天気痛
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
天気に左右されない体質づくり
こちらのページでは、天気痛の漢方治療について解説します。当薬局では、漢方薬で「天気に左右されない体質」づくりを進めるにより、天気痛の治療を進めます。
*目次*
天気痛とは
症状
原因
治療
治療(天気痛の漢方治療)
体質別の漢方治療方針
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点
(症例紹介ページもあります)
天気痛とは
天気痛は、気象や天気の影響を受けることにより、頭痛、めまい、肩こりなどが悪化する病気です。天気が崩れる前の日や、梅雨の時期、台風の接近につれ、体調不良が生じます。女性に多いのが特徴です。気象病とも呼ばれています。
症状
よくみられる症状は、頭痛、肩こり、関節痛、神経痛、腰痛、めまい、眠気、気分の落ち込み、不安感などです。変形性関節症や、関節リウマチ、線維筋痛症などの疾患が悪化する場合もあります。
原因
原因は、おもに気圧の変化を受けて生じる自律神経の乱れだといわれています。耳の奥の内耳には、気圧の変化を捉える機能がありますが、その気圧センサーが気圧の変化に過敏に反応し、その結果、自律神経のバランスが乱れると、不快な諸症状が引き起こされます。
気圧が変動すると、交感神経が興奮し、血管が収縮します。その結果、血行が悪化し、体内の酸素や栄養素が不足し、痛みを引き起こす物質が出ることとも関係があるようです。また、内耳の循環が悪化してリンパ液がたまってむくむと、気圧の変化に敏感に反応し、頭痛が生じやすくなるともいわれています。
この病気が女性に多いのは、月経周期によるホルモンバランスの変化や、更年期に生じるホルモンバランスの乱れが、自律神経の働きを過敏にし、その影響で天気痛が起きているためと考えられます。
治療
さまざまな治療法がありますが、大きく分けて、痛みなど不快な症状を対症療法的に取り除きたい場合は西洋医学、「天気に左右されない体質」を作って根本的に治療したい場合は漢方が適しています。
西洋医学では、痛みに対して対症療法で治療にあたります。天気予報をみて、事前に鎮痛薬を用います。抗めまい薬や、酔い止め薬が有効な場合もあります。
治療(天気痛の漢方治療)
漢方では、「天気に左右されない体質」を作っていくことにより、天気痛の根本的な治療を進めます。気圧などの天候の影響を受けやすいのは、体内を流れる血(けつ)や津液(しんえき)です。血は人体の構成成分のひとつで、血液や、血液循環、血液が担う滋養作用という意味があります。津液も人体の構成成分のひとつで、体内の水液を指します。
中医学に「不通則痛(ふつうそくつう)」という原則があります。「通じざれば、すなわち痛む」と読みます。体内での気・血・津液の流れがスムーズでないと痛みが生じる、という意味です。これら血や津液の流れが滞ることにより痛みなどの症状が生じるのが、天気痛です。
したがって漢方では、血や津液の流れをスムーズにすることにより、天気痛の治療をします。津液と血は、リンパ液や血流の停滞に近い概念ですが、体質的に根本から治療しようというのが漢方の特徴です。
(症例紹介ページもあります)
体質別の漢方治療方針
漢方では、患者一人一人の体質に合わせ、血や津液の流れをスムーズにすることにより、天気痛の治療をします。以下に、天気痛にみられることの多い証(しょう)と漢方薬を紹介します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者一人一人の証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。
- ①水湿
むくみやめまいが顕著なら、「水湿(すいしつ)」証です。水湿とは、水分の吸収や排泄、代謝が滞り、過剰な水分が体内に滞っている状態です。水湿によりリンパ液が内耳に停滞すると、天気痛が生じます。水滞、水邪、水毒などとも呼ばれる証です。水湿を取り除く漢方薬で治療を進めます。
- ②血瘀
血流の悪化により疼痛が生じている場合は、「血瘀(けつお)」証です。血瘀は、血の流れが鬱滞しやすい体質です。血管の微小循環障害や、流動性の異常、精神的ストレス、寒冷などの生活環境、寒冷刺激、不適切な食生活、運動不足などにより、この証になります。血の流れを促進する漢方薬で血瘀を除去し、天気痛を治療します。
- ③肝陽上亢
ストレスが昂じて自律神経の働きを狂わせ、天気痛が起こる場合もあります。「肝陽上亢(かんようじょうこう)」証です。肝は五臓のひとつで、からだの諸機能を調節し、情緒を安定させる働きを持ちます。自律神経系と関係が深い臓腑です。この肝の機能(肝陽)が上昇すると、この証になります。肝陽とともに痰飲が上昇し、内耳にて停滞すると、天気痛が生じます。肝陽を鎮める漢方薬で治療を進めます。
- ④腎陰虚
月経周期や更年期に生じるホルモンバランスの変化や乱れが自律神経の働きを過敏にし、その影響で天気痛が起きているようなら、「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。腎は五臓のひとつで、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、ならびに水液や骨をつかさどる臓腑です。陰は陰液のことで、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。この腎の陰液(腎陰)が不足している体質が、腎陰虚です。この証の場合は、腎陰を補う漢方薬で天気痛を治します。
ほかにも天気痛にみられる証はたくさんあります。証が違えば薬も変わります。自分の証を正確に判断するためには、漢方の専門家のカウンセリングを受けることが、もっとも確実で安心です。
よく使われる漢方薬
- ①五苓散、半夏白朮天麻湯など
むくみやめまいが顕著なら、たとえば、五苓散(ごれいさん)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)など、水湿(すいしつ)証を治療する漢方薬を用います。
- ②桂枝茯苓丸、桃核承気湯など
血流の悪化により疼痛が生じている場合は、たとえば、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)など、血瘀(けつお)証を治療する漢方薬を使います。
- ③釣藤散、抑肝散など
ストレスが昂じて自律神経の働きを狂わせ、天気痛が生じている場合は、たとえば、釣藤散(ちょうとうさん)、抑肝散(よくかんさん)など、肝陽上亢(かんようじょうこう)証を治療する漢方薬を用います。
- ④杞菊地黄丸など
月経周期や更年期に生じるホルモンバランスの変化や乱れが自律神経の働きを過敏にし、その影響で天気痛が起きているようなら、たとえば、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)など、腎陰虚(じんいんきょ)証を治療する漢方薬が有効です。
ほかにも天気痛を治療する漢方薬は、たくさんあります。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の証(体質や病状)を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで調合しています。
予防/日常生活での注意点
日常生活では、耳周りのマッサージや、耳周りを温めることが効果的なようです。内耳あたりの血行を一時的によくすることで、ある程度の天気痛の予防ができます。運動で汗をかき、体内の余分な水分を減らすのも一案です。自律神経を乱さぬよう、規則正しい生活や、じゅうぶんな睡眠、早寝早起き、食生活の改善、ウォーキングなど適度な運動、ストレスを溜め込まない工夫なども心がけましょう。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社のサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・執筆、好評連載中。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は銀座で営業している。
あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。
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