機能性ディスペプシア

(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高

機能性ディスペプシアが治った − 漢方で不快な症状の根本原因を治療

こちらのページでは、機能性ディスペプシアの漢方治療について解説します。当薬局では、胃の不快な症状の根本原因となる体質そのものを改善することにより、機能性ディスペプシアの根本治療を進めます。根治のためには、胃だけを整えるのではなく、体質から治療することも必要です。

*目次*
機能性ディスペプシアとは
症状
原因
治療
治療(機能性ディスペプシアの漢方治療)
体質別の漢方治療方針
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点

症例紹介ページもあります)

機能性ディスペプシアとは

機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia)は、胃の痛みや胃もたれ、みぞおちのあたり(心窩部といいます)の膨満感など、胃の不快な症状が続くにもかかわらず、内視鏡検査などを行っても異常がみつからない病気です。症状の原因となる明らかな異常や疾患がないのが特徴です。かつては慢性胃炎、ストレス性胃炎などと診断されていましたが、胃に炎症がなくても症状がある場合も多く、症状と炎症が必ずしも関連しないことが明らかになってきています。ディスペプシアは、ギリシャ語で消化不良を意味するそうです。

症状

よくみられる症状には、胃痛、胃もたれ、膨満感のほかに、少し食べただけでおなかいっぱいになる(早期飽満感といいます)、胸やけ、吐き気、げっぷなどがあります。気分の落ち込み、やる気の低下を伴うこともあります。

原因

原因としては、胃の蠕動(ぜんどう)運動や胃酸分泌が関与しています。胃の蠕動運動が弱まると、胃もたれが起こったり、早期満腹感が生じたりします。胃酸分泌過多や胃粘膜の知覚過敏があると、胃痛や胸やけが起こります。胃の動きや胃酸分泌などは自律神経によって調節されているので、自律神経のバランスの乱れが関係しています。暴飲暴食や、過度の飲酒、不規則な生活、喫煙なども関与しています。

治療

治療には、症状を緩和するために胃に直接働きかける対症療法が中心の西洋医学的な方法や、症状を引き起こす根本にある体質そのものを改善する漢方などがあります。根治のためには、胃だけを整えるのではなく、体質から治療することも必要です。

西洋医学では、アコチアミド塩酸塩水和物(商品アコファイド)名やモサプリド(ガスモチン)など胃の蠕動運動を活発にする薬や、H2受容体拮抗薬(ガスターなど)やプロトンポンプ阻害薬(ネキシウムなど)などの胃酸分泌を抑える薬が、症状に合わせて使われます。ピロリ菌除菌が行われる場合もあります。抗不安薬や抗うつ薬も用います。

治療(機能性ディスペプシアの漢方治療)

漢方では、機能性ディスペプシアを、五臓の脾(ひ)や肝(かん)と関係が深い疾患と捉えています。脾は、消化吸収や代謝をつかさどり、気血(エネルギーや栄養)の源を生成します。肝は、からだの諸機能を調節し、情緒を安定させる働きを持ちます。自律神経系と関係が深い臓腑です。

つまり、消化器系の機能をつかさどる脾や、自律神経系と深い関係にある肝の失調が、機能性ディスペプシアの根本にある、というのが漢方の考え方です。したがって漢方では、五臓の脾や肝の機能を整えることにより、機能性ディスペプシアの根治を進めます。

症例紹介ページもあります)

体質別の漢方治療方針

漢方では、患者一人一人の体質に合わせ、五臓の脾や肝の機能を整えるなどして、機能性ディスペプシアを治療します。以下に、機能性ディスペプシアにみられることの多い証(しょう)と漢方薬を紹介します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者一人一人の証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。

  • ①脾気虚

もともと胃腸が丈夫でない場合は、「脾気虚(ひききょ)」証が多いでしょう。脾の機能(脾気)が弱い証です。消化器系の機能が衰えているため、胃もたれ、心窩部の膨満感など、機能性ディスペプシアの症状が表れます。加齢、過労、生活の不摂生、慢性疾患などによっても、この証になります。漢方薬で脾気を強めることにより、機能性ディスペプシアの治療を進めます。

  • ②肝気犯胃

精神的なストレスの影響で胃の蠕動運動が失調しているようなら、よくみられるのは「肝気犯胃(かんきはんい)」証です。肝の機能(肝気)が滞り、その影響で胃の機能(胃気)が失調している証です。胃気が停滞することにより、蠕動運動が失調し、機能性ディスペプシアが生じます。症状は、ストレスの増加や緊張の持続により悪化します。肝気の鬱結を和らげつつ胃気を回復させる漢方薬を用い、機能性ディスペプシアを治します。

  • ③胃陰虚

少し食べただけでおなかいっぱいになる(早期飽満感)、あるいは胃粘膜の知覚過敏が考えられる場合は、「胃陰虚(いいんきょ)」証がよくみられます。胃の陰液(胃陰)が不足している体質です。この場合の陰液は、津液(しんえき:体内の正常な水液)のことです。陰液が少ないために胃粘膜がじゅうぶんに潤わず、知覚過敏になります。飲食物の消化がじゅうぶんできないので、おなかはすくけれども食べられない状態にもなります。胃の陰液を補う漢方薬で、機能性ディスペプシアを治していきます。

  • ④肝鬱気滞

精神的ストレスの影響が大きいと考えられる場合は、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証がよくみられます。五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。自律神経系が乱れ、機能性ディスペプシアが生じます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、機能性ディスペプシアを治していきます。

  • ⑤湿熱

暴飲暴食で、膨満感や吐き気がある場合は、「湿熱(しつねつ)」証が考えられます。湿熱は体内で過剰な湿邪(しつじゃ)と熱邪(ねつじゃ)が結合したものです。脂っこいもの、刺激物、味の濃いもの、生もの、アルコール類の日常的摂取や大量摂取により、この証になります。湿熱を除去する漢方薬で、機能性ディスペプシアの治療をします。

  • ⑥胃寒

同じく暴飲暴食でも、ビールや冷たい飲食物の摂取過多による胃痛や胸やけが生じている場合は、「胃寒(いかん)」証でしょう。寒冷刺激により、寒冷の性質を持つ病邪である寒邪(かんじゃ)が胃に侵入すると、この証になります。寒邪が気血の流れを凝滞させるため、疼痛が生じます。胃が固まって動かないような痛みです。胃を温める漢方薬で、機能性ディスペプシアを治します。

ほかにも機能性ディスペプシアにみられる証はたくさんあります。証が違えば薬も変わります。自分の証を正確に判断するためには、漢方の専門家のカウンセリングを受けることが、もっとも確実で安心です。

よく使われる漢方薬

  • ①四君子湯、六君子湯など

もともと胃腸が丈夫でない場合は、たとえば、四君子湯(しくんしとう)、六君子湯(りっくんしとう)など、脾気虚(ひききょ)証を治療する漢方薬を用います。

  • ②大柴胡湯など

精神的なストレスの影響で胃の蠕動運動が失調しているようなら、たとえば、大柴胡湯(だいさいことう)など、肝気犯胃(かんきはんい)証を治療する漢方薬を使います。

  • ③麦門冬湯など

少し食べただけでおなかいっぱいになる(早期飽満感)、あるいは胃粘膜の知覚過敏が考えられるなら、たとえば、麦門冬湯(ばくもんどうとう)など、胃陰虚(いいんきょ)証を治療する漢方処方を用います。

  • ④四逆散など

精神的ストレスの影響が大きいと考えられる場合は、たとえば、四逆散(しぎゃくさん)など、肝鬱気滞(かんうつきたい)証を治療する漢方薬を使います。

  • ⑤半夏瀉心湯など

暴飲暴食で、膨満感や吐き気がある場合は、たとえば、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)など、湿熱(しつねつ)証を治療する漢方処方を用います。

  • ⑥安中散など

同じく暴飲暴食でも、ビールや冷たい飲食物の摂取過多による胃痛や胸やけが生じている場合は、たとえば、安中散(あんちゅうさん)など、胃寒(いかん)証を治療する漢方薬を用います。

ほかにも機能性ディスペプシアを治療する漢方薬は、たくさんあります。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の証(体質や病状)を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで調合しています。

予防/日常生活での注意点

日常生活では、規則正しい生活や、じゅうぶんな睡眠、適度な運動、禁煙、リラックスで、自律神経のバランスを乱さぬよう注意しましょう。弱った胃の機能を助けるために、食事は腹八分にして、ゆっくりよくかんで、低脂肪の消化のよいものをいただきましょう。逆に、胃酸分泌を促す脂肪分の多い食事や、胃への刺激となるカフェインやアルコールは控えましょう。また、冷たい飲食物などでおなかを冷やさないようにしましょう。

(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)

*執筆・監修者紹介*

幸井俊高 (こうい としたか)

東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。帝国ホテルプラザ東京内「薬石花房 幸福薬局」代表。薬剤師・中医師。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社の一般向けの健康情報サイト「日経グッデイ」や、医師・薬剤師向けの情報サイト「日経DI(ドラッグインフォメーション)」にて長年にわたり漢方コラムを担当・執筆、好評連載中。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。

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