自律神経もプライベートも漢方で好転

幸井俊高執筆・・・薬石花房 幸福薬局(東京 帝国ホテル内の漢方相談薬局)の症例をもとにした漢方ストーリー 

1人の女性が自律神経失調症を漢方で克服する過程を物語風に描いています。症例は筆者の経験をもとにしていますが、登場人物は実在の人物とは関係ありません。


■■体調がわるいのに検査結果は「異常なし」■■


「ごめんね、こんな店しかなくて」

喫茶店のドアを開けて、女が客を連れて入ってきた。

"こんな店"でわるかったわね。

多恵子は苦々しく思いながら、皿を洗う手を休めず、顔も挙げずに「いらっしゃいませ」と無愛想な声を出した。きっと感じのわるい店だと女は思ったことだろう。

「あいてるお席へどうぞ」

女と客が多恵子からできるだけ遠ざかるように一番奥のテーブルについたのを確認してから、カウンターに座っていた亮二が顔を少し多恵子に近づけて小声で話しかけた。

「だめじゃないですか、そんな対応しちゃ」

亮二はこの春、隣町の大学院に進学し、この街にやってきた。多恵子より5歳若い。学校がヒマなのか、春休みが終わったあとも、しょっちゅうこの店に来ている。

多恵子は半年ほど前からこの喫茶店を任されている。この店を営んでいた親戚が、家族の都合でしばらく外国に行かなくてはならなくなり、だれか代わりにこの店をという話が出たときに、OL生活に嫌気がさしていた多恵子が、自分がやる、と手を挙げ、とんとん拍子で話が決まり、いまの状態になった。

喫茶店の経営なんて楽しそうだわ、と会社を辞めて半年。現実はきびしい。この古びた店では多恵子が思い描く店づくりもままならず、ストレスがたまる。客も増えない。理想と現実のギャップに悩み、毎日いらいらしている。怒りっぽくもなった。そして、気に入らない客には無愛想に振る舞ってしまう。ますます客が減る。

数か月前から体調もよくない。重い頭痛が続く。むかむかと吐き気もある。時折めまいもする。

原因はストレスに決まっている。

前触れもなく動悸がすることもある。ひどいと胸の圧迫感に襲われ、冷や汗が出る。夜もなかなか寝つけない。胃の調子も下降気味で、先日とうとう嘔吐した。生理も規則正しく来なくなった。いつの間にか病気のデパートのような状態である。

さすがに心配になり、病院に行った。動悸が気になるので循環器科、頭が痛いので脳神経外科、生理不順なので婦人科、吐き気が収まらないので内科。しかしどこへ行っても検査で異常はみつからず、「異常なし」の診断。結局、「まあ、自律神経失調症でしょう」とのことで抗不安薬が処方された。飲めば少しは落ち着くが、飲むのをやめると諸症状が再発する。

「それだったら多恵子さん、漢方薬を飲んでみれば?」

いつの間にかそんな自分の体調のことまで話すようになっていた多恵子に、亮二がカウンターの向こうから心配そうにそう言った。

「漢方薬?」

「そう。おれの姉ちゃんが、めまいを漢方薬で治したよ」

亮二によると、漢方薬はからだ全体のバランスを調えるので、症状がたくさんあっても大丈夫だそうだ。さっそく亮二のお姉さんの清美さんが通っていた漢方薬局に行ってみることにした。


■■自律神経失調症に効く漢方■■


漢方薬局では、最初のカウンセリングで漢方の先生が多恵子の症状を詳しく聞いた。多恵子は体調がわるいのに「異常なし」というのが不安でもあり、先生にしゃべりまくった。話したいことをひとつ残らず伝えたあと、先生が言った。

「それはやっぱり自律神経失調症ということになるでしょうね」

自律神経失調症というのは、自律神経のバランスが崩れてさまざまな症状が出る病気。実際に内臓がわるくなっているわけではないので、病院の検査で異常がみつからないことは多い。

「やっぱりそうですか」

多恵子は少しがっかりした。

「でも大丈夫。薬はあります」

「こんなに症状がたくさんあるんですけど、大丈夫なんですか」

「漢方思考のひとつに、"現状を甘受する"というのがあります」

「甘受、ですか」

「甘受とは、現状をまずそのまま受け止めるということです。まず現状を甘受して、そこからよりよい方向を目指せばいい、という考え方です。たとえば多恵子さんのお仕事の場合ですと、自分の店はこんなに古いんだ、こんなに小さいんだ、という現実を認識するところから始まります」

「でも、それがストレスの種なんですけど」

「そうですね、この時点で、なんてダメなんだろうと落ち込んだり、とにかく頑張らなきゃと焦ったり、いらいらしたりすることもあると思います」

「まさにそういう状態です」

「そういうときに、そういうマイナス感情も含めて、いったん受け入れるんです」

「頭ごなしにマイナス感情をよくないことと決めつけなくてもいいのですね」

「全部受け入れると、店が古いことや小さいことが、そんなにわるいことではないと思えてきます。実際、古くて小さな喫茶店で繁盛しているところもあるわけですから」

なるほど、たしかにおっしゃるとおりかもしれない。

「漢方の場合も、まず患者さんの現在の状態を全部受け入れるところから始まります。そこから患者さんの体質を判断し、処方を決めていきます。現状の認識が不十分だと処方を間違えます。現状をいかに冷静に正確に把握できるかが鍵です」

その日から多恵子は自律神経系と、ついでにホルモンバランスも調える漢方薬(漢方道の必殺技④)を飲むこととなった。漢方の先生と話をしただけで、気持ちが楽になった。漢方薬、効きそうな気がする。


■■まずは現状を甘受して■■


漢方薬を飲み始めてすぐ胃の調子が良くなった。吐き気がなくなり、すっきりする。これだけでもうれしい。ほっとしたせいもあるのか、夜も眠りやすくなってきた。

夏になった。漢方を飲み出して3か月。最近は動悸もなくなった。胸の圧迫感や冷や汗も出ない。

しかし頭痛とめまいはまだある。完全に健康な人と比べれば、まだまだ不健康だと思う。でも春先の自分と比べれば、体調はずいぶん良くなった。これが漢方の先生が言う「まず現状を甘受して、そこからよりよい方向を目指せばいい」ということなんだろう。

それにしても漢方はずっと同じ処方なのに、困った症状が次々と消えていく。おもしろいものだ。

亮二のほうは夏休みに入り、相変わらず学業がヒマそうなのでバイトに来てもらうことにした。けっこう客商売が好きみたいで、愛想よく注文を取ったり、店のレイアウトを変えたり、店の外の花壇の土をいじったりしている。この前は入口のところに風鈴をつけてくれた。

そのうち喫茶店の客が増えてきた。亮二のおかげで、古ぼけた雰囲気がなくなっていった。

「店も、その漢方の先生が言うように、まず現状を甘受して、そこからよりよい方向を目指せばいいんじゃないの?」

窓をせっせと拭きながら、亮二が生意気なことを言う。若いくせに。でも、うれしい。

先日、春先に無愛想に対応してしまった女性を街で見かけた。多恵子の店に来ることはもうないが、この街にはいるようだ。あのときは申し訳ないことをしたと反省する。

秋になり、喫茶店は引き続き繁盛している。亮二は店の照明を変えてくれた。コーヒーカップから立つ湯気が光に当たり、温かい雰囲気になる。いまでも「ごめんね、こんな店しかなくて」と言って入ってくるお客もいるが、もう気にならない。多恵子は爽やかな笑顔で「いらっしゃいませ」とお客を招き入れる。

冬になった。最近は頭痛もめまいもすっかりなくなった。生理も規則正しく来るようになった。

亮二はクリスマスの飾り付けを楽しそうにやっている。おかげでこの喫茶店、去年とは見違えるほど魅力的だ。最近すっかり体調がいいのは、このあたりの変化もあるのかもしれない。都会の高級店と比べれば田舎くさいけど、現状を甘受して、そこからよりよい方向を目指した結果だ。

ある日、入口のドアにつけたカウベルの音とともに、あの女性が入ってきた。ドキッとした。でもその女性は多恵子のことを意識せず、うしろから来る友人たちに声をかけた。

「ほら、ここよ。いいお店でしょ」

亮二も気がついたようで、びっくりした様子でこちらを見たが、すぐに笑顔で出迎えた。

「いらっしゃいませ!」

多恵子と亮二の声が自然と重なり合った。

みんな、ありがとう。これからも、現状を甘受して、「ありがとう」の言葉を忘れないで生きていこう。

(幸井俊高執筆 「VOCE」掲載記事をもとにしています)

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