味覚障害

(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高

味覚が戻った – 漢方で正常な味覚を取り戻す

こちらのページでは、味覚障害の漢方治療について解説します。当薬局では、味覚障害の根本原因となる脾胃の機能失調を治療するなどして、味覚障害の根本治療を進めます。

*目次*
味覚障害とは
症状
原因
治療
治療(味覚障害の漢方治療)
体質別の漢方治療方針
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点

症例紹介ページもあります)

味覚障害とは

味覚障害は、食べ物の味がしない、味が薄く感じる、など、本来とは違う味の感じ方をする症状です。新型コロナウイルス感染症の症状として注目されるようになりましたが、以前から味覚障害に悩む人は少なくありません。

症状

症状としては、味がまったくしない場合や、味を薄く感じる場合のほかに、特定の味、たとえば苦味だけを強く感じる、あるいは弱く感じる、あるいは本来の味とは異なる味を感じるというケースもあります。徐々に味覚が低下することが多いため、気づかないうちに味覚障害が進行していることもあります。

味覚障害になると食事がおいしく感じられないため、食欲がわかず、低栄養になる場合もあります。味を薄く感じるので調味料を使いすぎ、糖尿病や高血圧、生活習慣病になる可能性もあります。

原因

味覚障害は、脳疾患や肝疾患、認知症などによっても生じます。ほかにも、貧血、ドライマウス、消化器疾患、腎疾患、糖尿病、甲状腺疾患、顔面神経麻痺、鬱病、降圧剤や糖尿病薬の副作用でも味覚障害が起こります。また、ストレス、加齢、亜鉛不足、唾液の不足、咀嚼力の低下などでも生じます。味は舌で感知し、神経を通じて脳に伝わり、認識されますが、この経路のどこかに異常が起こると味覚障害が起きると考えられています。亜鉛が欠乏すると味蕾(みらい:舌の上面などに存在する味覚の受容器)の機能が低下するために味覚障害が生じます。また味蕾は加齢とともに減少します。極端なダイエットやファーストフードの普及による味覚障害も懸念されます。

治療

さまざまな治療法がありますが、西洋医学では、原因疾患が明らかな場合は、その治療を優先します。薬剤の副作用が考えられる場合は、原因薬剤を減量、中止します。薬物療法としては、亜鉛製剤やサプリメント、ビタミン剤、向精神薬、唾液分泌促進薬などが使われます。

治療(味覚障害の漢方治療)

漢方では味覚障害を、五臓六腑の脾胃や、熱邪と関係が深い疾患と捉え、治療しています。脾胃の機能が失調したり、舌が熱邪に侵されたりすると、味覚障害が起こります。

胃は六腑のひとつで、西洋医学でいう胃だけでなく、小腸などの消化器官すべてを含めた概念です。胃は脾とともに飲食物の消化吸収をつかさどり、食べたもののうち人体に有用なものを吸収し、残りのかすを下に降ろします。味覚障害と関係が深い舌も、ここに含まれます。

熱邪は病気の原因(病因)のひとつで、自然界の火熱により生じる現象に似た症状を引き起こす病邪です。

したがって漢方では、脾胃の機能を正常化したり熱邪を除去したりして、味覚障害の治療をします。

症例紹介ページもあります)

体質別の漢方治療方針

漢方では、患者一人一人の体質に合わせ、脾胃の機能をととのえたり、熱邪を除去したりして、味覚障害を治療します。以下に、味覚障害にみられることの多い証(しょう)と漢方薬を紹介します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者一人一人の証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。

  • ①脾気虚

味覚障害のベースにあるのは、「脾気虚(ひききょ)」証です。消化管の機能低下により、味覚を感じる機能も低下します。加齢、過労、生活の不摂生、慢性疾患などにより脾気を消耗すると、この証になります。漢方薬で脾気を強めることにより、味覚障害の治療を進めます。

  • ②胃熱

舌の乾燥やドライマウス、舌や口腔内の熱感があるようなら、「胃熱(いねつ)」証です。胃から上部の消化器官に熱邪が停滞している証です。熱邪が舌を侵すことにより、味覚障害が起こります。胃熱を冷ます漢方薬で味覚障害を治療します。

  • ③胃陰虚

舌や口腔内、口唇の乾燥が顕著なら、「胃陰虚(いいんきょ)」証です。胃の陰液(胃陰)が不足している体質です。陰液が少ないために相対的に熱が余り、その熱邪の影響で味覚が低下します。胃の陰液を補う漢方薬で、味覚障害を治していきます。

  • ④胃気上逆

味覚障害に加えて、吐き気、げっぷなどの症状がみられるようなら、「胃気上逆(いきじょうぎゃく)」証です。胃内の痰飲が胃から上逆して吐き気、げっぷ、しゃっくり、悪心、味覚障害、舌の痛みなどの症状が生じます。胃気を降逆して痰飲を除去する漢方薬で、味覚障害を治します。

  • ⑤肝火

口の中が苦く感じるようなら、「肝火(かんか)」証です。からだの諸機能を調節し、情緒を安定させる働きを持つ五臓の肝の機能が、精神的なストレスや緊張の持続などの影響によりスムーズに働かなくなり鬱滞して熱邪を生み、この証になります。熱邪の影響で味覚障害が生じます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、味覚障害を治療します。

  • ⑥心火

舌に熱感や痛みがあるようなら、「心火(しんか)」証です。心は五臓のひとつです。過度の心労、思い悩み過ぎ、過労が続くことなどにより、心に負担がかかり、心の機能が過度の刺激を受けて亢進すると、この証になります。心火により舌の機能が侵され、味覚障害が起こります。心火を冷ます漢方薬で、味覚障害を治療します。

ほかにも味覚障害にみられる証はたくさんあります。証が違えば薬も変わります。自分の証を正確に判断するためには、漢方の専門家のカウンセリングを受けることが、もっとも確実で安心です。

よく使われる漢方薬

  • ①補中益気湯など

味覚障害のベースにある脾気虚(ひききょ)証を治療したい場合は、たとえば、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など、脾気を強める漢方薬を用います。

  • ②白虎加人参湯など

舌の乾燥やドライマウス、舌や口腔内の熱感があるようなら、たとえば、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)など、胃熱(いねつ)証を治療する漢方薬を使います。

  • ③麦門冬湯など

舌や口腔内、口唇の乾燥が顕著なら、たとえば、麦門冬湯(ばくもんどうとう)など、胃陰虚(いいんきょ)証を治療する漢方薬を用います。

  • ④半夏瀉心湯、小柴胡湯、半夏厚朴湯、柴朴湯など

味覚障害に加えて、吐き気、げっぷなどの症状がみられるようなら、たとえば、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、柴朴湯(さいぼくとう)、小柴胡湯(しょうさいことう)など、胃気上逆(いきじょうぎゃく)証を治療する漢方薬を使います。

  • ⑤柴胡加竜骨牡蛎湯、竜胆瀉肝湯など

口の中が苦く感じるようなら、たとえば、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)など、肝火(かんか)証を治療する漢方薬を用います。

  • ⑥黄連解毒湯など

舌に熱感や痛みがあるようなら、たとえば、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)など、心火(しんか)証を治療する漢方薬を使います。

ほかにも味覚障害を治療する漢方薬は、たくさんあります。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の証(体質や病状)を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで調合しています。

予防/日常生活での注意点

日常生活では、亜鉛をじゅうぶんに取るようにしましょう。牡蠣、レバー、赤身の肉、納豆などに多くの亜鉛が含まれています。じゅうぶんな睡眠も大切です。かぜをひいて味覚が低下する場合もあるので、かぜをひかないように注意しましょう。喫煙は大敵です。

(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)

*執筆・監修者紹介*

幸井俊高 (こうい としたか)

東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。帝国ホテルプラザ東京内「薬石花房 幸福薬局」代表。薬剤師・中医師。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社サイト「日経グッデイ」「日経DI(ドラッグインフォメーション)」にて漢方コラムを好評連載中。中国、台湾など海外での出版も多い。

あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。

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