がん(癌):放射線治療と漢方薬の併用
放射線治療と漢方薬の併用
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
がんの放射線治療と漢方薬の併用について解説します。漢方薬としては人参養栄湯や大建中湯などが使われることがあるようですが、体質や病状に合わないと効きません。当薬局では、患者さん一人一人の体質や病状に合わせて漢方薬を処方し、放射線治療との併用を行なっています。
*目次*
放射線治療と漢方薬の併用
症状
原因
一般的な治療
漢方薬による治療
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点
(症例紹介ページもあります)
放射線治療と漢方薬の併用

がんの放射線治療は、がんに放射線を当て、がん細胞を破壊し、がんを小さくしたり消滅させたりする治療法です。患部に放射線を照射することにより、がん細胞内の遺伝子にダメージを与え、がん細胞を死滅させます。痛みやしびれを緩和するために放射線治療が行われる場合もあります。
放射線治療は、抗がん剤治療が全身の細胞に作用するのに対し、手術と同様、局所的にがん細胞を攻撃します。しかし、放射線はがん細胞だけでなく周囲の正常な細胞をも攻撃するため、副作用(悪影響)が出ることがあります。
こういう場合、漢方薬は、漢方薬によるがん治療と並行し、放射線治療による副作用の軽減のためにも用いられます。
症状
放射線治療は局所的にがん細胞を破壊する力を持っていますが、同時に正常細胞に対しても作用するため、副作用や後遺症といった悪影響を及ぼすことがあります。みられることが多い副作用には、脱力感、疲労倦怠感、貧血、食欲不振、吐き気、皮膚の炎症(紅斑、痒みなど)や乾燥、白血球や血小板の減少などがあります。放射線の照射部位によっては、口渇、口内炎、頻尿、排尿痛、腹痛、出血、下痢、血便、脱毛、浮腫なども生じます。
原因
上記のような放射線治療による副作用が生じる原因は、放射線ががん細胞だけでなく、正常組織にも影響を与える点にあります。副作用は、放射線治療中や治療直後に起こるものだけでなく、終了してから数ヶ月以上たってから起こるものもあります。
また放射線の強い作用により患者さんの免疫力が低下し、さまざまな症状が生じる場合もあります。
一般的な治療
一般には、リニアックと呼ばれる直線加速器などの放射線治療装置が使われます。放射線ががん細胞の遺伝子を傷つけ、がん細胞を死滅させます。放射線には、エックス線、電子線、陽子線、ガンマ線などがあります。
一般には体の外側から放射線をあてる外部照射が行われますが、放射性物質を体内に入れる治療法などもあります。
漢方薬による治療
漢方薬は、患者さんの免疫力を高めることによりがん治療を進めるのが特徴ですが、さらに放射線治療や抗がん剤治療による副作用の軽減を目的にも用いられます。放射線治療による免疫力低下の抑制にも有効です。がんの漢方治療を続けつつ放射線治療時にその副作用に合わせて漢方処方を調整するのが一般的ですが、放射線治療時にのみ漢方薬を併用する患者さんもいます。
放射線は多くの場合、熱邪(ねつじゃ)となって人体を侵し、副作用を生じます。熱邪は病気の原因(病因)のひとつで、火熱により生じる現象に似た症状を引き起こします。具体的には、炎症、熱感、発熱、充血、疼痛、出血、化膿などの熱証を表します。照射される放射線がまさに熱邪となって正常な組織をも攻撃するため、副作用が生じます。
したがって漢方薬を放射線治療と併用する場合は、漢方薬で熱邪を除去するなどして対処しています。
熱邪には二つのタイプがあります。熱邪の勢いが盛んになって生じる実熱(じつねつ)と、熱を冷ますのに必要とされる陰液が不足しているために相対的に熱邪が強まって生じる虚熱(きょねつ)です。実熱の場合は熱邪を冷まし、虚熱の場合は陰液を補うことにより熱邪を治療します。漢方では熱邪が実熱か虚熱かにより、さらに熱邪が侵している部位や症状により、処方を使い分けます。
(症例紹介ページもあります)
よく使われる漢方薬
漢方では、患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決めます。同じ放射線治療との併用でも、体質や病状が違えば効く漢方薬も異なります。一般には人参養栄湯や大建中湯などが使われることがあるようですが、だれにでも効くわけではありません。以下に、放射線治療との併用に使われることの多い漢方薬を、みられることの多い体質や病状・副作用とともに紹介します。患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。
- ①参苓白朮散
食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢など、胃腸に副作用がみられる場合は、漢方薬で胃腸を労わり、胃腸の機能を高めます。たとえば、「脾気陰両虚(ひきいんりょうきょ)」という証の治療です。脾は五臓のひとつで、飲食物を消化して栄養物質を吸収し、全身に輸送します。この脾の機能が放射線照射により低下し、さらに脾の物質面も不足した状態が、脾気陰両虚です。参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)など、脾の機能と物質面の両方を補う漢方薬を用いて、放射線治療と併用します。
- ②黄芩湯
腹痛、裏急後重(りきゅうこうじゅう)、血便など、おもに腸に副作用がみられる場合は、腸の機能を高めつつ、腸の病邪を除去します。たとえば、「大腸湿熱(だいちょうしつねつ)」という証の治療です。大腸は六腑のひとつで、飲食物の残渣を受け取り、水分を吸収して残りのかすを肛門から排出する機能を持ちます。湿熱は湿邪と熱邪が合わさったものです。そして放射線が湿熱となって大腸の機能を阻害しているのが、この証です。この証の場合は黄芩湯(おうごんとう)など、大腸の湿熱を除去する漢方薬を、放射線治療と併用します。
なお裏急後重とは、テネスムス、俗にいうしぶり腹のことで、便意があるのに排便しないか少量しか排便せず、残便感を伴う状態を指します。
- ③五淋散
泌尿器系のがんの放射線治療などで、頻尿、排尿痛、血尿など泌尿器系に副作用がみられる場合は、尿路系に生じている熱証を冷まします。「熱淋(ねつりん)」という証の治療です。熱淋は、尿路系の炎症に相当する証です。放射線の照射により泌尿器系に障害が生じると、この証になります。五淋散(ごりんさん)など、熱淋を冷まし治療する漢方薬を、放射線治療に併用します。
- ④防已黄耆湯
むくみが顕著に生じた場合は、「水腫(すいしゅ)」という証の治療をします。水腫は浮腫のことで、全身にみられることもあれば、局所的に表れる場合もあります。多くは、水分の代謝と関連が深い臓腑の機能が、放射線により失調して生じます。防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)など、水腫を除去する漢方薬を、放射線治療と併用します。
- ⑤六味地黄丸
貧血、あるいは白血球が減少している場合などは、漢方薬で造血機能を高めます。造血機能と関係が深いのは五臓の脾や腎ですので、たとえば「腎陰虚(じんいんきょ)」という証の治療をします。腎は五臓のひとつで、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質を貯蔵している臓腑です。この腎が弱った状態が、この証です。放射線治療により腎が傷つくと、この証になります。六味地黄丸(ろくみじおうがん)など腎を養う漢方薬を、放射線治療と併用します。
- ⑥温清飲
皮膚に炎症、かゆみ、乾燥などが生じている場合は、たとえば「血虚血熱(けっきょけつねつ)」という証の治療をします。血(けつ)は、血液や、血液が運ぶ栄養という意味があります。放射線治療の影響でこの血の量が欠乏し、さらに紅斑(皮膚のただれ)などの熱毒の症状も明らかなのが、この証です。温清飲(うんせいいん)など、血を補い、熱毒を冷ます漢方薬を、放射線治療と併用します。
ほかにも放射線治療と併用される漢方薬はたくさんあります。体質や病状・副作用が違えば薬も変わります。自分の体質を正確に判断するためには、漢方の専門家の診察(カウンセリング)を受けることが、もっとも確実で安心です。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の体質を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで処方しています。
予防/日常生活での注意点
日常生活では、無理をせず安静を心がけつつ、免疫力を高めるために、じゅうぶんな睡眠をとり、規則正しい生活を続けることが大切です。食事は、旬の食材を中心に、バランスよくとるようにしましょう。放射線治療の副作用で胃腸に障害が生じている場合は無理をしないでください。とくに口や喉、食道などに放射線を当てた場合は、刺激物や消化の悪いものの摂取は避けましょう。体を冷やさないことも大切です。喫煙者は禁煙してください。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を25冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社の医師・薬剤師向けサイト「日経メディカル(日経DI:ドラッグインフォメーション)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・連載・執筆。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル東京内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は東京・銀座で営業している。
あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。
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