肺MAC症(非結核性抗酸菌症)

肺MAC症(非結核性抗酸菌症)に効く漢方薬

(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高

肺MAC症(非結核性抗酸菌症)の漢方治療について解説します。当薬局では、漢方薬で免疫力を高めることにより、肺MAC症の治療をします。

*目次*
肺MAC症(非結核性抗酸菌症)とは
症状
原因
治療
肺MAC症(非結核性抗酸菌症)の漢方治療
体質別の漢方治療方針
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点

症例紹介ページもあります)

肺MAC症(非結核性抗酸菌症)とは

肺MAC症(非結核性抗酸菌症)は、結核菌群以外の抗酸菌(非結核性抗酸菌)による感染症です。感染症は人体のさまざまな部位で起こりますが、中でも呼吸器への感染が多く、肺の感染症を肺MAC症(肺マック症)といいます。非結核性抗酸菌症の約8割が肺MAC症です。結核菌とは異なり、感染力が弱く、人から人へは感染しません。非定型抗酸菌症とも呼ばれます。患者数は、年々増加傾向にあります。とくに中高年女性に多いようです。

症状

症状としては、結核菌より病原性が弱いため、感染してもしばらくは症状が出ないことが多いようです。その後、肺の炎症が進むと、咳、痰、血痰などが生じます。さらに進行すると、発熱、倦怠感、呼吸困難、食欲低下、体重減少なども起こります。

原因

肺MAC症は、MAC(マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス)という菌の感染により生じます。MACは、土壌や水などの自然環境に広く存在しています。42℃前後で繁殖しやすいため、気密性の高い浴室や、シャワー、ジャグジー、プール、ホットヨガ、さらに庭仕事、家庭菜園など、水しぶきや土ぼこりの立ちやすい環境で感染しやすいといわれています。すべての人が日常的にMACに接しているにもかかわらず、発症するのは一部の人に限られることから、免疫力の低下も重要な発病因子です。

治療

治療は、菌(MAC)を死滅させる方法と、免疫力を高める方法とがあります。MACのように、感染力はさほど強くない菌に対しては、免疫力を高める方法が有効です。

西洋医学では、菌を死滅させるべく、抗生物質などを用います。クラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトールの3剤による多剤併用療法が一般的です。他剤と組み合わせることもあります。服用期間は1年半以上、と長期にわたり服用し続ける必要があります。進行している場合などは、注射や点滴、手術が行われることもあります。それでも菌を完全に死滅させることは容易ではないようです。

肺MAC症(非結核性抗酸菌症)の漢方治療

漢方では、免疫力を高めることにより、肺MAC症の治療にあたります。MACのように感染力の弱い菌に感染してしまう背景に免疫力の低下があることは自明です。漢方ではとくに五臓の肺の機能低下が肺MAC症と関係が深いと捉えています。

五臓のひとつである肺のおもな機能は呼吸そのものですが、肺は、皮膚において体表からの病邪の侵入を防ぎ、侵入した病邪に抵抗して排除する働きも担います。

肺の機能を肺気というのに対し、肺を滋潤し栄養を与える陰液を肺陰と呼びます。肺気と肺陰のいずれが不足しても、呼吸器系の免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。したがって漢方では、漢方薬で肺気や肺陰を補うことにより五臓の肺を丈夫にし、免疫力を高め、肺MAC症の治療をします。

症例紹介ページもあります)

体質別の漢方治療方針

漢方では、患者一人一人の体質に合わせ、それぞれに合った漢方薬で免疫力を高め、肺MAC症を治療します。以下に、肺MAC症にみられることの多い証(しょう)と漢方薬を紹介します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者一人一人の証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。

  • ①肺気虚

咳や痰のほかに、呼吸が浅い、息切れしやすい、かぜをひきやすい、などの症状がみられる場合は、「肺気虚(はいききょ)」証です。五臓の肺の機能が弱い体質です。肺の機能が弱いために呼吸が浅く、息切れしやすく、また肺の防御機能が弱いためにかぜをひきやすく、肺MAC症にかかりやすい体質です。痰は、薄く水っぽい状態です。肺気を補う漢方薬で肺MAC症を治します。

  • ②肺陰虚

空咳が出て、痰がからんでなかなか切れないようなら、「肺陰虚(はいいんきょ)」証です。五臓の肺の陰液が不足している体質です。肺の粘膜の潤いが足りず、免疫力が低下し、感染症にかかりやすい状態です。血痰、喉の乾燥、口渇、寝汗、微熱などの症状もみられます。漢方薬で肺の陰液を補い、肺MAC症を治します。

  • ③肺気陰両虚

肺気虚と肺陰虚の両方の症状がみられる場合は、「肺気陰両虚(はいきいんりょうきょ)」証です。肺気と肺陰の両方を補う漢方薬で、肺MAC症の治療を進めます。

  • ④肺熱

黄色く粘稠な痰が出るようなら、「肺熱(はいねつ)」証です。五臓の肺に熱邪が侵入するとこの証になり、炎症が生じ、肺MAC症になります。咳、口渇、胸の熱感、後鼻漏もみられます。肺熱を除去する漢方薬で炎症を冷まし、肺MAC症を治療します。

  • ⑤脾気虚

倦怠感や食欲不振を伴うようなら、「脾気虚(ひききょ)」証です。脾は五臓のひとつで、消化吸収や代謝をつかさどり、気血(エネルギーや栄養)の源を生成します。この脾の機能が弱いと、気がじゅうぶん生成されず、免疫力が低下します。さらに脾胃が弱まると肺の機能が低下しやすいため、肺MAC症になります。漢方薬で脾気を強めることにより、肺MAC症の治療を進めます。

ほかにも肺MAC症にみられる証はたくさんあります。証が違えば薬も変わります。自分の証を正確に判断するためには、漢方の専門家のカウンセリングを受けることが、もっとも確実で安心です。

よく使われる漢方薬

  • ①人参養栄湯など

咳や痰のほかに、呼吸が浅い、息切れしやすい、かぜをひきやすい、などの症状がみられる場合は、たとえば、人参養栄湯(にんじんようえいとう)など、肺気虚(はいききょ)証を治療する漢方薬を用います。

  • ②滋陰降火湯、滋陰至宝湯、柴胡桂枝乾姜湯など

空咳が出て、痰がからんでなかなか切れないようなら、たとえば、滋陰降火湯(じいんこうかとう)、滋陰至宝湯(じいんしほうとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)など、肺陰虚(はいいんきょ)証を治療する漢方薬を使います。

  • ③麦門冬湯、竹葉石膏湯など

肺気虚と肺陰虚の両方の症状がみられる場合は、たとえば、麦門冬湯(ばくもんどうとう)、竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)など、肺気陰両虚(はいきいんりょうきょ)証を治療する漢方薬を用います。

  • ④清肺湯など

黄色く粘稠な痰が出るようなら、たとえば、清肺湯(せいはいとう)など、肺熱(はいねつ)証を治療する漢方薬を使います。

  • ⑤六君子湯、参苓白朮散など

倦怠感や食欲不振を伴うようなら、たとえば、六君子湯(りっくんしとう)、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)など、脾気虚(ひききょ)証を治療する漢方薬を用います。

ほかにも肺MAC症を治療する漢方薬は、たくさんあります。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の証(体質や病状)を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで調合しています。

予防/日常生活での注意点

日常生活では、浴室を清潔に保ち、じゅうぶんな換気を行い、乾燥させましょう。庭仕事や家庭菜園ではマスクを着用し、土ぼこりを吸い込まないように注意しましょう。免疫力を高めておくために、日頃から規則正しい生活や、じゅうぶんな睡眠、旬の食材の摂取、適度な運動、深い呼吸なども心がけましょう。

(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)

*執筆・監修者紹介*

幸井俊高 (こうい としたか)

東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社のサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・執筆、好評連載中。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は銀座で営業している。

 

あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。

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当薬局では、まず必要十分な診察(カウンセリング)を行い、その人の体質や病状をしっかりと把握し、それをもとに一人一人に最適な漢方薬を処方しています。

 

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