がん(癌):抗がん剤治療(化学治療)と漢方薬の併用
抗がん剤治療(化学治療)と漢方薬の併用
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
抗がん剤治療(化学治療)と漢方薬の併用について解説します。漢方薬としては補中益気湯や六君子湯などが使われることがあるようですが、体質や病状に合わないと効きません。当薬局では、患者さん一人一人の体質や病状に合わせて漢方薬を処方し、抗がん剤治療(化学治療)との併用を行なっています。
*目次*
抗がん剤治療(化学治療)と漢方薬の併用
症状
原因
一般的な治療
漢方薬による治療
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点
(症例紹介ページもあります)
抗がん剤治療(化学治療)と漢方薬の併用

抗がん剤治療は、抗がん剤を用いて、がんの増殖を抑えたり、がん細胞を破壊したり、がんの転移や再発を予防したりする治療です。内服や点滴、注射により投与された抗がん剤は、血液によって全身に運ばれ、全身のがん細胞に作用します。
手術や放射線療法が局所的にがん細胞を攻撃するのに対し、化学療法は全身の細胞に作用します。したがって、転移したがんの治療や、転移の予防にも役立ちます。また血液やリンパなど、全身を流れるもののがん治療にも有効です。手術前にがんを小さくしたり、手術後に残ったがんの増殖を抑えたりするのにも実施されます。
しかし、抗がん剤は正常な細胞をも攻撃するため、副作用が出やすいという欠点があります。
こういう場合、漢方薬は、漢方薬によるがん治療と並行し、抗がん剤治療による副作用の軽減のためにも用いられます。
症状
抗がん剤治療(化学治療)による症状(副作用)について、まず骨髄が抗がん剤の攻撃を受けると、白血球・血小板・赤血球が減少します。白血球の減少により免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。血小板の減少により出血しやすくなります。脳出血や消化管出血のリスクも高まります。赤血球が減少すると酸素が全身に運ばれず、疲労倦怠感、貧血、息切れが生じます。さらに、脱毛、口内炎、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、疼痛、肝機能障害、腎機能障害、末梢神経障害(手足のしびれなど)、生殖機能障害、不眠、不安、抑うつ症状も起こります。
原因
上記のような抗がん剤治療(化学治療)による副作用が生じる原因は、抗がん剤が血液によって全身に運ばれるため、がん細胞だけでなく、正常な細胞をも攻撃する点にあります。とくにがん細胞と同じように増殖が盛んな細胞が影響を受けやすく、骨髄、腸管、皮膚、毛根などが被害を受けます。
また抗がん剤の強い作用により、患者さんの免疫力が低下することが原因となり、さまざまな症状が生じます。
一般的な治療
抗がん剤治療(化学治療)は薬物療法のひとつです。抗がん剤が、がん細胞の増殖を抑制したり、がん細胞のDNAを破壊したり、DNA合成を抑制したり、細胞膜を破壊したり、細胞分裂を妨げたりすることにより、がん細胞の増殖や成長、転移を抑制し、がん細胞の死滅を促します。
漢方薬による治療
漢方薬は、患者さんの免疫力を高めることによりがん治療を進めるのが特徴ですが、さらに抗がん剤治療や放射線療法による副作用の軽減を目的にも用いられます。抗がん剤治療による免疫力低下の抑制にも有効です。
漢方薬を抗がん剤治療と併用する際に重要なのは、五臓の「腎(じん)」と「脾(ひ)」です。
腎のおもな機能は、生命体の根源となる物質である腎精(じんせい)を蔵することと、人の成長・発育・生殖をつかさどることです。ホルモン内分泌系、生殖器系、中枢神経系、免疫機能と深い関係にあります。加齢や過労、大病、抗がん剤やホルモン剤など作用の強い薬、手術や放射線療法など強い治療で消耗しやすい臓腑です。したがって、がんに罹患することや抗がん剤治療で傷つきやすい臓腑です。
脾のおもな機能は、消化吸収や代謝をつかさどり、気血(エネルギーや栄養)の源を生成することです。抗がん剤治療により消化器系が攻撃されると、脾の機能が一気に低下します。脾が弱って気血の生成ができなくなると、免疫力が低下します。
また、抗がん剤治療を行うと、その強い作用により、気血が被害を受けます。「気」は生命エネルギー、「血」は血液による滋養作用に近い概念です。
したがって漢方薬を抗がん剤治療(化学療法)と併用する場合は、五臓の腎や脾の機能を高めたり、気血を補充したりして、患者さんの免疫力を高め、副作用を軽減して対処しています。
(症例紹介ページもあります)
よく使われる漢方薬
漢方では、患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決めます。同じ抗がん剤との併用でも、体質や病状が違えば効く漢方薬も異なります。一般には補中益気湯や六君子湯などが使われることがあるようですが、だれにでも効くわけではありません。以下に、抗がん剤治療(化学療法)との併用に使われることの多い漢方薬を、みられることの多い体質や病状とともに紹介します。患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。
- ①六味地黄丸
免疫力の増強のために最も重要なのは、「腎」を補うことです。漢方薬を使って「腎精不足(じんせいぶそく)」という証の治療をします。腎精とは、生命活動や成長・発育・生殖の基本となる、生命体の根本をなす物質のことです。腎精不足は、この腎精が不足している状態です。抗がん剤治療により腎が傷つくと、腎精が減ります。腎精の不足により、全身の免疫力が低下します。六味地黄丸(ろくみじおうがん)など、腎精を補う漢方薬を抗がん剤治療と併用します。
- ②人参養栄湯
疲労倦怠感や貧血などの全身症状がみられる場合は、「気血」を補うことが大切です。漢方でいう「気血両虚(きけつりょうきょ)」という状態の治療をします。気血両虚は、「気虚」と「血虚」の二つの証が同時に生じている状態です。気虚は生命エネルギーを意味する「気」が不足している状態で、血虚は人体に必要な血液や栄養を意味する「血」が不足している状態です。抗がん剤治療により気血が損傷すると、この証になります。気血が不足しているため、疲労倦怠感、貧血などの症状が生じます。人参養栄湯(にんじんようえいとう)など、不足している気血を補う漢方薬を、抗がん剤治療と併用します。白血球減少など、骨髄抑制が生じている場合にも有効です。
- ③参苓白朮散
吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢など、消化器症状が顕著な場合は、漢方薬でいう「脾気虚(ひききょ)」という状態です。脾つまり消化吸収機能が低下している状態です。抗がん剤治療により腸管など消化器が障害を受けると、この状態になります。参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)など、脾の機能を強める漢方薬を、抗がん剤治療と併用します。
- ④五積散
手足のしびれ、麻痺など、神経障害が生じている場合は、「痺証(ひしょう)」という状態です。関節や筋肉にしびれや痛み、運動障害などが生じている状態です。抗がん剤治療でみられることが多いのは、重だるい痛みやしびれが、同じ部位で続く状態です。これを着痺(ちゃくひ)または湿痺(しっぴ)といいます。五積散(ごしゃくさん)など、痺証(とくに着痺や湿痺)を治療する漢方薬を、抗がん剤治療と併用します。
- ⑤芎帰調血飲
抗がん剤の効果を増進したい場合は、内服なら脾の機能を高めることが有効ですが、点滴などの場合は、「血瘀(けつお)」証の治療をします。血瘀は、血の流れが鬱滞しやすい体質です。芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)などの漢方薬を併用して血流を促すことにより、抗がん剤の効果を高めます。
ほかにも抗がん剤治療(化学治療)と併用される漢方薬はたくさんあります。体質や病状が違えば薬も変わります。自分の体質を正確に判断するためには、漢方の専門家の診察(カウンセリング)を受けることが、もっとも確実で安心です。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の体質を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで処方しています。
予防/日常生活での注意点
日常生活では、無理をせず安静を心がけつつ、免疫力を高めるために、じゅうぶんな睡眠をとり、規則正しい生活を続けることが大切です。食事は、旬の食材を中心に、バランスよくとるようにしましょう。体を冷やさないことも大切です。喫煙者は禁煙してください。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を25冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社の医師・薬剤師向けサイト「日経メディカル(日経DI:ドラッグインフォメーション)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・連載・執筆。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル東京内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は東京・銀座で営業している。
あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。
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