坐骨神経痛
坐骨神経痛に効く漢方薬
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
坐骨神経痛の漢方治療について解説します。一般には痛みやしびれを緩和する薬物療法が行われますが、対症療法ですので、なかなか改善しないことも多い病気です。漢方薬としては疎経活血湯などが使われることがあるようですが、これも体質が合わないと効きません。当薬局では、患者さん一人一人の体質に合わせて漢方薬を処方し、坐骨神経痛の根本治療を進めています。
*目次*
坐骨神経痛とは
症状
原因
一般的な治療
漢方薬による治療
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点
(症例紹介ページもあります)
坐骨神経痛とは
坐骨神経痛は、坐骨神経が通っているお尻から足にかけて痛みやしびれが生じる病気です。坐骨神経は腰から太ももの後ろ側を通って足先まで伸びている末梢神経です。この神経が圧迫などされると、痛みやしびれが生じます。放置すると、歩行や排尿に障害が生じることもあります。
症状
よくみられる症状は、お尻から足にかけて後ろ側が痛む、太ももからふくらはぎにかけてしびれる、などです。痛みは、びりびり、ぴりぴり、じんじん、などの感覚が多いようです。筋肉の張りや、冷感、灼熱感、締め付けられる感じなどを伴う場合もあります。長いあいだ立っているのがつらい、座り続けるのがつらい、15分以上続けて歩けない、安静にしていてもお尻や脚が痛くて眠れない、靴下を履くときなどに体をかがめると痛む、という人もいます。足の痛みは、腰を曲げると強くなります。腰痛を併発することも少なくありません。神経圧迫が長期化して炎症が進み、麻痺を起こすこともあります。その場合は、痛みは感じなくなる代わりに、足をうまく動かせず、つまずきやすくなります。
原因
原因の多くは、腰部での神経障害です。腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などが関与しています。どちらも坐骨神経の根元が圧迫されることにより、お尻や足に痛みやしびれが生じます。ほかにも、がんの腰椎への転移や、細菌感染が原因で坐骨神経痛が起こることもあります。検査をしても原因がわからない坐骨神経痛も少なくありません。
一般的な治療
治療には、薬物療法などによって痛みやしびれを緩和する対症療法や、体質的に痛みやしびれの根本原因となる神経圧迫や血流障害などを改善して神経障害を回復させる方法があります。
西洋医学では、薬物療法や理学療法(リハビリテーション)が行われます。薬物には、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)、神経障害性疼痛治療薬、筋緊張弛緩薬、血管拡張薬などがあります。局所麻酔薬やステロイド薬を神経の根元に注射する神経ブロック療法もあります。理学療法では、赤外線などで腰部を温める温熱療法、マッサージ、低周波電気療法、骨盤牽引などがあります。改善がみられない場合は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の手術も行われています。
漢方薬による治療
漢方では、痛みやしびれの根本原因は気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)など人体の構成成分の「流れ」や「量」と深い関係にあると捉えています。気は生命エネルギーに近い概念、血は全身を滋養する血液や栄養、津液は体内の水液を指します。これらの流れが悪くなったり量が減ったりすると、神経圧迫や血流障害が生じ、神経障害が生じます。
流れについては「不通則痛(通じざれば、すなわち痛む)」といわれるとおり、体内での気・血・津液の流れがスムーズでないと痛みが生じます。量についても「不栄則痛(栄えざれば、すなわち痛む)」という原則のとおり、気・血・津液が不足すると痛みが生じます。気・血・津液がじゅうぶん供給されないと、その部分が正常に機能できず、痛みが生じるのです。
関節や筋肉にしびれや痛み、運動障害などが生じている状態を、漢方で「痺証(ひしょう)」と呼んでいます。人体にくまなく分布している経絡(けいらく:気や津液の通り道)が病邪によって塞がれて、気・血・津液の流れが妨げられると、筋肉や関節に疼痛やしびれが表れます。坐骨神経痛は、痺証のひとつです。
痺証は気・血・津液の流れの停滞による状態ですが(不通則痛)、ベースには気・血・津液が不足して経絡がじゅうぶんに養われていない状態があります(不栄則痛)。したがって漢方では、気・血・津液の流れをととのえ、病邪を除去し、痺証を治療することにより、坐骨神経痛の治療を進めます。
(症例紹介ページもあります)
よく使われる漢方薬
漢方では、患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決めます。同じ坐骨神経痛という病名でも、体質や病状が違えば効く漢方薬も異なります。一般には疎経活血湯などが使われることがあるようですが、だれにでも効くわけではありません。以下に、坐骨神経痛に使われることの多い漢方薬を、みられることの多い体質とともに紹介します。患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。
- ①四物湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯
しびれ感が強いようなら、漢方でいう「血虚(けっきょ)」という体質です。血液が持つ滋養作用を意味する血(けつ)の働きが低下している状態です。血の不足により組織がじゅうぶんに滋養されないと、その部分が正常に機能できず、痛みやしびれが生じます。「不栄則痛」で生じる痛みです。四物湯(しもつとう)や当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)など、血を補う漢方薬で、坐骨神経痛を治療します。
- ②芎帰調血飲、芎帰調血飲第一加減
血流の悪化により疼痛が生じている場合は、漢方でいう「血瘀(けつお)」という体質の治療をします。血瘀は、血の流れが鬱滞しやすい体質です。血瘀による疼痛は「不通則痛」で生じる痛みです。芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)や芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)など、血の流れを促進する漢方薬で血瘀を除去し、坐骨神経痛の治療をします。
- ③桂枝加朮附湯、苓姜朮甘湯
強い固定性の痛みがあり、とくに冷えた環境などで痛みが悪化するなら、「痛痺(つうひ)」という体質です。冷えを引き起こす病邪(寒邪といいます)が体内に侵入することにより生じる痺証です。寒痺(かんぴ)ともいいます。寒邪は気や血の流れを停滞させやすいため、固定性の激しい疼痛が生じます。痛みは、寒い日や冷房の効いた場所などで冷えると強くなり、お風呂に入るなど、温めると楽になります。桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)や苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)など、寒邪を除去する漢方薬で、坐骨神経痛の治療を進めます。
- ④五積散
重だるい痛みやしびれが、いつも同じ部位で生じているようなら、「着痺(ちゃくひ)」という体質です。湿り気を伴った病邪(湿邪といいます)が侵入することにより生じる痺証です。湿痺(しっぴ)ともいいます。湿邪は同じ場所に重く停滞する性質があるので、重だるい痛みやしびれがいつも同じ部位で生じます。同時に動かしにくさ(関節の運動障害、こわばり)を伴います。梅雨などの湿度の高い季節や環境、低気圧の接近などで症状が悪化します。朝起きたときなど動き始めるときに痛むのも特徴です。五積散(ごしゃくさん)など、湿邪を除去する漢方薬で、坐骨神経痛を治します。
- ⑤葛根湯、疎経活血湯
痛みが日によってあちらこちらと移動しやすい場合は、漢方でいう「行痺(こうひ)」という体質です。風のように移動しやすい病邪(風邪(ふうじゃ)といいます)が侵入することにより生じる痺証です。風痺(ふうひ)とも呼びます。風邪が経絡(気や津液の通り道)で気や津液の流れを邪魔するため、関節の疼痛、しびれ、運動障害などが生じ、その部位は日によって異なります。葛根湯(かっこんとう)や疎経活血湯(そけいかっけつとう)など、風邪を除去する漢方薬で、坐骨神経痛の治療を進めます。
- ⑥八味地黄丸、牛車腎気丸
加齢に伴い生じた坐骨神経痛なら、漢方でいう「腎陽虚(じんようきょ)」という体質かもしれません。腎(じん)は五臓のひとつで、骨の形成をつかさどる機能があります。この腎の機能が弱っているのが、この体質です。この体質になると、骨や関節に異常が生じやすくなります。加齢とともに生じやすい体質ですが、過労、生活の不摂生、慢性疾患による体力低下などによっても人体の機能が衰え、冷えが生じてこの体質になります。八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)など、腎陽を補う漢方薬で、坐骨神経痛の治療を進めます。
ほかにも坐骨神経痛にみられる体質はたくさんあります。体質が違えば薬も変わります。自分の体質を正確に判断するためには、漢方の専門家の診察(カウンセリング)を受けることが、もっとも確実で安心です。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の体質を的確に判断し、その人に最適な漢方薬をオーダーメイドで処方しています。
予防/日常生活での注意点
日常生活では、正しい姿勢を心がけ、脊椎への負担を減らしましょう。長時間のデスクワークを避け、ときどき席を立って動きましょう。足を組むのも避けたほうがいいようです。腹筋や背筋など体幹部の筋力を強化することも大切です。体重増加も腰への負担につながるので、注意しましょう。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を25冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社の医師・薬剤師向けサイト「日経メディカル(日経DI:ドラッグインフォメーション)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・連載・執筆。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル東京内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は東京・銀座で営業している。
あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。
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