抗生物質が用いられます。症状が重い場合は、気管支拡張薬が使われる場合もあります。
漢方治療
漢方では、気管支炎を五臓の肺や痰飲と関係が深い疾患と捉えています。
五臓の肺のおもな機能(肺気)は、呼吸により空気中から必要な成分(酸素など)を吸入し、体内の不要物(二酸化炭素など)を排出することです。これを「肺は気をつかさどる」といいます。肺を滋潤し栄養を与える陰液を肺陰と呼びます。肺陰は肺や気道や体表の分泌液や組織液と強い関係にあります。
また痰飲とは、津液が水分代謝の失調などにより異常な水液と化した病理産物です。痰飲が咳嗽や痰となって表れると、気管支炎になります。
したがって漢方では、五臓の肺の機能をととのえたり、痰飲を除去したりして、気管支炎を治療します。以下に、気管支炎にみられることの多い証(しょう)と漢方薬を紹介します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者ひとりひとりの証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。
- ①肺熱
咳嗽のほかに、黄色く粘稠な痰が出るようなら、「肺熱(はいねつ)」証です。五臓の肺に熱邪が侵入するとこの証になり、炎症を起こし、気管支炎になります。口渇、胸の熱感、鼻づまり、後鼻漏もみられます。麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)など、肺熱を除去する漢方薬で炎症を冷まし、気管支炎を治療します。
- ②寒痰
激しい咳嗽と、喀痰しやすい薄い痰がみられるようなら、「寒痰(かんたん)」証です。寒痰は、痰飲が寒邪と結びついたものです。喘息のようにゼイゼイ喉元で音が鳴ることや(喘鳴)、息切れが生じる場合もあります。くしゃみ、呼吸困難、後鼻漏、冷え症などを伴うこともあります。小青竜湯(しょうせいりゅうとう)などの漢方薬で寒痰を除去し、気管支炎を治療します。
- ③痰飲
咳を繰り返し、痰の量が多いようなら、「痰飲(たんいん)」証です。痰飲は、体液代謝の失調や低下、炎症、循環障害、ホルモン異常、代謝産物の体内蓄積、暴飲暴食、食事の不摂生、運動不足などによって生じます。温胆湯(うんたんとう)など、痰飲を取り除く漢方薬を用い、気管支炎の治療にあたります。
- ④肝鬱気滞
自律神経の失調や更年期障害と関与していそうな場合は、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証が多くみられます。からだの諸機能を調節し、情緒を安定させる働き(疏泄:そせつ)を持つ五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。肝は自律神経系と関係が深い臓腑です。自律神経の失調が気管支に及ぶと、気管支炎になります。滋陰至宝湯(じいんしほうとう)などの漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、気管支炎を治していきます。
- ⑤肺陰虚
乾燥した咳嗽が出て、咳き込むことが多く、痰がからんでなかなか切れないようなら、「肺陰虚(はいいんきょ)」証です。五臓の肺の陰液(肺陰)が不足している体質です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。慢性疾患や炎症による津液の消耗などにより、この証になります。血痰、喉の乾燥、口渇などの症状がみられます。ときに吐きそうになるくらい咳き込むことや、嗄声(声枯れ)が生じる場合もあります。陰液の不足により相対的に熱が余って熱邪(虚熱)となり、炎症を生じます。滋陰降火湯(じいんこうかとう)などの漢方薬で肺の陰液を補い、気管支炎を治します。
予防/日常生活での注意点
気管支炎を誘発しやすいインフルエンザやかぜにかからぬよう、日頃から規則正しい生活や、適切な食事、適度な運動、じゅうぶんな睡眠を心がけ、免疫力が下がらぬよう留意しましょう。もちろん気管支に炎症をもたらしやすい喫煙を控えるのは当然です。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆しました。日経DIオンラインにも掲載)
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