皮膚を漢方で科学する
幸井俊高執筆 薬石花房 幸福薬局 の漢方エッセイ・・・漢方薬による美肌づくり
■■お肌の科学的構造■■
人体をおおっている皮膚というものは、さまざまな環境変化や刺激から、私たちのからだを守ってくれています。温度変化や紫外線、乾燥やほこり、ばい菌やウイルスなど、さまざまな要因が人体に悪影響を及ぼすのを防いでいます。
また逆に、皮膚は体内の水分が蒸発していくのを防ぐ働きもしています。私たちのからだのなかで、水は全体の約70パーセントを占めます。栄養や酸素は水によって全身に運ばれますし、体内の各組織や細胞は水に満たされて初めて正常に機能できます。水がなくなると私たちのからだは干上がり、ミイラのようになります。
つまり私たちのからだは、皮膚という袋の中で安心して生命活動を営むことができているといえます。
当たり前といえば当たり前の話ですが、このように、皮膚は私たちの生命にとって重要な働きをしています。そして皮膚は、それらの目的にかなうように、実にすばらしい構造をしています。
――科学的にはどのような構造なのかしら。
まず皮膚の一番外側には角質層という膜があります。これは薄くなった細胞が数層、積み重なったもので、パイ生地のような構造です。ケラチンとよばれる硬いたんぱく質でできています。角質層の厚みは20ミクロン程度しかなく、食品を保存するときに使うラップほどの薄さですが、この角質層が、体内の水分が蒸発していくのを防いでくれています。さらにばい菌やウイルスが体内に入ろうとするのも防いでいます。
角質層はいかにも丈夫なようですが、それでもかいたりすりむいたりすると傷つきやすく、微生物やほこりなどの刺激物が皮膚から侵入しやすくなります。したがって角質層はどんどん新しくつくられなければなりません。
角質層の内側には、角質層をつくる細胞があります。これらの細胞の層と角質層とをあわせて「表皮」といいます。角質になる細胞は、表皮のいちばん下でつくられ、外へ外へと押し上げられ、その過程で薄く層状になって最後に角質層になります。
角質層の細胞は、もはやケラチンのかたまりであり、いわば細胞の死骸です。最後は、あかやふけとして、はがれ落ちます。その量は、ふつうの人で一日におよそ6~14グラムになります。とくにあかやふけが多いと感じていない人でも、目に見えないくらいの細かさで、それくらいは剥離しているということです。
――あかやふけは不潔でいやだわ。
角質層は傷つきやすく、また雑菌や刺激物が付着しやすいものです。いつまでも同じ角質層を完璧なまま維持することはできません。
そこで毎日、新しい角質層がつくられて下から押し上げられてきて、古い角質層は役目を終えて、はがれ落ちるのです。あかやふけは、皮膚が健全に保たれている証拠です。
ちなみに、表皮の細胞の寿命は約4週間です。表皮のいちばん底で生まれてから角質層に達するまで約2週間、それからケラチンのかたまりとなって私たちの肉体を守り、最後にあかやふけとしてはがれ落ちるまでさらに約2週間です。
表皮には、この角質層をつくる細胞以外に、メラニン産生細胞と免疫細胞とがあります。メラニン産生細胞はメラニン色素をつくって周りの細胞に配り、太陽の紫外線が体内に入るのを防ぎます。紫外線は遺伝子を損傷したり、がん化の原因になったりしますので、それを防衛する役割を担います。また免疫細胞は、角質層を通りぬけて体内に侵入しようとする物質をつかまえる役目を果たします。
以上のように表皮は、外部からの異物の侵入を懸命に防いで、体内の組織を守ってくれています。
なお外部からの刺激を受けやすい手のひらと足の裏では角質層が厚くなっています。
表皮の下にあるのは、「真皮」という層です。真皮は表皮の数倍の厚みがあり、繊維たんぱく質のコラーゲンが全体の約90パーセントを占めます。これにより、皮膚の弾力性や強さ、潤いが保たれます。
真皮には毛細血管が網の目のように張りめぐらされており、体温の調節や、表皮への栄養補給も行われます。痛い、熱い、などの感覚や触覚をつかさどる神経細胞も、この真皮にあります。汗腺、脂腺、毛包も、ここに存在します。
真皮の奥にあるのは、「皮下組織」です。皮下組織は、その内側にある筋肉や骨と、その外側にある真皮とをゆるく結合しています。皮下脂肪といわれるとおり脂肪細胞が豊富に存在し、保温や栄養貯蔵、そして外界からの衝撃をやわらげるクッションの役目も果たします。
以上の表皮、真皮、皮下組織が皮膚の構造です。そしてもうひとつ、肌について考えるときに大切なのが「皮脂膜」です。
肌の表面には、たえず汗と皮脂とが少しずつ分泌されており、これらが混ざり合って皮脂膜が作られています。いわば天然のクリームです。皮脂膜は皮膚の乾燥を防いで潤いを保ったり、外界の刺激から角質層を守ったりします。また弱酸性ですので雑菌の侵入や繁殖を抑える殺菌効果もあります。
このように、皮膚の機能が正常に働いていると、私たちのからだは皮膚に守られ、安定した生命活動を営むことができます。ところがこの皮膚のバリアとしての機能が弱くなったり、あるいは免疫系に異常が生じたりすると、皮膚は炎症を起こしたり細菌に感染したりして、さまざまな皮膚の病気にかかることになります。
■■肌の不調・・・漢方で科学すると■■
皮膚には、上記のような私たちのからだを守る働き以外に、もっとも人目にふれる美容器官としての役割もあります。とくに病気というわけではないけれども肌荒れに困っている、という人は大勢います。たとえば乾燥しやすい、脂っぽい、赤くなりやすい、汗が出やすい、かゆくなりやすい、抜け毛が増えた、目のくまが消えない、肌がくすみやすい、などです。
漢方は、このような病気ではない症状、いわば半健康状態に対しても効果があります。それは、漢方が病気の「症状」だけに着目するのではなく、その奥にある体質やバランスの変調などの根本「原因」にも注目するからです。
慢性的な病気に対しても、漢方は「原因」に重点をおきます。西洋医学では、たとえば湿疹に対しては抗炎症薬、アレルギーに対しては抗アレルギー薬、アトピー性皮膚炎に対してはステロイドなどの免疫抑制剤、と「抗」や「抑制」という字のついた薬を用いて「症状」を抑えるのが一般的です。それに対して漢方では、それら炎症やアレルギー、過剰な免疫反応などが起こった根本「原因」、つまり体質の変化やバランスの失調を改善していく方向で改善を進めるのです。
西洋医学は病気になってから、漢方は病気になる前に、手立てを考えます。ですから、病気になる前の半健康状態の改善に、漢方は力を発揮するのです。漢方ではこれを「未病を治す」といいます。病気になる前に病気の根本原因である体質の悪化やバランスの崩れを調えていこうということです。
■■では美肌には何が大切か■■
それでは漢方では、皮膚の構造や、皮膚のもつバリアとしての働きなどを、どのようにとらえているのでしょうか。
それは、気や血の流れ、五臓六腑の機能など、からだ全体の体調と関連させて、皮膚の健康状態を把握しようとしているのです。たとえば気や血が不足すると、肌つやがなくなり、顔色がくすみ、目のくまが消えにくくなります。
――では気と血を補う生薬をいただきたいわ。
気や血の流れは、ひとりひとり違います。気と血を補う生薬さえ飲んでいれば、だれでも美肌が維持できるわけではありません。場合によっては、補いすぎて肌の状態を悪化させることもあります。たとえば髪の質が衰えてきたので気と血を補ったところ、顔のにきびが悪化した、などです。漢方は、その人の体調や体質に合わせた処方が必要となります。
いろいろなケースのさらに具体的な内容については、他の関連ページ等をご参照ください。
あなたに合った漢方薬がどれかは、あなたの体質により異なります。自分にあった漢方薬が何かを知るには、漢方の専門家に相談し、自分の体質にあった漢方薬を選ぶようにするのがいいでしょう。→当薬局について
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