物忘れ・認知症予防の症例
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
薬石花房 幸福薬局 の漢方治療で認知症が予防できた症例
こちらは症例紹介ページです。物忘れ・認知症予防の解説ページは こちら へどうぞ
■症例1「年とともに物忘れがひどくなってきました。おかげさまで大病を患ってはいませんが、この先、認知症になって周りに迷惑をかけることになるのは避けたく、心配です」
70歳の女性です。杖をつくほどではありませんが、腰や膝が怠く、力が入りません。体が冷えます。頻尿でトイレが近いです。昼間も眠く、よくソファでうとうとします。舌は白く湿っており、その上に白く湿った舌苔が付着しています。
この女性の証は、「腎陽虚(じんようきょ)」証です。腎の陽気が不足している体質です。加齢とともに脳の機能が衰え、さらに冷えが生じてこの証になったようです。
70歳という年齢、腰や膝が怠く力がない、冷え症、頻尿、嗜眠傾向、白く湿った舌、同じく白く湿った舌苔などは、この証の特徴です。ふらつき、耳鳴り、むくみなどの症状がみられることもあります。加齢だけでなく、生活の不摂生、過労、慢性疾患による体力低下などによってもこの証になります。
この証の場合は、漢方薬で腎陽を補い、物忘れを軽減し、認知症を予防します。この女性は漢方薬を服用したところ、次第に手足の冷えや足腰の怠さが減少し、1年後には物忘れが減り、心身ともに若返ったと喜ばれました。
同じく加齢による物忘れで、のぼせ、手足のほてり、寝汗などの熱証を伴うようなら、「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。
■症例2「昇進で責任と仕事量が大幅に増えて過労気味なのに加え、家庭では息子の受験が失敗して心労が重なり、体調が思わしくありません。一番気になるのは、物忘れがひどくなったことです」
仕事は面白く、ストレスはあまり感じませんが、さすがに仕事量が多く、くたびれています。物忘れのほかに、頭がふらつく、頭がぼーっとする、動悸、寝ている間に夢をよくみる、などの症状があります。舌は白っぽい色をしています。
この人の証は、「心血虚(しんけっきょ)」証です。過度の心労や過労が続いたことにより、五臓の心に負担が掛かり、心の機能(心気)を養う心血が消耗している状態です。心血の不足により神志が不安定になり、物忘れ(健忘)などの症状が生じています。
この証の場合は、心血を潤す漢方薬で、物忘れを解消します。漢方薬を服用してもらったところ、2カ月後には頭がさえてきて、ふらついたり、ぼーっとしたりすることが減ってきたのが実感できるまでになりました。半年後には物忘れがすっかり減り、その後、元気に仕事や生活ができています。
心血虚の症状に加え、のぼせ、手のひらや足の裏のほてり、口渇、焦燥感などの熱証もみられるようなら、「心陰虚(しんいんきょ)」証の物忘れです。心の陰液を補い、神志を安定させる漢方薬を用います。
心労や過労が続いて物忘れが気になる心血虚や心陰虚の場合は、認知症の予防目的で漢方薬を飲み続けるという選択肢もあります。
■症例3「物忘れがひどくなりました。ストレスのせいかもしれません。新しい上司とうまが合わず、パワハラを受けていますが、会社を辞めるわけにもいかず、我慢しています。疲れもたまっています」
皆の前で理不尽なことで怒られると、我慢はしますが手足が震えてきます。家にいてもその上司のことを思い出すと手足が震え、引きつりそうになることがあります。今の上司に代わってから、怒りっぽく興奮しやすくなり、部下や家族に怒鳴ることが増え、後から反省し、つらく思います。舌はやや紅色で、白い舌苔が付着しています。
この人の証は、「肝陽化風(かんようかふう)」です。ストレスの影響で肝血が消耗して肝陽が上昇し、肝風が生じてこの証になったと考えられます。肝風が脳を上擾するため、物忘れが生じています。
「筋をつかさどる」肝の機能の失調により生じるふるえ、引きつり、さらに怒りっぽい、興奮しやすい、などは、この証の特徴です。頭痛、めまい、のぼせなどの症状がみられることもあります。
この証には、肝陽を落ち着かせて肝風を和らげる漢方薬で治療や予防をします。この患者は、漢方薬を服用して4カ月ほどで、ふるえが生じなくなりました。その後も服用を続け、9カ月後には怒りっぽい気質も次第に失せ、物忘れもしなくなりました。パワハラについては、会社のしかるべき部署に相談することができました。
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そのほか、高血圧、動脈硬化などの持病があると、将来、脳血管障害(脳卒中)となり、脳血管性の認知症を生じることも考えられます。この場合は、「血瘀(けつお)」証の悪化予防も1つの認知症予防法です。血行を促進する漢方薬を用いて脳血管性認知症の予防をします。
脳血管障害についてはこちらをご覧ください → 脳の病気
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を25冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社の医師・薬剤師向けサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・連載・執筆。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル東京内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は東京・銀座で営業している。
あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。
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