味覚障害(症例)

(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高

味覚が戻った – 味覚障害の漢方治療の成功例

こちらは、味覚障害を漢方で治療した症例を紹介するページです。漢方では、脾胃の機能失調を治療するなどして、味覚障害の根本治療を進めます。このページでは、いくつかの成功例を紹介します。

漢方では、患者一人一人の証(しょう)に合わせて、処方を判断します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者一人一人の証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。

(こちらは症例紹介ページです。解説ページはこちら

症例1  熱感を伴う味覚障害が治った

「味を感じなくなりました。香辛料のきいた料理ならまだ少し味を感じますが、薄味はほとんど感じ取れません」

味覚障害になったのはいつの頃からかわかりませんが、気がつけば昔ほど味を感じなくなっていました。舌や口の中が乾燥し、熱っぽい感じがあります。汗をよくかきます。昔から味の濃いものや脂っこいもの、アルコール類が好きでした。舌は紅く、黄色い舌苔が付着しています。

この人の証は、「胃熱(いねつ)」です。胃から上部の消化器官に熱邪が停滞している証です。これまでの食習慣により形成された熱邪が舌を侵し、味覚障害になったのでしょう。舌や口腔内の乾燥や熱感、多汗、紅い舌、黄色い舌苔などは、この証の特徴です。

この証の場合は、胃熱を冷ます漢方薬を用い、味覚障害を治療します。この患者さんには、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)を服用してもらいました。服用を始めて2か月後、まだ味覚が戻ってきた実感はありませんが、口の中の乾燥感や熱感が改善してきました。5か月後、味覚が少し戻ってきました。8か月後、かなり味覚が戻り、食事がおいしく感じるようになりました。

同じように舌に熱感がある場合でも、過労や心労による熱感で、不眠や不安感を伴うようなら、「心火(しんか)」証です。黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などを用います。

症例2  吐き気を伴う味覚障害が治った

「味の感じ方が鈍くなりました。何を食べても、嫌な味に感じます」

舌に違和感や痛みを感じることもあります。胃は昔から丈夫ではないほうで、つかえ感や不快感があり、むかむかして吐き気が生じることが多く、げっぷがよく出ます。舌には、淡黄色の舌苔がべっとりと厚く付着しています。

この患者さんの証は、「胃気上逆(いきじょうぎゃく)」です。胃の不調により溜まった胃内の痰飲が胃から上逆して胃気を失調させ、味覚が低下したのでしょう。

この体質の場合は、胃気を降逆して痰飲を除去する漢方薬を用い、味覚障害を治します。この患者さんには、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)を服用してもらいました。服用を始めて1か月後、吐き気やげっぷが減ってきました。3か月後、味覚が戻ってきた実感はまだありませんが、胃の不快感がほとんどなくなりました。その後少しずつ味覚の回復を感じるようになり、7か月後には、おいしいものがおいしいと感じられるようになりました。

痰が多く、咳も出るようなら、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などを使います。さらに、ストレスに弱い、疲れやすい、などの症状も伴う場合は、柴朴湯(さいぼくとう)などを用います。

かぜをひいたあとに、吐き気などとともに味覚障害が生じることがあります。小柴胡湯(しょうさいことう)などで味覚を回復させます。

症例3  苦味を感じる味覚障害の治療

「口の中に何もないときでも苦味を感じます。本当は甘いはずのものも、甘みの中に苦味を感じます」

味覚障害になったのは1年くらい前からだと思います。ちょうど強いストレスを感じるようになった頃で、憂鬱感や、いらいら、頭痛を感じることも増えました。舌は紅く、黄色い舌苔が厚くべっとりと付着しています。

この患者さんの証は、「肝火(かんか)」です。ストレスにより肝気がスムーズに働かなくなり、熱邪を生んで味覚障害が引き起こされたようです。憂鬱感、いらいら、頭痛、紅い舌、黄色い舌苔などは、この証の特徴です。

この証の場合は、漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、味覚障害を治療します。この患者さんには、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)を服用してもらいました。1か月後、早くも苦味が軽くなってきました。3か月後、頭痛が消えました。4か月後、過剰な苦味はほとんど感じなくなりました。相変わらず強いストレスを感じる状況は変わりませんが、いらいらすることも減りました。

同じように強いストレスが引き金になり味覚障害になった場合でも、疲れやすい、食欲不振、腹部膨満感などの症状を伴うようなら、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を用います。

(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)

*執筆・監修者紹介*

幸井俊高 (こうい としたか)

東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社のサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・執筆、好評連載中。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は銀座で営業している。

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