橋本病(体験談)
甲状腺機能の改善を目指す – 橋本病の漢方治療の成功例
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
こちらは、橋本病を漢方で治療した症例を紹介するページです。漢方では、甲状腺の機能や免疫系に働きかけることにより、甲状腺機能の低下を改善していきます。働きかけ方は、一人一人の体質により異なります。このページでは、いくつかの成功例を紹介します。
(こちらは症例紹介ページです。解説ページはこちら)
漢方では、患者一人一人の証(しょう)に合わせて、処方を判断します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者一人一人の証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。
7カ月で甲状腺ホルモン薬を飲まなくてもよくなった症例
「橋本病です。症状の重さに波があり、病院で処方されている薬を飲んでいても症状が悪化することがあります」
おもな症状は、むくみ、便秘、うつ状態などです。これらの症状が悪化するのは、ストレスが強いときや、仕事が忙しいとき、生理前、いらいらしているとき、などです。むくみや便秘のせいか、そのときはからだが重く感じます。舌は赤い色をしています。
この人の証は、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」です。からだの諸機能を調節する肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質や状態です。ストレスの影響などにより、この証になります。肝気の流れの悪化の影響がホルモンバランスの失調に及び、橋本病となっています。強いストレス、仕事が忙しい、生理前、いらいらなどの影響で症状が悪化する、舌の色が赤い、などは、この証の特徴です。ため息がよく出る、頭痛、などの症状がみられる場合もあります。
この証に対しては、肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズする漢方薬を用いて治療にあたります。この患者さんには四逆散(しぎゃくさん)を服用してもらいました。服用を始めて4か月後、症状の変動がほとんどなくなり、病院の薬を飲んでいても症状が悪化することがなくなりました。7か月後の検査では甲状腺の各種検査値が改善しており、病院の薬を飲まなくてもよくなりました。
食欲がない、目が疲れやすい、夢をよく見る、などの症状も伴うようなら、逍遙散(しょうようさん)を用います。
1年で甲状腺ホルモン薬を服用しなくてよくなった症例
「長年にわたり橋本病の薬を飲んでいます。おかげで症状は落ち着き、服用量も最初のころよりは少量で済んでいます。しかし、服用をやめると症状が再発するので、薬の服用を続けるようにと病院で言われています」
疲れやすく、寒がりで、とくに下半身が冷えます。足腰がだるく、むくみます。舌は白っぽい色をしており、湿っぽい白い舌苔が付着しています。
この人の証は、「腎陽虚(じんようきょ)」です。腎の陽気(腎陽)が不足している体質です。腎は五臓のひとつで、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、ならびに水液や骨をつかさどることです。腎陽が虚弱になると、ホルモン内分泌機能が低下し、この人のように橋本病になります。
このような体質の場合は、漢方薬で腎陽を補い、橋本病の改善を進めます。この患者さんには、八味地黄丸(はちみじおうがん)を服用してもらいました。漢方薬を飲み続けた結果、甲状腺ホルモンの値が少しずつ改善し、1年後には橋本病の薬を飲まなくてよくなりました。その後は定期的に経過観察で病院に通うだけで、経過は良好です。
むくみが強い場合や、尿量が少ない場合は、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を使います。
妊活中も漢方薬で橋本病を治療し、無事妊娠、出産した症例
「不妊治療で漢方薬を飲んでいます。先日、婦人科での検査で橋本病と診断されたのですが、漢方処方は同じままで大丈夫でしょうか」
もともと疲れやすく、冷え症です。PMSが強いほうで、生理前に情緒不安定になります。婦人科ではタイミング療法をしています。妊娠に大きな影響はない、と病院で言われていますが、子宮筋腫とチョコレート嚢胞があります。舌の色は淡紅色で、舌の表面に紫色の斑点があります。
この女性の証は、「気滞血瘀(きたいけつお)」です。体内で気と血(けつ)の流れが停滞しやすい体質です。PMS、情緒不安定、子宮筋腫、チョコレート嚢胞、舌の紫色の斑点(瘀斑:おはん)などは、この証でみられやすい病気や症状です。
この場合は、漢方薬で気の流れをスムーズにし、血行を促進して鬱血を取り除き、橋本病を治療していきます。この女性は、橋本病と言われる前から、妊娠を目的に芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)を服用していました。検査で橋本病と診断されても、この女性の証が変わるわけではありませんので、処方は変えず、同じ芎帰調血飲を服用し続けてもらいました。その結果、甲状腺ホルモン値が少しずつ改善し、5か月後に妊娠が確認され、その翌年、無事出産しました。
漢方薬は、病名ではなく、証に従って処方が決まります。証が同じなら、異なる病気でも、同じ漢方処方で治療します。この女性の場合なら、証が気滞血瘀なら、病気が不妊症でも橋本病でも、使う漢方薬は同じで大丈夫です。これを「異病同治」といいます。検査をする前から甲状腺機能は低下ぎみだったのかもしれません。
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以上のように、証に合わせて漢方薬を使い分けることにより、甲状腺ホルモンの値が改善したり甲状腺の腫れが治ったりします。漢方薬そのものに甲状腺ホルモンは含まれていないので、漢方薬の作用により、甲状腺の炎症が治まったり、甲状腺の機能が回復したり、免疫系が正常化したりすることにより、橋本病が改善されたものと考えられます。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社のサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・執筆、好評連載中。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は銀座で営業している。
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