からだの中から乾燥肌に潤いを
幸井俊高執筆・・・薬石花房 幸福薬局 の症例をもとにした漢方エッセイ
■■いつのまにか、私も乾燥肌■■
化粧品会社に勤める28歳の女性の悩みは、乾燥肌です。一年を通じて肌は乾燥するほうで、顔はいつもかさかさしています。とくに会社に就職してからひどくなったように思います。職場の空調も関係しているかもしれません。
乾燥は、顔ばかりではありません。秋冬の乾燥した季節には、下着があたる部分や柔らかいところなども乾燥してかゆくなります。ひどいときには、腕や足などが魚のうろこのような感じになります。
冷え症も悩みの種です。とくに手足の末端が冷え、夏もクーラーのおかげで体調を崩しがちです。ただし顔は乾燥のせいかほてりやすく、すぐ赤くなります。
――昔は乾燥肌で悩むことなどなかったのに。
私たちのからだは、皮膚で全身をおおわれています。皮膚は、私たちの肉体を、外部環境の刺激から守ってくれています。
皮膚の表面は、一番外側にある角層に含まれる水分と、皮膚の表面に広がる皮脂とによって守られています。この皮膚が、乾燥した外気にさらされ続けたり、あるいは体内から供給される水分が不足したりすると、肌は乾燥し、かさかさしてきます。
肌は、職場や家などの外部環境だけでなく、からだの中の状態にも大きく影響を受けます。
■■肌の乾燥は体内の不調から■■
体内の栄養状態がよくなくて乾燥肌におちいる場合もあります。
証券会社に勤める31歳の女性は、肌の悩みでカウンセリングに来ました。顔のつやがなくなったり、肌の張りが衰えたり、化粧をしないときの顔色がくすんで見えたり、年のせいといわれればそれまででしょうが、このところ肌の若々しさが急に失われてきたようで気になります。目の下のくまも、目立つようになりました。
その中でもとくに気になるのが乾燥肌です。とにかく肌がかさかさします。ざらざらした感じです。そのせいか肌のきめも粗く、化粧品ののりもよくありません。タバコを吸うせいかもしれません。
体調はまずまずですが、疲れやすく、仕事においても私生活においても、やる気や集中力が少なくなりました。なんとなく、ぼうっとする感じです。生理は安定していますが、下腹部から腰にかけて重い感じの生理痛があります。生理前には必ず頭が痛くなります。慢性的な肩こりも悩みの種です。
――あきらめるしかないのかしら。
あきらめることはありません。もちろん今から十代の素肌を取り戻すというのは無理な相談ですが、年相応の肌に近づけることは、ある程度可能です。
二十代後半から三十代にかけて多くみられるのは、肌の栄養不足です。この女性の場合も、そうです。年齢のほかに、食事の内容や取り方、運動不足、精神的なストレス、生活環境、疲れ、寝不足、冷えなどの要因が、肌の栄養不足をまねきます。
皮膚の栄養状態がわるくなると、肌の潤いが失われていきます。顔色がくすんだり、顔の色つやがわるくなったり、肌の張りが衰えたりします。
肌の栄養失調は、血行とも関係しています。血行がよくないと、栄養が肌までじゅうぶん運ばれないからです。そうなると、目の周りにくまができたり、肌が乾燥したりします。水分が足りなくて「かさかさ」するというよりは、栄養が足りなくて「がさがさ」する、という感じの乾燥肌です。
血行がわるくなると、素肌だけではなく、髪の質もわるくなります。髪の毛が細くなったり、抜け毛が目立つようになったりします。つめが割れやすくなったり、つめに縦や横の線が目立つようになったりもします。
また血行が悪化すると、肩こりや頭痛、生理痛、集中力の低下、眠りが浅くなるなどの症状も出てきます。先の女性は、まさにこのタイプです。
こういう場合は、全身に栄養をいきわたらせるような方向で体質改善をしていきます。具体的には、熟地黄や補骨脂、益智仁など栄養や機能を補う(必殺技①)生薬に、血行を改善する(必殺技③)番紅花などの生薬を配合したものがいいでしょう。
現在、6カ月ほど漢方を続けていますが、肌の色つやや潤いがよくなってきたようです。肩こりや生理痛はすっかりなくなりました。からだ全体の調子がいいので、もう少し漢方を続けたいとのことです。
なおタバコは血行を悪化させるので、肌の老化とも深い関係があると話したところ、漢方を始めるのを機会に、すっかりタバコをやめたようです。
■■栄養不足も乾燥のもと■■
生理前にむくみが顕在化する人も多いようです。また足ではなく、顔がむくむという人も少なくありません。むくみにもさまざまなタイプがあり、それぞれのむくみに、その人特有の体調悪化が隠されています。
31歳の女性は、家電メーカーに勤務しています。生理前に体調が悪化する、いわゆる月経前症候群(PMS)が悩みです。いらいら、落ち込みなどの情緒不安定も激しいのですが、生理前には、からだ全体が水分を含んだようにむくみます。身体が重だるく、不快です。それで余計にいらいらがつのります。
生理が始まるとPMSの諸症状はおさまりますが、それでも朝起きると顔がはれぼったい日がときどきあります。疲れているときに多いようです。
婦人科にも行きました。PMSの症状軽減のためにホルモン療法を行いました。しかし効果は治療を始めてから数カ月間のみで、治療後はホルモンバランスも元にもどり、生理前のつらい症状も、戻ってきました。
――体質から改善できないかしら。
生理前には女性ホルモンのバランスが大きく変化するため、それが体調の変化に影響してくることがあります。体調の悪化をまったく感じない人もいますが、この女性のように心身の状態が大きく変動してしまう人もいます。
毎月のことですので、あまりにつらいようでしたら、なにがしかの対応をしたいものです。
生理前のホルモンバランスの変化そのものは、女性にとって、まことに自然なことです。これが敏感に体調の悪化に結びついてしまうところに、問題があります。
漢方では、おもに五臓六腑の「肝」と「腎」のバランスを調えることにより、生理前の体調悪化に対応していきます。肝・腎は、自律神経系やホルモンバランスとの関係が深いので、PMSに漢方は効果的です。
さらに腎は泌尿器系とも関与しており、体内の水分コントロールに重要な役割を果たしています。もし腎の機能が弱くなると、余分な水分が体内にたまりやすくなり、むくみが生じます。とくに顔がむくみます。まぶたが朝、はれぼったく感じられます。
この女性の場合も、漢方で腎の機能を整え(必殺技4)、余分な水分を捨てて(必殺技2)むくみ体質を改善していきました。使用した生薬は、熟地黄、沢瀉、赤小豆、車前子などです。
■■乾燥肌とアトピーとの関係■■
乾燥肌は、アトピー性皮膚炎とも関係があります。皮膚が乾燥して弱くなり、そのせいで、外部環境から身を守るという皮膚の防御機能が弱くなります。その結果、環境からの刺激に敏感に反応しすぎるようになります。
こうなると、汗やほこり、皮膚の汚れなどに対してすぐに反応し、かゆくなったり赤くなったりします。秋冬の乾燥した空気に対しても敏感に反応し、かゆくなります。こうしてアトピー性皮膚炎になっていく人は、少なくありません。化粧品などの刺激に対してもすぐ反応するので、あまりお化粧も楽しめません。
一般にはステロイド外用薬などで炎症やかゆみを抑えることになりますが、これは症状を抑えているだけで、根本的な治療ではありません。症状が治まったからといってステロイドを塗るのをやめると、またそのうちかゆみや炎症が出てきます。
子どものころからアトピーという人が多いのですが、大人になってからアトピーになったという人も、実は少なくありません。そういう人たちには、このような乾燥肌で敏感肌という体質が関係している場合が多いと思われます。
漢方では、この乾燥肌や敏感肌の体質改善をすすめることにより、アトピー性皮膚炎の根本的な改善をしていくケースも少なくありません。アトピー性皮膚炎の漢方での改善については、また別の機会に説明します。
最後に、乾燥肌予防のための日常生活の注意点について書いておきます。まず食事ですが、基本的にはバランスよく食べること、とくに外食が多い人は意識して野菜を多くとることです。また、夜遅くの飲食をひかえることも大切です。
その他、タバコをひかえる、睡眠時間や食事の時刻など規則正しい生活を心がけるなど、自分の肌を自分で守る努力が最低限必要となります。
(幸井俊高執筆 VOCE掲載記事をもとにしています)
あなたに合った漢方薬がどれかは、あなたの体質により異なります。自分にあった漢方薬が何かを知るには、漢方の専門家に相談し、自分の体質にあった漢方薬を選ぶようにするのがいいでしょう。
★ 漢方道・四つの必殺技 ★
「補う」・・・ 足りない元気や潤いは、漢方薬で補いましょう。
「捨てる」 ・・・体にたまった余分なものは、漢方薬で捨てましょう。
「サラサラ流す」 ・・・漢方の力で血液や気をサラサラ流し、キレイな体内を維持しましょう。
「バランスを調える」・・・内臓機能のバランス・心身のバランス・ホルモンのバランス - 漢方の得意技はバランスの調整にあり。
- 美肌の敵、体質の悪化とは (ストーリー)
- 内臓のちからで美肌をつくる (ストーリー)
- 気・血・津液で、美肌をつくる (ストーリー)
- きれいな素肌は、きれいな胃腸から (ストーリー)
- 肌荒れ・乾燥肌 (病気・症状)
- 皮膚の病気・トラブル (病気・症状)