眼精疲労を漢方で癒す
幸井俊高執筆・・・薬石花房 幸福薬局 の症例をもとにした漢方エッセイ
■■目が疲れやすい現代社会■■
31歳の女性は会社で経理担当の部署におり、毎日パソコンの画面を見て仕事をしています。最近は会社が忙しくて残業も多く、長時間パソコンに向かっています。寝不足ぎみで疲れがたまっていますが、とくに気になるのは目のかすみです。とくに午後になると焦点がぼやけることも多く、視界にちらちらと星がとぶように見えることもあります。目の疲れ以外に、最近では立ちくらみなどの貧血症状もあります。職場の冷房が効きすぎているせいか、下痢ぎみになったり食欲不振になったりすることもあります。
この女性のように、仕事でパソコンを使う時間は、ひと昔と比べると格段に長くなりました。仕事以外でも、電子メールでの通信、ネット上での検索など、私生活でもパソコン画面を見る時間は増えていくばかりです。そしてそれはあきらかに目の負担になっています。パソコンばかりでなく、深夜までにおよぶ書類との格闘、画面を凝視するテレビゲーム、携帯電話画面の細かい文字など、今の時代は目を酷使する環境に囲まれているといってもいいでしょう。
歩きすぎると足が疲れるように、目も使いすぎると疲れます。眼精疲労です。慢性化すると頭痛や肩こりなど、目以外にも不調をまねきます。逆に、残業や寝不足による身体の疲れ、また緊張やストレスによる精神面での疲れが原因で、眼精疲労がやってきます。目の疲れは、目だけの疲れではなく、身体や精神面の不調も関係しているといえます。
目の疲れの原因はいろいろあり、西洋医学では、筋性、調節性、神経性などの眼精疲労に分類されます。漢方では、目の疲れなどの症状とともに、全身の体調や状態をも含めてその人の体質を判断し、眼精疲労の改善をすすめています。
眼精疲労になりやすい体質のひとつは、目の栄養状態がわるくなって目が疲れるタイプです。眼球や視神経、目の周りの筋肉などにじゅうぶんな栄養が供給されず、うまく機能しません。先の女性の場合もそうです。もともと胃腸の調子がよくなかったり、貧血ぎみだったりと、全身的に栄養不足の状態にある人が、目の使いすぎなどが引き金となって、眼精疲労になります。
こういう場合は、人参や熟地黄など、補う(必殺技1)漢方生薬を使って、栄養やエネルギーが豊富に体内を流れる体質を作り、目の疲れだけでなく、その他の症状も緩和していきます。
■■ストレスは眼精疲労の大敵■■
栄養不足だけが目の疲れの原因ではありません。ストレスが引き金となって眼精疲労を起こす例もよくみられます。
27歳の女性は、出版社で編集の仕事をしています。希望どおりの職業でしたので、入社以来、昼も夜もないような状態で仕事をしてきました。しかし最近は当初の緊張感も薄れ、疲れの蓄積が重荷になってきています。それに加えて、クライアントからの要求や上司の指示、納期前のばたばたなどなどが大きなストレスとなり、それが社会人としての自分を成長させてくれるのだとはわかっていても、かなりの重圧としてのしかかっています。
症状としては、疲れや気力の減退、いらいらなどの情緒不安定に加えて、目の疲れが最近とても気になります。とくに目の奥が痛く、夕方になると、こめかみのあたりも痛くなります。目を開けているのがつらいときもあります。目の圧迫感を感じることもあります。漢方では「肝は目に開竅する」といいます。肝というのは肝臓ではなく、五臓六腑のひとつです。情緒を安定させて精神状態を快適に保ち、気や血の流れを調節し、全身の機能が円滑に行われるようにコントロールする機能をさします。その肝の機能状態が目に反映されやすい、というのが先の「肝は目に開竅する」ということばの意味です。つまり、ストレスや緊張などで精神情緒が不安定になると、目の疲れなどの症状が現れやすくなるのです。
たとえば目が疲れやすく、それでも視力など目の状態を適切に保たなくてはならない職業に、パイロットがあります。仕事がら、中心性網膜炎や網膜剥離など目の病気にかかりやすいようです。ただし目の調子がよくないと、操縦席に座っての仕事はできなくなります。漢方カウンセリングに来る人も少なくありません。パイロットは集中力や判断力も必要な職業であり、緊張がつづく仕事です。精神的なストレスは大きいでしょう。目の病気になるパイロットの多くが、このタイプ、つまりストレスが引き金となっているタイプです。実際、漢方薬でストレス抵抗性をあげることにより病気から回復していった人も少なくありません。
パイロットに限らず、ストレスが目に来たな、と感じる人は、漢方でストレス抵抗性を高めるのもひとつの方法でしょう。
先の女性の目の悩みも、ストレスが原因のようです。白芍や石決明など、気の流れをサラサラにする(必殺技3)生薬でストレスに対する抵抗性を高めて眼精疲労を改善していきました。
■■ドライアイを体内から治す■■
眼精疲労の原因として、栄養不足とストレスの話をしましたが、ほかにもあります。ひとつは、目が乾燥する体質による眼精疲労です。ドライアイなどの症状がでます。
水分代謝の失調や慢性的な疲労、不規則な生活などにより、からだが必要とする水分がじゅうぶんに供給されない体質の人が少なからずいます。皮膚炎や湿疹を起こしやすかったり、生活習慣病にかかりやすかったり、めまいや耳なり、抜け毛などに悩まされたり、また腰痛や肩こりが慢性的にある人に多い体質です。この体質の人が目を酷使してしまうと、ドライアイになるのです。ドライアイ以外に、目がかすむ、まぶしく見える、目に異物感がある、などの症状が現れることもよくあります。
ドライアイと関係が深いものにVDT症候群というものがあります。VDT(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)とはパソコンやテレビの画面のことです。集中して画面を見続けるために、まばたきの回数が減少して目が乾きます。目の充血、かすみ、視力低下なども起こります。ひどい場合は頭痛や食欲不振、便秘、いらいら、うつ症状が現れます。
このタイプの人に対しては、山薬、女貞子、亀板膠などの漢方生薬で水分や栄養を補って(漢方道の必殺技1)目を潤すなどして、目の症状を改善していきます。
ドライアイの詳しい解説は こちら
■■充血しやすい体質を改善■■
最後に、目が充血しやすい人についてふれておきます。
健康なからだの中では気や血がサラサラと流れている、と漢方では考えていますが、働きすぎやストレスなどの影響で、この流れがわるくなることがよくあります。あるときは、気や血がうまく流れずに、上半身、とくに首から上にのぼってきます。そうすると頭痛やのぼせ、ふらつき、いらいらなどの症状が現れます。血圧があがることもあります。
そのような体質の人がパソコン作業や車の運転で目を使いすぎると、目が充血して白目の部分が赤くなったり、目が熱く感じたり、目を閉じるとじーんとしたり、涙が出たりします。
こういう場合は、菊花、蔓荊子などの生薬を使って気や血の流れをサラサラにし(漢方道の必殺技3)、首から上に滞った気や血をおろすことにより、目の充血を体質から改善していきます。
一般に、眼精疲労にはビタミンB含有の点眼剤、ドライアイの場合は涙と似た成分の目薬が使われます。使う場合は、できれば防腐剤の入っていないものがいいでしょう。市販のもので十分です。そして目薬だけではその場かぎりにすぎないので身体の内側から改善していきたいという人は、漢方薬を飲むといいでしょう。
あなたに合った漢方薬がどれかは、あなたの体質により異なります。自分にあった漢方薬が何かを知るには、漢方の専門家に相談し、自分の体質にあった漢方薬を選ぶようにするのがいいでしょう。
★ 漢方道・四つの必殺技 ★
「補う」・・・ 足りない元気や潤いは、漢方薬で補いましょう。
「捨てる」 ・・・体にたまった余分なものは、漢方薬で捨てましょう。
「サラサラ流す」 ・・・漢方の力で血液や気をサラサラ流し、キレイな体内を維持しましょう。
「バランスを調える」・・・内臓機能のバランス・心身のバランス・ホルモンのバランス - 漢方の得意技はバランスの調整にあり。
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