生理前のイライラを漢方で改善
幸井俊高執筆・・・薬石花房 幸福薬局 の症例をもとにした漢方エッセイ
なんとかしたい、生理前の不調
■■毎月おとずれる憂うつな日々■■
広告代理店に勤める30歳の女性の悩みは生理まえの体調不良です。とくにいらいらが激しく、気がつけば周囲の人に八つ当たりしたりしています。どうにも抑えられず、顔つきまで変わっているのはわかっているのですが、どうしようもありません。短気でいじわるになっている自分が情けなく、深く落ち込んだりもします。営業の仕事やプライベートな人間関係にも支障をきたしそうで、憂うつな毎日が続きます。
生理まえのせいか、イライラのせいか、その時期は食欲も旺盛になります。過食ぎみで、体重も増えます。お通じも悪くなり、下腹が張って不快です。肌の調子も最悪の状態です。また乳房が張って肩がこり、朝からどっと疲れています。
これまで病院でさまざまな治療をしてきました。精神安定剤や抗不安薬が処方されたときは、いらいらや不眠は落ち着きましたが、疲れやだるさが倍増して体調はよくなりませんでした。
加味逍遥散エキスという漢方の顆粒を飲んだこともありますが、効果は感じませんでした。
現在は、ホルモン治療ということで、婦人科で処方されたピルを服用しています。いらいらなどの情緒不安定はかなり抑えられていますが、過食傾向と腹部の膨満感は消えません。
――ピルに頼っていて大丈夫なのかしら。
上記のような月経前症候群(PMS)は、ホルモンバランスの不均衡が原因となっている場合がよくあります。そういう場合は、このようにピルが処方されることはよくあります。ピルを服用している間はホルモンバランスが一定に保たれるので、PMSの諸症状が軽くなるわけです。
また排卵抑制がPMSに有効との報告もあります。ピルはもともと排卵を強制的に抑えることにより避妊するための薬です。排卵が抑制されますのでPMSの症状も軽くなるというわけです。
ただしピルの服用によって症状の悪化を訴える女性もいます。服用中は症状が消失したようにみえても、服用中止後、さらに症状が悪化するケースが多いことも報告されています。
ピルが有害というわけではありません。一時的にPMSの症状を軽くする必要がある場合もあります。ただし、ホルモンバランスを崩しやすい女性が、長期にわたって人工的な方法で強制的にホルモンバランスを調整することにより、さらにホルモンバランスを崩しやすくなる場合もあります。ピルは、症状が重く仕事や日常生活に支障をきたす場合に試す程度にしておいたほうがいいかもしれません。
■■女性にしかわからない悩み■■
生理前になるといらいらする、気分が沈んでしまう、からだの具合が悪くなる、というような症状は、女性の約50から80%が経験しているといわれています。
排卵後の黄体期にさまざまな症状が出現し、月経が始まれば2から3日で症状が消失する症候群を、月経前症候群(PMS)といいます。月経前緊張症ともよばれます。
月経前症候群は、排卵があり、女性ホルモンもきちんと分泌されている証拠です。でも、やっぱりつらいものはつらい。いらいらもしてしまう。集中力も低下する。月経前症候群によって生産性が3から8%低下するともいわれます。
生理前につらいのは、あなただけではありません。この症状を緩和する方法は、漢方薬をはじめ、いろいろあります。もし漢方薬などの力を借りて楽しく充実した時間を過ごせるようになるのなら、それに越したことはないでしょう。
月経前症候群の原因の詳細ははっきりわかっていませんが、ホルモンの影響が強いのは確かなようです。排卵後の2週間は、卵巣から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)という女性ホルモンが急激に増えて変動する時期です。この変動のために自律神経がバランスを崩して不調が出るようです。その他のホルモンや体内のナトリウム量なども原因にあげられています。
症状としては、焦燥感、憂うつ感、不安感、いらいら、頭痛、意欲低下、眠気、食欲増進などの精神的症状をはじめ、乳房緊満感、乳房痛、腹部膨満感、腹痛、肌あれ、肩こり、疲労感、便秘などの身体的症状も現れます。むくみや体重増加を伴う場合もよく見られます。症状が軽い人もいますが、日常生活も困難なほど重度の人も5%ほどいるとのことです。
■■漢方によるホルモンバランス調整■■
先の女性は、漢方薬でPMSがすっかりよくなったという友人の話を聞いて、自分にあった漢方薬を飲んでみることにしました。
――漢方なら、以前に加味逍遥散エキス顆粒を病院でもらって飲んだことがあるけど。
加味逍遥散という処方は、PMSをはじめ婦人科系の病気によく用いられます。その人の体質や病状に合えばよく効く処方です。ただし漢方ですので、その人の状態に合わなければ、あまり効きません。月経前症候群といえば加味逍遥散エキスや桂枝茯苓丸エキス、当帰芍薬散エキスばかり処方する医療機関もありますが、ちゃんとあなたの病状や体質にあった処方をしてもらってください。
漢方薬の基本は、症状に対して対症療法を施すのではなく、ホルモンバランスや自律神経など、からだ全体のバランスを調えることにより病態を根本的に改善することです。その結果、自然なかたちで月経前症候群の症状が緩和され改善されていきます。
先の女性の場合は、丹参、当帰などホルモンバランスを調える(漢方道の必殺技④)生薬を中心に、柴胡、白芍、石菖蒲、茯神、竜骨、磁石など心身のバランスを調えて(必殺技④)精神を落ち着かせ、ストレス抵抗性を高めるような漢方生薬を一緒に煎じて服用してもらいました。大腹皮や烏薬など、気の流れをさらさらにする(必殺技③)生薬も配合しました。加味逍遥散でも効かないことはなさそうですが、エキス顆粒では効果が期待できないので生薬を煎じて飲んでもらうようにしました。最初は煎じる時間がないとか、においが苦手だとか、いろいろと抵抗があったようでしたが、数ヵ月たった現在、かなり症状が緩和されてきており、今では喜んで生薬を煎じているようです。
■■からだの仕組みを理解して■■
月経前症候群の症状を軽減するには、日常生活の改善も大きな効果が期待できます。微妙なホルモン分泌量に支えられている女性の生理周期は日常のちょっとしたことでバランスを崩します。つらい症状を前向きにとらえて、からだに優しい生活を取り入れてみましょう。
まずは食生活の改善です。アルカリ性食品を中心にバランスよく食べるのが基本です。栄養バランスの悪い外食やお弁当は少なめにしましょう。バランスよく、多くの種類の食品を食べるだけで症状が軽くなることもあります。アルカリ性食品とは、自然のかたちに近いもので、あまり精製や加工されていない食品です。具体的には豆類や野菜、玄米や雑穀類などです。
ビタミンB6やγ-リノレン酸が月経前症候群の緩和に役立つという報告もありますが、いずれもアルカリ性食品を中心に豊富に含まれていますので、アルカリ性食品をバランスよく食べていれば大丈夫です。大豆や玄米、小麦胚芽、豚肉、それにイワシやサバなど背の青い魚、あるいは種実類、海藻類などです。
逆に注意したいのが、砂糖やカフェインです。砂糖がたっぷり入ったケーキやチョコレート、カフェインの効いたコーヒーや紅茶など、生理前には口にしたくなるものばかりで恐縮ですが、控えめにしたほうがいいでしょう。塩分や脂肪の多い食べものにも注意しましょう。
自分の体調不良や情緒不安定が月経前症候群である、ということを認識するのも大切です。わけもわからなくいらいらしていたのが実はPMSだった、と気づくだけで、ずいぶん気持ちが楽になり症状も軽くなるものです。具体的には基礎体温と体調の記録をとるといいでしょう。
散歩や自転車など屋外での軽い運動やエアロビクス、また趣味の充実などで心身をリフレッシュすることもいいでしょう。ストレスは月経前症候群の敵です。好きな音楽を聴いたり、ゆっくりお風呂の入ったり、睡眠をたっぷりとったりと、どうぞ自分をリラックスさせてあげてください。
あとは周囲の人たちに理解してもらえれば文句なしです。とくに男性にしてみれば月経前症候群はわかりにくく、困惑してしまうこともありますが、大切な間柄なら、十分理解されると思います。
あなたに合った漢方薬がどれかは、あなたの体質により異なります。自分にあった漢方薬が何かを知るには、漢方の専門家に相談し、自分の体質にあった漢方薬を選ぶようにするのがいいでしょう。
★ 漢方道・四つの必殺技 ★
「補う」・・・ 足りない元気や潤いは、漢方薬で補いましょう。
「捨てる」 ・・・体にたまった余分なものは、漢方薬で捨てましょう。
「サラサラ流す」 ・・・漢方の力で血液や気をサラサラ流し、キレイな体内を維持しましょう。
「バランスを調える」・・・内臓機能のバランス・心身のバランス・ホルモンのバランス - 漢方の得意技はバランスの調整にあり。
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