西洋薬・漢方薬の併用でアトピーを治療

薬石花房 幸福薬局 代表 幸井俊高の漢方エッセイ

■■アトピーの「症状」と「原因」■■

アトピー性皮膚炎に悩んで漢方薬局を訪れる人が大勢います。もちろん私の薬局にもたくさんいらっしゃいます。私が書いた文章を読んで漢方に興味をもち、漢方を始める方も少なくありません。

どうしてでしょうか。それは、ひとつには現代医学ではアトピー性皮膚炎をなかなか治せないからです。皮膚科に行くとステロイド外用薬などの塗り薬が処方されます。塗ると確かに症状が緩和されます。皮膚のかゆみが治まり、炎症は抑えられ、ごわごわした皮膚もすべすべしてきます。かゆみを抑える飲み薬が処方されることもあります。いずれも、よく効きます。

しかし、よくなったからといって薬を使うのをやめると、また炎症やかゆみなどの症状が現れてきます。するとまた同じような薬が処方されることになります。

アトピー性皮膚炎の人は、このようなことを繰り返し経験してきています。そのうち、あれほど効いていたステロイド剤があまり効かなくなる人もいます。西洋医学に限界を感じて民間療法を始める人もいます。

漢方薬局に来る人には、このような体験を重ねてきた人たちが少なくありません。結局なにをやってもアトピー性皮膚炎がよくならずに、漢方を試してみようということになります。

――漢方だとアトピーが改善されるのかしら。

アトピー性皮膚炎による皮膚のかゆみや炎症というのは、病気の「症状」です。何かほかに「原因」があって、その結果として炎症やかゆみなどの「症状」が現れているのです。症状を薬で抑えるだけでは、病気を治しているとはいえません。必ず再発します。かゆみや炎症の「原因」は、たとえば肌が乾燥しやすい体質、あるいは皮膚が敏感な体質、などにあります。これが、病気の根本的な「原因」です。つまり、これらの体質が改善されない限り、病気の原因は存在し続けるわけです。その結果、症状としての炎症やかゆみは、消えることはありません。

ステロイド剤は、「症状」を抑える薬です。タクロリムス(商品名プロトピック)も、そうです。いずれも、私たちのからだに備わる免疫力を抑制することにより、炎症を抑え、皮膚炎を軽減してくれます。

漢方薬の場合、症状を抑える力はステロイド剤などの西洋医薬には及びません。しかし漢方にはアトピー体質そのものを改善していく力があります。そのため、漢方で症状が軽快してきたならば、再発することが少ないのが特徴です。薬の副作用やリバウンドの危険などの点でも、漢方のほうが安全です。漢方は、アトピー性皮膚炎の「原因」を取り除いていく薬といえます。

ただし漢方薬も薬ですので、全員が百パーセント改善されるというものではありません。数カ月で漢方もステロイドも必要なくなる人もいますが、1年以上かかってようやく改善し始める人、あるいは1年たってもなかなか改善されない人もいます。また漢方を続けているうちにアトピー体質が改善され、ステロイド剤をつかう頻度がずいぶん減った、今では保湿剤だけで十分になった、という人も大勢います。


■■三つの角度でアトピー治療■■

アトピー性皮膚炎の人には、皮膚の乾燥とバリア機構の低下がみられます。バリア機構とは、環境の刺激に対して身体を守るという皮膚の働きです。その、デリケートで敏感になっている皮膚に、ほこりやあせ、排気ガスなどの外的な刺激、あるいはストレスや緊張、不摂生な生活、偏食などの内的な要因が作用して炎症を引き起こしているのが、アトピー性皮膚炎です。

さらに悪いことに、炎症そのものがバリア機構の働きをますます低下させてしまいます。また、かゆみによって皮膚をかきこわすことにより、バリア機構はさらに破壊され、皮膚炎が悪化することになります。この悪循環を断たないと、アトピー性皮膚炎はなかなか治りません。

じゅうたんや布団にたくさんいるダニがアトピー性皮膚炎の原因の槍玉にあがることがよくあります。しかし、ダニに対するスクラッチ・パッチテストをすると、普通の人でもおよそ三割の人が陽性となります。つまりダニのたんぱく質に対して皮膚がアレルギー反応を起こすこと自体は、めずらしいことではありません。しかし正常な場合はバリア機構が働いているため、皮膚炎にならずに暮らしているのです。ダニなどの環境因子だけがアトピー性皮膚炎の原因ではないということです。むしろダニやほこりは、アトピー性皮膚炎を引き起こす「引き金」といえます。体質など内的な要因の影響も大きいのです。

以上より、アトピー性皮膚炎の根本的治療のためには、次の三つの角度が必要です。
(1) かゆみや炎症などの「症状」を緩和する
(2)アトピー体質という根本「原因」を治療する
(3) 症状を悪化させる「引き金」を除去する


■■アトピー治療の具体的な対応策■■

――具体的にはどのような治療がいいのかしら。

まず(1)の「症状」の緩和のためには、炎症やかゆみを抑える力の強い西洋医薬が一番いいでしょう。かゆみからの一時的解放による心の落ち着きや、かゆみを忘れて十分な睡眠を得て抵抗力をつけるためにも大切です。その代表的な薬が、副腎皮質ホルモンつまりステロイドの外用薬です。

皮膚炎などの炎症というのは、そもそも外部からの刺激に対して、それの侵入を防ぎ、身体を守る反応です。つまり、からだにとって好ましくないものが、からだに悪影響を与えるのを防御するために起こっているのが炎症です。まったく正常な防御反応です。この防御反応の主要な担い手が免疫です。

ところがこの免疫が、ときとして過剰に反応することがあります。そうなると、もともと無害なものに対しても反応し、炎症を起こすことになります。これがアレルギー反応です。アトピー性皮膚炎の人には、この体質が根底にあります。

ステロイド剤やタクロリムスは、この免疫という機能を抑制することにより、炎症を抑える薬です。ですから、よく効きます。ただしよく知られているように、必要以上に強いステロイド剤を、だらだらと長期にわたって塗っていると、副作用が出ます。皮膚炎が治りにくくなることもあります。上手に使えばさほど神経質になることもありませんが、必要があってステロイドを使用する場合は、細心の注意を払って使用してほしいと思います。

(2)の根本「原因」の治療には、漢方薬による体質改善と、生活習慣の見直しが一番です。漢方は、ひとりひとりの体質や皮膚炎の状態を詳しくみてアトピー体質そのものを改善し、再発を防止することを目的としています。からだの内側から、しっとりとした肌を作り、しっかりしたバリア機構をもつ皮膚を構築していきます。

(3)の、症状を悪化させる「引き金」の除去とは、皮膚に悪さをする要因を遠ざけるということです。ハウスダストやダニ、乾燥、あせ、いらいら、過度の飲酒など、皮膚炎を悪化させ、かゆみを増す要因はたくさんあります。それらは、アトピー性皮膚炎の根本原因ではなく、アトピーの症状を悪化させる「引き金」です。この引き金があると、治療の途中でも、デリケートな皮膚が敏感に反応し、皮膚炎を悪化させます。そこでまた悪循環が始まり、治療が長引くことになります。体質改善を早くすすめ、症状の悪化を最小限に抑える、そのために必要なのが、この「引き金」の除去です。

今回は、アトピー性皮膚炎の基本的な説明で誌面がつきました。実際にどのような症例があり、漢方薬でどのようにアトピー体質を改善していくのかは、また別の機会にお話します。

病気の苦しみは、「症状」から来ます。苦悩の元は、かゆみや痛みなどの症状です。したがって、多少の副作用があっても症状を抑える薬が必要な場合もあります。ただし根本的な「原因」をなくさないと、病気が治ったとはいえません。

基本的には、「症状」を緩和するための対症療法として西洋医薬を最小限使い、同時に漢方薬でアトピー体質を改善して病気の根本「原因」を治していく、というのが現実的な選択肢のひとつだと思います。漢方薬で体質が改善されるまでは「引き金」を遠ざけることも欠かせないでしょう。

西洋医学と漢方、それぞれの医学に得意分野と苦手分野があります。それらをよく理解して、自分の病気の治療に必要なものを判断してほしいと思います。

あなたに合った漢方薬がどれかは、あなたの体質により異なります。自分にあった漢方薬が何かを知るには、漢方の専門家に相談し、自分の体質にあった漢方薬を選ぶようにするのがいいでしょう。

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自分に合った漢方薬に出会うには

自分の病気を治し、症状を改善してくれる漢方薬は何か。それを判断するためには、その人の自覚症状や舌の状態など、多くの情報が必要です。漢方の場合、同じ病気でも、その人の体質や病状により、使う処方が異なるからです。

 

そのために必要なのが、丁寧な診察(カウンセリング)です。中医師など漢方の専門家がじっくりと話を聴くことにより、あなたの体質を判断し、あなたに最適な処方を決めていくのが、漢方の正当な診察の流れです。

 

そして、その際に最も大切なのは、信頼できる実力派の漢方の専門家の診察を受けることです。
(一般によくみられる、病名と検査結果だけをもとに、漢方が専門でない人が処方を決める方法では、最適の処方を選ぶことができず、治療効果はあまり期待できません。)

 

当薬局では、まず必要十分な診察(カウンセリング)を行い、その人の体質や病状をしっかりと把握し、それをもとに一人一人に最適な漢方薬を処方しています。

 

あなたに最適の漢方薬に出会う秘訣は、信頼できる漢方の専門家の診察(カウンセリング)を受けることです。

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