自律神経失調症は、からだの発する黄信号

幸井俊高執筆・・・薬石花房 幸福薬局(東京 帝国ホテル内の漢方相談薬局)の症例をもとにした漢方ストーリー 

1人の女性が自律神経失調症を漢方で克服する過程を物語風に描いています。症例は筆者の経験をもとにしていますが、登場人物は実在の人物とは関係ありません。


■■検査をしても「異常なし」?■■


厚子はフランス料理店で働いている。ガイドブックでも評判の高級店だ。仕事はホールでのサービス、つまりウェイトレスをしている。

このレストラン、店員に対してなかなか厳しいところがある。

たとえば以前働いていた店では、店の看板メニューをときどき店員が食べる機会があった。研究あるいは味見と称して、お客さんに出すのと同じ料理を食べていた。たしかにそれはそれで勉強になると思っていた。

しかし今の店ではそういうことがない。店で出す料理をウェイトレスが口にする機会はない。ホールのサービス係はシェフから料理の材料やレシピを聞き、その味や舌触りを教えられ、それを覚えてお客さんに笑顔でお伝えするだけである。実際に食べたければ自分が休みの日に客として店に来て、他のお客さんと同じように支払って食べるしか方法はない。

週末には貸し切りで結婚披露宴が行われることも多く、表向きは華やかな職場だけれど裏方は厳しいものだと思い、少し不満を感じていた。

同じ飲食業の人に、将来独立して一緒に店を持てたらいいなと思う彼がいる。そのためには厳しいながらも人気の高級店で勉強しなければと思い、がんばっていた。

でも健康面で少し不安があった。仕事がきついせいかもしれないが、頭痛やめまい、冷えのぼせ、胃のもたれ、便秘と下痢の繰り返しなどの症状があり、かなりつらかった。生理も不安定になった。

最近では寝つきがわるくなり、気になるので病院に行ってみた。いろいろと検査をしたがとくに異常はなく、自律神経失調症といわれて精神安定剤や睡眠導入剤が処方された。やっぱり今の店、厳しすぎるのかなと思った。

そんなある日、店の厳しさについて彼に話したことがある。彼はホテルのバーでバーテンダーの修行中だ。まだ裏方の仕事ばかりをやらされているので、わかってもらえると思った。その彼が言った。

「そんなこと、プロだったら当たり前だよ」

亮太の反応に、ちょっと驚いた。

「俺だって、先輩の作ったカクテルを飲ませてもらうことなんてないよ。ホテルのレストランの厨房で働く同期のやつだって、いまだに味見もさせてもらえないって言ってたよ」

「亮太のところも厳しいのね」

「一流になるためには、もっと大事なことをまず身につけないといけない、ということじゃないのかなあ」

「なるほどね」

「俺の場合だと、おいしいカクテルを作るための必要最低条件は正確な計量と手早い完成。これができないとお客さんの前に立つことも許されない。厚子なんか、もう黒服着てホールに出てるんだろ。うらやましいよ」

彼によると、たまに先輩に「30ml量ってみろ」と言われるらしい。そこでウィスキーのボトルから直接シェーカーに30mlと思われる量の酒をどぼどぼと入れる。シェーカーはステンレスだから中が見えないので、まったく自分の勘で入れることになる。そしてそれを先輩がメジャーカップに移し替え、30mlかどうか確認するのだそうだ。

さてそれが見事に30mlだったらOK、かと思いきや、それを連続10回繰り返し、10回全部ぴたりと30mlで、ようやく合格なのだそうだ。そうやって正確な計量と手早い完成という技量を身につけていくようだ。

「簡単そうに見える仕事でも丁寧に確実にこなす、そしてプロならばミスは許されない、そういう高い職業意識がホテルのバーで育っているように感じるね」

「亮太、勉強してるわね」

「仕事は裏方ばかりだけれど、耳を澄ませばいろいろ見えてくる。バーテンダーとしてお客さんに喜んでもらえることは何かないかと思って見渡せば、グラスの水、棚のほこりなど、やらなきゃいけないことがどんどん見えてくるよ」

彼のほうがずいぶんしっかりしている。自分もがんばらなきゃ。まずは体調管理も大事。そうだ、友だちの彩子がやせすぎの悩みを漢方で解決し、とても元気になった。こんなに体調がわるいのに病院で「異常なし」なのだったら、わたしも漢方を試してみようと決めた。


■■自律神経の失調は、からだが発する黄信号■■


彩子が通っていた漢方薬局で、厚子は自分の体調不良について詳しく話した。漢方の先生がにこやかに話を聞いてくださるので、気がつけば30分以上も話していた。

自律神経失調症というのは自律神経のバランスが乱れる病気とのこと。自律神経は心臓の拍動、呼吸、消化吸収など、生きるために必要な機能を遂行し調整する機能のひとつで、交感神経と副交感神経とのバランスによってうまく調整されているそうだ。

ところがこの自律神経系がストレスや緊張、疲労、ホルモンバランスの変化などの影響を受けて乱れる場合があり、そうするとさまざまな体調不良が生じる。

「自律神経の失調は、からだが発する悲鳴です。ストレスや疲労の蓄積にからだが耐えきれず、その歪みが諸症状となって現れます。赤信号になる一歩手前の、いわば黄信号のようなものです」

「つらい症状を緩和するのも必要ですが、そういうことに気づいて自分のからだをいたわることも大切ですね」

「そのためには耳を澄ますことが大事です。体調不良があるときに、その症状だけにとらわれず、からだが発する黄信号に耳を澄ませ、具合がわるくなった根本原因を改善していくことを忘れてはいけません」

わたしの場合は、毎日の仕事で蓄積した疲労のうえにストレスがかかって自律神経のバランスが乱れた状態なので、そのあたりのバランスを調整する漢方薬を飲むことになった(漢方道の必殺技④)。


■■耳を澄ます■■


漢方薬の効果は3ヵ月目くらいから現れた。めまいや頭痛に悩まされることもなくなり、胃腸の調子もよく、夜もぐっすり眠れるようになった。生理も安定した。

ある日、亮太と二人で一流ホテルのフランス料理レストランに出かけた。お互いなかなか休みが取れないので、久しぶりのデートである。先月はわたしの誕生日もあったがその日も遅くまで働き、結局誕生日のお祝いも延び延びになっていた。

食事も終盤になり、そろそろデザートというころに、ホテルの方が皿を持ってテーブルに近づき、「きょうはどなたかのお誕生日ですか?」と言った。びっくりして皿を見るとケーキとフルーツが盛ってあり、皿の縁に「Happy Birthday」とチョコレートで描かれていた。亮太と二人で驚いていると、「いや、お誕生日おめでとう、というお話をされているのがちょっと聞こえてきましたので」とホテルの方が教えてくれた。じつは先月なんですが、と話をすると、「それはおめでとうございます」と言って、そのデザート皿をテーブルに置き、記念の写真も撮ってくれた。とてもうれしかった。

さすが一流ホテル、心のこもった仕事をするものだ。言われたことを確実にこなすにとどまらず、周囲に気を配り、お客様のために仕事をしているということが常に意識できているのだと思った。

「耳を澄ますって大事なことね」

「厚子のいるレストランだって、耳を澄ませばシェフや先輩たちの気合いやお客さんへの情熱を感じるんじゃないかな。自分たちの出す料理はお客さんに喜んでいただくためのものであり、そのために自分たちは最高の料理とサービスを提供しているんだ、という自負と自信があるからね。だから店員がだらだらと客と同じものを同じ食器で食べているようでは客に対して失礼。そんなことお客さんからは見えないけれども、そういう心がけが味にもサービスにも出てくるものだしね」

亮太のプロ意識もたいしたものだと思う。耳を澄ませて、いろいろ考えて働いている。仕事に対しても自分の健康に対しても、耳を澄ませて丁寧に行動する。わたしも見習わなくては。

(幸井俊高執筆 「VOCE」掲載記事をもとにしています)

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