不整脈

不整脈に効く漢方薬

(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高

不整脈の漢方治療について解説します。一般には抗不整脈薬などによる薬物療法やカテーテルアブレーションが行われますが、完治せず、再発することも多い病気です。漢方薬としては炙甘草湯などが使われることがあるようですが、これも体質が合わないと効きません。当薬局では、患者さん一人一人の体質に合わせて漢方薬を処方し、不整脈の根本治療を進めています。

*目次*
不整脈とは
症状
原因
一般的な治療
漢方薬による治療
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点

症例紹介ページもあります)

不整脈とは

不整脈は、脈のリズムや頻度が一定でなくなる状態です。脈が速く打つ頻脈、ゆっくり打つ徐脈、不規則に打つ期外収縮などがあります。

症状

よくみられる症状は、動悸、息切れ、めまい、ふらつき、息苦しさ、胸痛、喉や胸の不快感、血圧の変化などです。心臓の症状なので、不安感や恐怖感も生じます。心配する必要がない程度の不整脈もありますが、症状が強いと、失神や、心不全、脳梗塞、突然死の原因となる場合もあるので注意が必要です。

原因

原因としては、精神的ストレス、睡眠不足、過労、加齢などのほかに、心筋梗塞や心筋症など心臓の疾患や、甲状腺機能の異常がある場合もあります。降圧薬や強心薬などの薬剤の副作用で不整脈が生じることもあります。

一般的な治療

治療には、薬物療法や手術によって症状をコントロールする方法や、体調をととのえて不整脈の根本的な原因を解決し、自然な脈へと導く方法などがあります。西洋医学では、抗不整脈薬、ベータ遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗凝固薬、抗不安薬などによる薬物療法や、カテーテルアブレーション、ペースメーカーを植え込む手術などが行われます。

漢方薬による治療

漢方では、体調をととのえて不整脈の根本的な原因を解決し、自然な脈へと導く方法で不整脈の治療をします。不整脈と関係が深いのは、五臓の心(しん)と、痰飲(たんいん)です。 五臓の心は、心臓を含めた血液循環系を維持する臓腑です。この心の機能が失調すると、血液循環系が不安定になり、脈が乱れ、不整脈になります。

痰飲は、津液(しんえき:体内の正常な水液のことです)が水分代謝の失調などにより異常な水液と化した病理的産物です。体液代謝の失調や低下、食事の不摂生、運動不足などによって生じます。この痰飲が心臓の機能を阻害すると、不整脈が生じます。

したがって漢方では、五臓の心の機能をととのえたり、痰飲を除去したりして、不整脈の治療を進めます。心の機能が安定し、余分な痰飲がなくなれば、脈が安定していきます。

症例紹介ページもあります)

よく使われる漢方薬

漢方では、患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決めます。同じ不整脈という病名でも、体質や病状が違えば効く漢方薬も異なります。一般には炙甘草湯などが使われることがあるようですが、だれにでも効くわけではありません。以下に、不整脈に使われることの多い漢方薬を、みられることの多い体質とともに紹介します。患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。

  • ①三黄瀉心湯

不整脈とともに、いらいらしやすい、怒りっぽい、などの症状がみられるなら、漢方でいう「心火(しんか)」という体質です。過労などにより五臓の心に負担がかかり、心の機能が過度の刺激を受けると、この体質になります。心への負担により心機能が失調すると、不整脈が生じます。三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)など、心火を冷ます漢方薬で、不整脈を治療します。

  • ②桂枝加竜骨牡蛎湯

疲れやすい、不安感などの症状がみられる場合は、漢方でいう「心気虚(しんききょ)」という体質です。五臓の心の機能が低下している体質です。慢性的な体調不良や心身虚弱、疲労の蓄積などにより心の機能が弱まると、この体質になり、不整脈が起こります。桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)などの漢方薬で心の機能を補い、心の機能を強化して不整脈を治療します。

  • ③炙甘草湯

過労や加齢が不整脈に関係しているようなら、「心気陰両虚(しんきいんりょうきょ)」という体質かもしれません。五臓の心の機能と養分の両方が不足している体質です。心労や過労が続くと、あるいは加齢により心に負担がかかり、心の機能と養分を消耗すると、この体質になります。機能低下により動悸や息切れが生じ、養分不足により不眠や焦燥感が生じます。炙甘草湯(しゃかんぞうとう)などの漢方薬で心の機能と養分を補い、不整脈の治療をします。

  • ④温胆湯、半夏厚朴湯

咳、痰、あるいは胃部でちゃぽちゃぽと音がする、などの症状がみられるなら、「痰飲(たんいん)」という体質です。痰飲は、体液代謝の失調や低下、食事の不摂生、運動不足などによって生じる異常な水液です。本来スムーズに流れていてほしい気の通り道を痰飲が邪魔して気の流れがぎこちなくなると、不整脈が生じます。温胆湯(うんたんとう)や半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)など、痰飲を取り除く漢方薬を用い、不整脈の治療にあたります。

  • ⑤苓桂朮甘湯

めまい、呼吸が浅くなる、などの症状がみられるなら、漢方でいう「痰濁上擾(たんだくじょうじょう)」という体質です。痰飲が体を上昇して機能をかき乱しやすい体質です。痰飲が上半身に突き上げてくるため、不整脈が顕著に表れます。痰飲が頭部に充満するため、ふらつき、吐き気、痰、咳、咳き込み、鼻づまりなどの症状もみられます。「擾」は、乱すという意味の漢字です。苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)など、痰飲を下降させて除去する漢方薬で、不整脈を治療します。

  • ⑥半夏瀉心湯

胃腸の不調から不整脈が生じることもよくあります。吐き気など胃から上がってくるような症状がみられるなら、「胃気上逆(いきじょうぎゃく)」という体質です。胃は六腑のひとつで、飲食物の消化吸収をつかさどり、食べたもののうち有用なものを吸収して持ち上げ、残りのかすを下に降ろします。この機能が失調した状態が、この体質です。胃内の痰飲が胃から上逆することにより心に負担がかかり、不整脈が生じます。半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)などの漢方薬を用い、痰飲を下に降ろす機能を回復させ、不整脈を治します。

  • ⑦柴胡加竜骨牡蛎湯、加味逍遙散

憂鬱感、怒りっぽい、などの症状を伴うようなら、「肝火(かんか)」という体質です。体の諸機能を調節する五臓の肝(かん)の機能が、精神的なストレスや緊張の持続の影響によりスムーズに働かなくなると、この体質になります。この体質の場合は、自律神経が乱れることにより、不整脈が生じます。柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や加味逍遙散(かみしょうようさん)などの漢方薬で、肝の機能がスムーズに働くように改善し、不整脈を治療します。

  • ⑧桂枝茯苓丸

不整脈に胸痛を伴う、夜間に症状が増悪しやすい、などの傾向がみられる場合は、漢方でいう「血瘀(けつお)」という体質です。血(けつ:血流に近い概念です)の流れが滞りやすい体質です。血行の悪化により、不整脈が生じます。桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)など、血の流れを促進する漢方薬で血瘀を除去し、不整脈を治療します。

ほかにも不整脈にみられる体質はたくさんあります。体質が違えば薬も変わります。自分の体質を正確に判断するためには、漢方の専門家の診察(カウンセリング)を受けることが、もっとも確実で安心です。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の体質を的確に判断し、その人に最適な漢方薬をオーダーメイドで処方しています。

予防/日常生活での注意点

日常生活では、じゅうぶんな睡眠と規則正しい生活を心がけ、心身を安定させましょう。疲れがたまらないように、しっかり休息をとることも大切です。過度のアルコール摂取や食べ過ぎが不整脈の引き金となることも多いので、暴飲暴食は控えましょう。適度な運動など、ストレスをためない工夫も大切です。

(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)

*執筆・監修者紹介*

幸井俊高 (こうい としたか)

東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を25冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社の医師・薬剤師向けサイト「日経メディカル(日経DI:ドラッグインフォメーション)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・連載・執筆。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル東京内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は東京・銀座で営業している。

あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。

ご相談・ご予約はこちら

関連する記事を読む

自分に合った漢方薬に出会うには

自分の病気を治し、症状を改善してくれる漢方薬は何か。それを判断するためには、その人の自覚症状や舌の状態など、多くの情報が必要です。漢方の場合、同じ病気でも、その人の体質や病状により、使う処方が異なるからです。

 

そのために必要なのが、丁寧な診察(カウンセリング)です。中医師など漢方の専門家がじっくりと話を聴くことにより、あなたの体質を判断し、あなたに最適な処方を決めていくのが、漢方の正当な診察の流れです。

 

そして、その際に最も大切なのは、信頼できる実力派の漢方の専門家の診察を受けることです。
(一般によくみられる、病名と検査結果だけをもとに、漢方が専門でない人が処方を決める方法では、最適の処方を選ぶことができず、治療効果はあまり期待できません。)

 

当薬局では、まず必要十分な診察(カウンセリング)を行い、その人の体質や病状をしっかりと把握し、それをもとに一人一人に最適な漢方薬を処方しています。

 

あなたに最適の漢方薬に出会う秘訣は、信頼できる漢方の専門家の診察(カウンセリング)を受けることです。

カウンセリングスタッフ紹介