舌痛症

(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高

舌痛症が治った ー 漢方で痛みの根本原因を排除

こちらのページでは、舌痛症の漢方治療について解説します。当薬局では、痛みの根本原因となる病邪を除去することにより、舌痛症の根本治療を進めます。

*目次*
舌痛症とは
症状
原因
治療
治療(舌痛症の漢方治療)
体質別の漢方治療方針
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点

症例紹介ページもあります)

舌痛症とは

舌痛症は、舌に痛みが生じる疾患です。痛みに加えて、不快な感覚が繰り返し生じることもあります。多くは中高年の女性に発症します。痛みが口腔内の広い範囲に生じることもあり、これは口腔内灼熱症候群(バーニングマウス症候群)と呼ばれています。舌痛症は、口腔内灼熱症候群の一種です。

とくにまったく検査などで異常がみられない舌痛症は、一次性舌痛症とも呼ばれています。それに対し、背景に、糖尿病や、シェーグレン症候群、貧血、口腔内が乾燥する薬剤の服用などの要因がある場合は、二次性舌痛症と呼ばれます。口内炎、口腔カンジダ症、口腔乾燥症、舌癌など、舌に明らかな炎症や潰瘍がある場合は、そちらの病変が疾患名となりますので、舌痛症とは診断されません。

症状

症状は、ヒリヒリと焼けるような痛み、ピリピリした痛み、チクチクと刺されるような痛み、カーッとした痛み、痺れるような感覚など、さまざまです。舌の先端が痛んだり、舌の左右が痛んだり、痛む場所もさまざまです。痛みは安静時に増悪し、食事や会話など、何かほかに集中しているときには痛みを忘れることが多いようです。寝ているあいだも痛みません。味覚障害や、口腔内の乾燥感を伴う場合もあります。

原因

舌痛症は、舌に明らかな病変がないのが特徴です。舌痛症の原因は、今までのところ分かっていないようです。閉経前後以降の女性に多くみられることから、性ホルモンなどの内分泌機能異常、あるいはストレスなどの心因的な要因、免疫系の異常、あるいは脳内伝達物質の異常などが関係しているのではないかと考えられています。

治療

舌の痛みや不快感を対症療法的に取り除きたい場合は西洋医学、根本的に治療したい場合は漢方が適しています。

西洋医学では、原因が解明されていないこともあり、対症療法で治療にあたります。おもに、抗うつ薬や、抗けいれん薬、抗てんかん薬などが使われます。不安を緩和する目的で認知行動療法が行われる場合もあります。

治療(舌痛症の漢方治療)

漢方では、舌痛症を熱邪(ねつじゃ)と関係が深い疾患と捉え、治療しています。熱邪は病気の原因(病因)のひとつで、自然界の火熱により生じる現象に似た症状を引き起こす病邪です。患部の発赤、熱感などの炎症症状や、疼痛、化膿、発熱、悪寒、充血、口渇、いらいら、不眠、出血などの症状がみられます。舌痛症の痛みは、多くの場合、この熱邪による痛みです。

熱邪には二つのタイプがあります。熱邪の勢いが盛んになって生じる実熱(じつねつ)と、熱を冷ますのに必要とされる陰液が不足しているために(陰虚)、相対的に熱邪が強まって生じる虚熱(きょねつ)です。陰虚証の場合、唾液の分泌が減り、口の中が乾燥します。口の中が乾燥すると、口腔内の粘膜が炎症を起こしやすくなり、痛みを感じやすくなります。辛い味などに過敏に反応するようにもなります。

したがって漢方では、熱邪を除去するなどして、舌痛症を治療します。実熱の場合は熱邪を冷まし、虚熱の場合は陰液を補うことにより熱邪を治療するため、漢方では熱邪が実熱か虚熱かより、処方を使い分けて治療を進めます。

症例紹介ページもあります)

体質別の漢方治療方針

漢方では、患者一人一人の体質に合わせて熱邪を除去し、舌痛症を治療します。以下に、舌痛症にみられることの多い証(しょう)と漢方薬を紹介します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者ひとりひとりの証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。

  • ①胃熱

舌にヒリヒリとした灼熱痛があり、とくに舌の中央部で痛みが強いようなら、「胃熱(いねつ)」証です。胃から上部の消化器官に熱邪が停滞している証です。胃は六腑のひとつで、五臓の脾とともに飲食物の消化吸収をつかさどり、食べたもののうち人体に有用なもの(清)を吸収して持ち上げ(昇清)、残りのかす(濁)を下に降ろします(降濁)。この胃の機能が熱邪により障害を受けているのが、この証です。胃から上部の消化器官で炎症を起こしやすい体質です。刺激物や、脂っこいもの、味の濃いものをたくさん食べたり、あるいはアルコール類を多飲したりすると、それらが原因で熱邪が生じて胃熱となります。実熱タイプです。胃熱を冷ます漢方薬で舌痛症を治療します。

  • ②胃陰虚

舌の痛みとともに、口の渇き、口唇の乾燥やひび割れ、舌苔の剥離などがみられるようなら、「胃陰虚(いいんきょ)」証です。胃の陰液(胃陰)が不足している体質です。陰液とは人体の基本的な構成成分のうちの血・津液・精のことです。陰液が少ないために相対的に熱が余り(虚熱)、胸やけ、口臭、心窩部の鈍痛、吐き気なども生じます。胃の陰液を補う漢方薬で、舌痛症を治していきます。

  • ③胃気上逆

舌の痛みに加えて、吐き気、げっぷ(噯気:あいき)、しゃっくり(吃逆:きつぎゃく)などの症状がみられるようなら、「胃気上逆(いきじょうぎゃく)」証です。胃の降濁機能が失調した状態です。胃気逆(いきぎゃく)証ともいいます。胃内の痰飲が胃から上逆して吐き気、げっぷ、しゃっくり、悪心、舌の痛みなどの症状が生じます。胃気を降逆して痰飲を除去する漢方薬で、舌痛症を治します。

  • ④肝火

舌の左右の側面が痛み、口の中が苦く感じるようなら、「肝火(かんか)」証です。からだの諸機能を調節し、情緒を安定させる働き(疏泄:そせつ)を持つ五臓の肝の機能(肝気)が、精神的なストレスや緊張の持続、感情の起伏などの影響によりスムーズに働かなくなり鬱滞し、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証となって熱邪を生み、この証になります。肝は自律神経系と関係が深い臓腑です。実熱タイプです。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、舌痛症を治療します。

  • ⑤肝陰虚

舌の痛みに加えて、頭がふらつく、目が疲れやすい、目がかすむ、まぶたがぴくぴくひきつる、口や喉が渇く、などの症状がみられる場合は、「肝陰虚(かんいんきょ)」証です。肝の陰液(肝陰)が不足している体質です。慢性疾患や、ストレス、緊張の持続、激しい感情の起伏などの影響で陰液が消耗すると、この証になります。虚熱タイプです。肝の陰液を補う漢方薬で、舌痛症を治療します。

  • ⑥心火

舌の先端に熱感を伴う痛みが顕著なら、「心火(しんか)」証です。心は五臓のひとつで、心臓を含めた血液循環系(血脈)と、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動(神志:しんし)をつかさどる臓腑です。大脳新皮質など高次の神経系や自律神経系と深い関係にあります。過度の心労、思い悩み過ぎ、過労が続くことなどにより心に負担がかかり、心の機能(心気)が過度の刺激を受けて亢進すると、この証になります。実熱タイプです。心火を冷ます漢方薬で、舌痛症を治療します。

  • ⑦心陰虚

舌の痛みに加え、不安感が強く、口や喉が渇きやすいようなら、「心陰虚(しんいんきょ)」証です。心の陰液(心陰)が不足している体質が、この証です。加齢によりこの証になる場合もあります。不眠、夢をよくみる、驚きやすい、不安感、悲しい、健忘などの症状に加え、のぼせ、手のひらや足のうらのほてり、焦燥感、口渇、喉が渇く、寝汗など、虚熱による熱証があらわれます。漢方薬で心陰を補い、舌痛症の治療をします。

ほかにも舌痛症にみられる証はたくさんあります。証が違えば薬も変わります。自分の証を正確に判断するためには、漢方の専門家のカウンセリングを受けることが、もっとも確実で安心です。

よく使われる漢方薬

  • ①白虎加人参湯など

舌にヒリヒリとした灼熱痛があり、とくに舌の中央部で痛みが強いようなら、たとえば、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)など、「胃熱(いねつ)」証を治療する漢方薬を用います。

  • ②麦門冬湯など

舌の痛みとともに、口の渇き、口唇の乾燥やひび割れ、舌苔の剥離などがみられるようなら、たとえば、麦門冬湯(ばくもんどうとう)など、「胃陰虚(いいんきょ)」証を治療する漢方薬を使います。

  • ③半夏瀉心湯、半夏厚朴湯、柴朴湯など

舌の痛みに加えて、吐き気、げっぷ(噯気:あいき)、しゃっくり(吃逆:きつぎゃく)などの症状がみられるようなら、たとえば、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、柴朴湯(さいぼくとう)など、「胃気上逆(いきじょうぎゃく)」証を治療する漢方薬で、舌痛症を治します。

  • ④柴胡加竜骨牡蛎湯など

舌の左右の側面が痛み、口の中が苦く感じるようなら、たとえば、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)など、「肝火(かんか)」証を治療する漢方薬を用います。

  • ⑤杞菊地黄丸など

舌の痛みに加えて、頭がふらつく、目が疲れやすい、目がかすむ、まぶたがぴくぴくひきつる、口や喉が渇く、などの症状がみられる場合は、たとえば、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)など、「肝陰虚(かんいんきょ)」証を治療する漢方薬が効果的です。

  • ⑥黄連解毒湯など

舌の先端に熱感を伴う痛みが顕著なら、たとえば、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)など、「心火(しんか)」証を治療する漢方薬を用います。

  • ⑦炙甘草湯など

舌の痛みに加え、不安感が強く、口や喉が渇きやすいようなら、たとえば、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)など、「心陰虚(しんいんきょ)」証を治療する漢方薬で、舌痛症の治療をします。

  • ⑧六君子湯、十全大補湯、補中益気湯など

舌痛症の背景にある脾胃の機能低下や貧血を治療するために、六君子湯(りっくんしとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などが使われる場合もあります。

  • ⑨立効散など

患者の証に関係なく漢方薬が使われることもあります。たとえば、歯痛や頭痛などの頭面部の痛みに対して対症療法的に使われることがある立効散(りっこうさん)が、舌痛症に有効な場合もあります。立効散には、表面麻酔効果、鎮痛作用、抗炎症作用があります。ただしこの場合の立効散は対症療法薬なので、炎症による疼痛以外に対しては、根治に向けて患者の証に合わせた別の処方が必要です。

  • ⑩五苓散など

口の渇きを癒すために五苓散(ごれいさん)を用いて舌痛症に対処する場合もあるようですが、これも対症療法であり、根本治療に向けては患者の証に合わせた処方を組む必要があります。

ほかにも舌痛症を治療する漢方薬は、たくさんあります。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の証(体質や病状)を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで調合しています。

予防/日常生活での注意点

予防に向けては、ストレスをためない生活を心がけ、じゅうぶん睡眠をとり、適度な運動を習慣づけ、規則正しい生活を送ることが大切です。貧血が関与している場合もみられますので、旬の新鮮な食材をいただく、など食生活の改善もしましょう。亜鉛の欠乏が関係しているとの説もありますので、亜鉛含有量の多い肉類や魚介類、とくに牡蠣、帆立、鰻、牛レバーなどの摂取不足があるようなら、改善しましょう。慢性疾患に罹患している場合や、不安や抑うつ症状が強い場合は、それらの治療をすることがすすめられます。

(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)

*執筆・監修者紹介*

幸井俊高  (こうい としたか)

東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。帝国ホテルプラザ東京内「薬石花房 幸福薬局」代表。薬剤師・中医師。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)、『舌をみれば病気がわかる』(河出書房新社)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。『舌をみれば病気がわかる』は中国・台湾でも翻訳・出版されている。日本経済新聞社サイト「日経グッデイ」「日経DI(ドラッグインフォメーション)」にて漢方コラムを好評連載中。

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