甲状腺の病気(甲状腺機能低下症・甲状腺機能亢進症・甲状腺腫)
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
「甲状腺の病気」を漢方で解き明かす − 甲状腺機能低下症・甲状腺機能亢進症・甲状腺腫
当薬局では甲状腺の病気に関する多くのご相談を受け、それぞれのケースに最も効果的な漢方薬を提供しています。
甲状腺は、ホルモンを作る臓器のひとつです。首の前側、のど仏の下あたりにあります。蝶が羽を広げたような形をしていて気道を抱き込むようにくっついています。
ふつうは首を触っても分からないほど薄く柔らかい臓器ですが、はれると大きくなり、触って分かるようになります。さらにはれると目に見えて首が太くなります。
甲状腺ホルモンは甲状腺から分泌されるホルモンで、新陳代謝を盛んにする働きがあります。成長・発育や、日々の元気な活動には欠かせない、生きていくために不可欠なホルモンです。
甲状腺によくみられる病気について、西洋医学とくらべて漢方ではどのようにとらえて対処するのか、その考え方や治療法を以下に説明します。
「甲状腺機能低下症」
甲状腺機能が低下すると、甲状腺ホルモンが減ります。そうなると新陳代謝が衰えて、冷え症、疲れやすい、むくみ、手指のこわばりなどの症状が見られるようになります。汗をかかない、皮膚が乾燥してカサカサになる、といった症状もよくみられます。
新陳代謝が低下すると、カロリーの消費が少なくなるので体重が落ちなくなり、体重が増加しやすくなります。胃腸の働きも低下するので、便秘症になったり、おなかがはったりするようにもなります。コレステロール値が高くなりやすいのも甲状腺機能低下症の特徴のひとつです。
西洋医学では、甲状腺ホルモンを薬剤として補うことにより、甲状腺機能低下症を治療します。薬はチラージンSなどの甲状腺ホルモン薬が一般的です。服用を中止すると甲状腺機能が低下した元の状態に戻るので、服用し続けることになります。服用し続けていれば血液中の甲状腺ホルモン濃度は高く保たれるので、甲状腺機能低下症の諸症状は緩和されていきます。
漢方では、甲状腺の機能そのものを回復させていくことにより、甲状腺機能低下症を根本的に改善していきます。甲状腺ホルモンという物質を薬剤として人工的に補充するのではなく、甲状腺の機能そのものを回復させる方向です。
甲状腺の機能低下の原因で多いのは、気の流れの停滞です。気の流れはさらさらしているのが理想的ですが、ストレスや環境変化により、停滞しやすくなります。腫瘤(はれやできもの)ができやすい体質の人もいます。
甲状腺機能低下症には、これらの体質の人が、たくさんいます。漢方薬で気の流れを改善したり、腫瘤ができやすい体質を改善したりして、甲状腺機能低下症の改善を進めます。同時に冷えや倦怠感などの症状を緩和するために、基礎代謝を高める漢方薬が使われることもよくあります。
「甲状腺機能亢進症」
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモンが過剰に作られる病気です。代表的なものが、甲状腺がはれるバセドウ病です。甲状腺を刺激する物質が体内で作られ、そのせいで甲状腺ホルモンが過剰に合成されます。
この病気の場合、甲状腺機能低下症とは逆に、新陳代謝が活発になりすぎて困ることになります。部屋でじっとしていても、あたかもマラソンをしているような状態に体がなります。あまり動かなくても汗をかいて心臓がドキドキし、必要以上にエネルギーを浪費します。
症状としては、疲れやすくなり、動悸や息切れ、暑がり、多汗、さらに手指がふるえたり、体重が減ったりします。まぶたがはれたり眼球が突出したりすることもよく知られています。精神的に不安定になり集中力が低下することもあります。
西洋医学では、メルカゾール、プロパジールなど、甲状腺ホルモンの合成を抑える抗甲状腺薬が処方されるのが一般的です。人工的に甲状腺ホルモン濃度を下げ、諸症状を緩和します。
漢方では、亢進した甲状腺の機能を落ち着かせる方向で治療を進めます。機能の亢進は、気血の流れの滞りや、過剰な熱邪の存在との関係が深いので、漢方薬で気血をさらりと流し、過剰な熱をやさしく冷やして落ち着かせてやることにより体質改善を進め、甲状腺機能を安定させていきます。
「甲状腺腫」
甲状腺腫は、甲状腺がはれたりする、甲状腺の「形」の病気です。甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症など甲状腺の「機能」の病気とも深く関係しています。
橋本病は、甲状腺に慢性的な炎症があって甲状腺がはれる病気で、慢性甲状腺炎とも呼ばれます。その約3割に甲状腺機能低下症がみられます。
バセドウ病は、甲状腺を刺激する物質が体内で作られ、そのせいで甲状腺ホルモンが過剰に合成され、甲状腺が大きくなる病気です。甲状腺機能が亢進し、まぶたがはれたり眼球が突出したりします。
中医学では甲状腺腫を癭瘤(えいりゅう)とよびます。おもな根本原因のひとつは「気」の流れの停滞です。ストレスや環境変化、神経質などの性格とも関連しています。腫瘤ができやすい体質の人にも甲状腺腫が見られます。
漢方薬で気の流れを改善したり、腫瘤ができにくい体質を作ったりして、甲状腺腫を改善していきます。
甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症は、男性よりはるかに女性に多く見られる病気です。とくに20~40歳代に多くみられます。
ホルモン濃度を薬剤でコントロールするだけでなく、同時に漢方薬で甲状腺そのものをいたわりつつ、からだ全体の調子をととのえてあげることで、病気や症状の改善を進めてください。
よく使われる漢方薬
1:ホルモンバランスを調えたい場合は、地黄、桂皮など、内分泌系の機能を調整する生薬を使った漢方薬がいいでしょう。夜更かしは控え、規則正しい生活も心がけてください。
2:「気」の流れをととのえたい場合は、柴胡、芍薬など、気の流れをさらさらにする働きの強い生薬を使った漢方処方で、気の流れを改善します。ストレスに強い体質が作られていきます。
3:腫瘤(はれやできもの)ができやすい体質の場合は、茯苓、白朮などの生薬配合の漢方薬で体質改善していきます。
4:血行を改善したい場合は、芍薬、牡丹皮など、血行を促進する生薬配合の漢方処方を使います。タバコは血行改善の大敵である点も、お忘れなく。
5:過剰な熱邪を冷やしたい場合は、黄連、連翹などの生薬配合の漢方薬で熱を冷ましていくのがいいでしょう。
バセドウ病に効果的な処方:
柴胡加竜骨牡蛎湯、竜胆瀉肝湯、四逆散、温胆湯、桂枝茯苓丸、香砂六君子湯、杞菊地黄丸、炙甘草湯
橋本病に効果的な処方:
四逆散、逍遙散、八味地黄丸、牛車腎気丸、芎帰調血飲、二陳湯、平胃散
ほかにも甲状腺の病気を治療する漢方薬は、たくさんあります。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の証(体質や病状)を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで調合しています。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社のサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・執筆、好評連載中。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は銀座で営業している。
あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。
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