おなかにたまるガス(おなら)
おなかにたまるガス(おなら)に効く漢方薬
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
おなかにたまるガス(おなら)の漢方治療について解説します。一般には整腸剤が処方されますが、対症療法ですので、完治せずにいつまでも薬に頼らざるをえなくなることも多い症状です。漢方薬としては大建中湯などが使われることがあるようですが、これも体質が合わないと効きません。当薬局では、患者さん一人一人の体質に合わせて漢方薬を処方し、おなかにたまるガス(おなら)の根本治療を進めています。
*目次*
おなかにたまるガス(おなら)とは
症状
原因
一般的な治療
漢方薬による治療
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点
(症例紹介ページもあります)
おなかにたまるガス(おなら)とは
おなかにガスがたまり、おならなどの症状に悩まされている人は少なくありません。便秘や下痢とも関係してきます。人に話しにくいことかもしれませんが、相談を受けることの少なくない症状のひとつです。
症状
よくみられる症状は、おなかが張る、おならがよく出る、おなかがごろごろ鳴る、腹部の不快感、痛みなどです。おならが臭い、おならが我慢できない、という人もいます。おなか(腸)がごろごろ、ぐるぐる鳴る症状は、腸鳴と呼ばれています。
原因
おなかにガスがたまる原因としては、以下の3つが考えられます。
・口から空気をのみ込む
・腸内でガスが発生する
・ガスがうまく排泄されない
無意識に唾液と一緒に空気を大量にのみ込んでしまう症状は、呑気症(どんきしょう)、あるいは空気嚥下症と呼ばれています。緊張や早食いの習慣により、この症状が生じます。
腸内でのガス発生は、通常の消化活動でも生じていますが、腸内細菌のうちの悪玉菌が多いと、食べたものが発酵したり分解されたりして、さらに多くのガスが発生します。
のみ込んだり腸内で発生したりしたガスの多くは、血液中に吸収されて肺から呼吸で排出されます。しかし食物繊維のとりすぎや、高脂肪、高タンパクの食事を続けるとガスの発生が盛んになり、おなかにたまります。
ストレスにより自律神経系が乱れて胃腸の蠕動運動が低下したり、便秘によりガスが腸内に滞留したりしても、ガスがたまります。デスクワークでおなかが圧迫される姿勢を続けることや、運動不足、冷えが原因となりガスが停滞することもあります。
小腸で腸内細菌が急激に増えてガスが充満することもあります。通常は大腸に比べて腸内細菌が非常に少ない小腸内で腸内細菌が増えると、ガスが発生し、下痢や便秘などの病気の引き金になります。小腸内細菌増殖症(SIBO)という疾患です。小腸の蠕動運動の機能低下や、ストレス、食事の不摂生などにより、食べたものがスムーズに大腸に送られずに小腸に停滞することにより生じます。
一般的な治療
治療には、薬物療法によって腸内環境を整える対症療法や、自律神経系や消化吸収機能を安定させて根本的にガスの発生や停滞を減らす方法があります。西洋医学では、おもに薬物療法が行われます。消化酵素、乳酸菌、ビフィズス菌などの整腸剤で、腸内環境を整えます。過敏性腸症候群や慢性胃腸炎など、ガスがたまる元となる疾患が明らかな場合は、その疾患の治療をします。
漢方薬による治療
漢方では、漢方薬で自律神経系や消化吸収機能を安定させることにより、おなかにたまるガスを解消していきます。とくに関係が深いのは、五臓の肝(かん)と脾(ひ)です。肝は、体の諸機能を調節して情緒を安定させる働きを持ち、自律神経系と関係が深い臓腑です。脾は、消化器系全般の機能を指します。
これら五臓の肝と脾の機能が失調すると、自律神経系や消化吸収機能が乱れ、ガスが停滞しやすくなります。したがって漢方では、おもに五臓の肝と脾の機能をととのえることにより、おなかにたまるガス(おなら)を解消していきます。
(症例紹介ページもあります)
よく使われる漢方薬
漢方では、患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決めます。おなかにたまるガス(おなら)という症状は同じでも、体質や病状が違えば効く漢方薬も異なります。一般には大建中湯などが使われることがあるようですが、だれにでも効くわけではありません。以下に、おなかにたまるガス(おなら)に使われることの多い漢方薬を、みられることの多い体質とともに紹介します。患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。
- ①逍遙散
ストレスや緊張により症状が悪化するようなら、漢方でいう「肝気犯脾(かんきはんぴ)」という体質です。五臓の肝の気の流れが滞り、その影響が脾に及んで脾の機能が失調し、停滞しやすい体質です。ストレスや緊張の影響で胃腸の蠕動運動が失調することにより、おなかにガスがたまります。逍遙散(しょうようさん)などの漢方薬で、肝の気の流れをスムーズにして脾の機能を回復させ、おなかのガスを解消していきます。
- ②藿香正気散
腹痛や軟便などの症状がみられる場合は、漢方でいう「湿困脾胃(しつこんひい)」という体質です。胃は六腑のひとつで、脾と協力して飲食物を消化吸収します。ここに過剰な湿気をともなう病邪(湿邪(しつじゃ)といいます)が侵入すると、脾の機能が阻害され、この体質になり、おなかにガスがたまります。藿香正気散(かっこうしょうきさん)などの漢方薬で、胃腸の湿邪を除去することにより、ガスの停滞を治療します。
- ③茵蔯五苓散
ねっとりとした便、口渇などの症状がみられる場合は、「湿熱(しつねつ)」という体質です。湿熱は体内で過剰な湿気と熱が結合した病邪です。湿っぽい症状や熱を帯びた症状が表れます。脂っこいものや、味の濃いもの、アルコール類の日常的な過剰摂取(暴飲暴食)などにより、この体質になります。湿熱が脾を侵すことにより、おなかにガスがたまります。茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)など、湿熱を除去する漢方薬で、おなかのガスを軽減します。
- ④五積散
冷えるとガスの量が増えるようなら、漢方でいう「寒凝(かんぎょう)」という体質です。冷え症である場合はもちろん、寒冷の環境での仕事や生活、冷たい飲食物の摂取、ファッション重視の薄着などにより、冷えをともなう病邪(寒邪(かんじゃ)といいます)が体内に侵入すると、この体質になります。寒邪が脾の機能を停滞させることにより、おなかにガスがたまります。温めると、症状が軽減します。五積散(ごしゃくさん)など、体内を温めて血行を促進する漢方薬で、おなかのガスを治していきます。
ほかにも、おなかにたまるガス(おなら)が増える体質はたくさんあります。体質が違えば薬も変わります。自分の体質を正確に判断するためには、漢方の専門家の診察(カウンセリング)を受けることが、もっとも確実で安心です。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の体質を的確に判断し、その人に最適な漢方薬をオーダーメイドで処方しています。
予防/日常生活での注意点
日常生活では、野菜や果物、ヨーグルトなどの発酵食品を積極的にとることにより、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えましょう。間食が多いようなら、減らしましょう。運動不足なら、軽い運動や腰のストレッチを心がけましょう。冷え症なら、お風呂や足湯、腰湯でおなかを温めるようにしましょう。じゅうぶんな睡眠をとり、趣味などでストレスを解消することも効果的です。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を25冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社の医師・薬剤師向けサイト「日経メディカル(日経DI:ドラッグインフォメーション)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・連載・執筆。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル東京内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は東京・銀座で営業している。
あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。
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