帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛

(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高

帯状疱疹や、そのあとの神経痛の漢方治療 ー 漢方薬で免疫力を強化して対応

こちらのページでは、帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛の漢方治療について解説します。当薬局では、免疫力を強化することにより、根本治療を進めます。

*目次*
帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛とは
原因
症状
治療
治療(帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛の漢方治療)
体質別の漢方治療方針
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点

症例紹介ページもあります)

帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛とは

帯状疱疹は、顔や体の片側の皮膚にピリピリ、チクチクとした痛みが起きたのち、数日後に激痛を伴う赤い発疹がポツポツ現れ、水ぶくれとともに帯状に広がる疾患です。体の左右どちらか片側に現れるのが特徴です。顔や頭、胸、腹部、背中、腰、股間などに発症することが多いようです。

免疫が低下している場合などは、慢性的に痛みが続く「帯状疱疹後神経痛」になります。

もともと高齢者に多い皮膚疾患ですが、近年は免疫力が低下しているようで、広い世代で増加しているようです。

原因

帯状疱疹の原因は、水ぼうそう(水痘)と同じ「水痘・帯状疱疹ウイルス」です。小さい頃に水ぼうそうにかかったことのある人など、日本人の9割以上がこのウイルスに感染しています。このウイルスは、水ぼうそうが治ったあとも感覚神経の根元の神経節に一生にわたり潜伏しています。

日頃は人体の免疫機能が働き、ウイルスが活性化しないように監視していますが、免疫が弱まるとウイルスが突然暴れ出します。免疫力が低下する要因は、過労、精神的ストレス、睡眠不足、加齢、がんや糖尿病などの慢性疾患、肥満、ステロイドや抗がん剤などの西洋薬の投与などです。

症状

活性化したウイルスは、増殖しながら神経に沿って皮膚まで移動します。このときに神経などを傷つけるため、痛みが生じます。数日後には赤い発疹がポツポツ現れ、帯状に広がって水疱(水ぶくれ)になります。水疱は、やがてかさぶたとなり、痛みも消えます。

通常は3週間ほどで治りますが、高齢者など、免疫が低下している場合や、症状が重かった場合は、慢性的に痛みが続く「帯状疱疹後神経痛」になります。ひどい場合は10年以上激痛に苦しむ例もあるようです。難聴や耳鳴り、顔面神経麻痺を伴う場合もあります。

治療

免疫力と病気との戦いにおいて、西洋医学は病因の排除や症状の緩和を重視して治療をします。一方、漢方は西洋医学とは逆に、免疫力の強化を重視して治療をします。

西洋医学では、抗ウイルス薬を使います。発疹ができて3日以内に投与すれば重症化を防げる可能性が高まります。治療が遅れると悪化したり長引いたししやすくなります。疼痛に対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬で対症療法が行われます。予防ワクチンが、発症や重症化の予防に使われることもあります。ペインクリニックなどでは神経ブロックも行われています。

治療(帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛の漢方治療)

漢方では、急性期には症状に合わせて熱邪や湿邪の除去も行いますが、おもに、長期化した場合や慢性化して帯状疱疹後神経痛が生じている場合に、患者の免疫力の向上を目指し、治療にあたります。免疫力がじゅうぶんでないと、病気が長引いて慢性化したり再発したりするので、最終的には免疫力の強化が重要である、と漢方では考えます。

人体が持つ免疫力、生命力、抵抗力のことを、漢方で「正気(せいき)」といいます。正邪(正気と病邪)のバランスにおいて、正気が充実していれば疾病は発生しません。逆に病邪が強く、正気の隙を縫って病邪が体内に侵入してくると、発病します。

したがって漢方では、漢方薬で五臓六腑のバランスを調えたり、気・血・津液・精を補ったり流れをよくしたりして正気を強めていくことにより、免疫力を高め、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治療します。

症例紹介ページもあります)

体質別の漢方治療方針

漢方では、患者一人一人の体質に合わせて正気を強め、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治療します。以下に、帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛にみられることの多い証(しょう)と漢方薬を紹介します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者一人一人の証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。

  • ①水湿

水疱がひどいようなら、「水湿(すいしつ)」証です。水湿とは、水分の吸収や排泄、代謝が滞り、過剰な水分が体内に滞っている状態です。水湿が患部で水疱を生じています。水滞、水邪、水毒などとも呼ばれる証です。水湿を取り除く漢方薬で治療を進めます。

  • ②肝鬱気滞

精神的ストレスの影響を受けて免疫力が下がることもよくあります。みられることが多いのは、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。からだの諸機能を調節し、情緒を安定させる働き(疏泄:そせつ)を持つ臓腑である五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。気血が全身に行き渡らなくなるため、免疫力が低下します。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、ストレスに対する抵抗性とともに免疫力を高め、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治していきます。

  • ③肝火

赤い発疹などの炎症症状が強いようなら、「肝火(かんか)」証です。肝気が鬱滞して熱邪を生み、この証になります。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治療します。

  • ④血瘀

血流の悪化により疼痛が生じている場合もあります。「血瘀(けつお)」証です。血瘀は、血の流れが鬱滞しやすい体質です。中医学に「不通則痛(ふつうそくつう)」という原則があり、「通じざれば、すなわち痛む」と読みます。体内での気・血・津液の流れがスムーズでないと痛みが生じる、という意味です。血瘀による疼痛は、この「不通則痛」で生じる痛みです。血の流れを促進する漢方薬で血瘀を除去し、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛の治療をします。

  • ⑤寒湿痺

帯状疱疹後神経痛では、患部に冷えが認められることがよくあります。その場合は、「寒湿痺(かんしつひ)」証が考えられます。寒湿邪が停滞して血行を阻害し、痛みを生じます。痺証は、経絡が風寒湿邪などの病邪によって塞がれて閉じ、気血の流れが妨げられ、筋肉や関節の疼痛やしびれ、運動障害が表れる証です。寒湿邪は、体内に滞留する寒邪と湿邪が結合した病邪です。寒邪・湿邪は、それぞれ自然界の寒冷・潮湿が引き起こす現象に似た症状があらわれる病邪です。寒邪は気血を凝滞させやすいため、固定性の激しい疼痛が生じます。寒湿邪を除去する漢方薬を使い、帯状疱疹後神経痛の治療をします。

  • ⑥脾気虚

疲れがたまって発症、再発、悪化するようなら、「脾気虚(ひききょ)」証です。脾は五臓のひとつで、消化吸収や代謝をつかさどり、気血(エネルギーや栄養)の源を生成します。この脾の機能(脾気)が弱いと、免疫力を含む生命エネルギーを意味する気(き)がじゅうぶん生成されず、体内の気が不足し、免疫力が低下します。加齢、過労、生活の不摂生、慢性疾患などにより脾気を消耗すると、この証になります。漢方薬で脾気を強めることにより免疫力を高め、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛の治療を進めます。

  • ⑦血虚

栄養状態がよくなくて疲れやすく、患部が冷えているようなら、「血虚(けっきょ)」証も考えられます。血は人体の構成成分のひとつで、血液や、血液循環、血液が担う滋養作用という意味があります。この血の滋養作用が低下している状態が、血虚です。中医学に「不栄則痛(ふえいそくつう)」という原則があり、「栄えざれば、すなわち痛む」と読みます。人体にとって必要な気・血・津液が不足すると痛みが生じる、という意味です。栄養や潤いがじゅうぶん供給されないと、その部分が正常に機能できず、痛みが生じます。血虚による痛みは、この「不栄則痛」で生じる痛みです。血を補う漢方薬で、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治療します。

  • ⑧気血両虚

強い疲労感を日々感じているときに痛みが生じるようなら、「気血両虚(きけつりょうきょ)」証です。「気虚」と「血虚」の二つの証が同時に生じている状態です。気虚は生命エネルギーを意味する「気」が不足している体質で、血虚は人体に必要な血液や栄養を意味する「血」が不足している体質です。血虚証と同じく、「不栄則痛」により痛みが生じます。漢方薬で不足している気血を補うことにより、治療を進めます。

  • ⑨腎陽虚

全身的に免疫力が低下していると考えられるようなら、「腎陽虚(じんようきょ)」証の治療をします。腎の陽気が不足している体質です。腎は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖をつかさどる臓腑です。陽気は気のことです。腎陽の衰えは正気の減衰につながり、免疫力の低下を招きます。腎陽を補う漢方薬で、免疫力を高めていきます。

ほかにも帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛にみられる証はたくさんあります。証が違えば薬も変わります。自分の証を正確に判断するためには、漢方の専門家のカウンセリングを受けることが、もっとも確実で安心です。

よく使われる漢方薬

  • ①越婢加朮湯、五苓散など

水疱がひどいようなら、たとえば、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、五苓散(ごれいさん)など、水湿(すいしつ)証を治療する漢方薬を用います。

  • ②四逆散、抑肝散など

精神的ストレスの影響を受けて免疫力が下がっていると考えられる場合は、たとえば、四逆散(しぎゃくさん)、抑肝散(よくかんさん)など、肝鬱気滞(かんうつきたい)証を治療する漢方薬を使います。

  • ③竜胆瀉肝湯など

赤い発疹などの炎症症状が強いようなら、たとえば、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)など、肝火(かんか)証を治療する漢方薬を用います。

  • ④桂枝茯苓丸、桃核承気湯など

血流の悪化により疼痛が生じている場合は、たとえば、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)など、血瘀(けつお)証を治療する漢方薬を使います。

  • ⑤桂枝加朮附湯など

帯状疱疹後神経痛で患部に冷えが認められる場合は、たとえば、桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)など、寒湿痺(かんしつひ)証を治療する漢方薬を使います。

  • ⑥補中益気湯など

疲れがたまって発症、再発、悪化するようなら、たとえば、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などの漢方薬で、脾気虚(ひききょ)証の治療を進めます。

  • ⑦当帰四逆加呉茱萸生姜湯など

栄養状態がよくなくて疲れやすく、患部が冷えているようなら、たとえば、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)など、血虚(けっきょ)証を治療する漢方薬を用います。

  • ⑧人参養栄湯など

強い疲労感を日々感じているときに痛みが生じるようなら、たとえば、人参養栄湯(にんじんようえいとう)など、気血両虚(きけつりょうきょ)証を治療する漢方薬を使います。

  • ⑨八味地黄丸、麻黄附子細辛湯など

全身的に免疫力が低下していると考えられるようなら、たとえば、八味地黄丸(はちみじおうがん)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)など、腎陽虚(じんようきょ)証を治療する漢方薬を用います。

ほかにも帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛を治療する漢方薬は、たくさんあります。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の証(体質や病状)を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで調合しています。

予防/日常生活での注意点

日常生活においては、免疫力が低下しないように心がけましょう。免疫力が低下する要因は、たとえば、疲労の蓄積、暴飲暴食など節度のない食習慣、栄養不足、不規則な生活、ストレス、運動不足、逆に激しい運動、睡眠不足、ファッション重視の薄着など寒冷な環境、乾燥、逆にじめじめとした環境、加齢、喫煙、西洋薬の使いすぎなどです。日頃からこれらの要因に留意し、免疫力が下がらぬよう留意しましょう。

食生活においては、旬の新鮮なものを食べるようにしましょう。規則正しい生活と、適度な運動も、基本です。ストレスをためないことも大切です。さらに、十分な睡眠や休養を心がけ、からだを冷やさないようにしましょう。喫煙しないのは、当然です。

(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)

*執筆・監修者紹介*

幸井俊高 (こうい としたか)

東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社のサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・執筆、好評連載中。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は銀座で営業している。

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