がんこな便秘もあきらめないで

幸井俊高執筆・・・薬石花房 幸福薬局(東京 帝国ホテル内の漢方相談薬局)の症例をもとにした漢方エッセイ


■■慢性便秘で肌荒れ併発■■

 大手銀行に勤める25歳の女性は、若いころからの便秘症です。小さいころから便は硬くころころしていたと、母親からもときどき聞かされてきました。便秘のせいか、学生時代からにきびが多く、これも悩みの種です。

 便は大人になってからも硬く、ころころとウサギの糞のような感じです。にきびはほほに多く、あごや首、胸や背中にも少しあります。

 会社に勤めるようになってからも便秘体質はそのままです。しかも窓口の仕事なのでトイレに行きたくてもなかなか行けず、せっかくのチャンスを逃してしまうこともしばしばです。便意を感じたらすぐトイレに行けばいいのですが、恥ずかしさもあり、そうもいきません。

 かといって便秘のままでは下腹が張って気持ち悪く、三日くらいお通じがないと、下剤を飲んでしまいます。今ではすっかり下剤に頼ってしまうようになってしまいました。

 ――下剤なしで自然なお通じができないかしら。

 漢方は、排泄の医学といわれることがあります。しっかり食べて、しっかり出す、それで必要なエネルギーや栄養を体内に取り入れてサラサラ流す、これが健康の基本です。そういう意味で、便秘の人は、単に下剤に頼るのではなく、体質的に改善しておくのがいいでしょう。

 便秘には、大腸の緊張がゆるんで蠕動運動が弱くなり便が出にくくなるタイプや、逆に大腸がけいれんを起こして便通が悪くなるタイプなどがあります。トイレに行くのを我慢して神経が鈍くなり、便が直腸に達しても便意が生じないタイプもあります。また精神的ストレスや過食、虚弱体質、自律神経系の緊張、老化、冷え症などが原因となる場合もあります。

 冒頭の女性の場合は、胃腸機能が亢進して消化管内の水分が過剰に吸収されている状態のようです。その結果、腸管内で便が硬くなり、ころころになります。こういう場合は腸の機能を調整して便が硬くならないような体質を作っていきます。

 具体的には、白芍、烏薬などの生薬で内臓機能を調整(漢方道の(必殺技4))し、杏仁などで腸内の潤いを補い(必殺技1)、さらに大黄や馬牙消を少量もちいて通便を助けます。冒頭の女性の場合は9ヵ月ほどで便秘が解消され、漢方薬も下剤もいらなくなりました。赤いにきびもすっかり消えました。


■■女性に多いストレス便秘■■

 自動車メーカーで事務をする29歳の女性は、就職してからの便秘です。便意があってもなかなか排便しなかったり、出ても細くて量が少なかったり、すっきり排便できなくて残便感が残ったりします。ガスがたまって下腹が張ります。ところがお休みの日にはすっきりとお通じがあります。そして月曜日にはまた便秘症になります。

 ――ストレス性の便秘、何とかならないかしら。

 便秘に対しては、一般には下剤が用いられることが多いのですが、下剤はあくまでもその場しのぎの対症療法です。下剤に頼りすぎると本来の腸の反射が鈍くもなります。もちろん便を大事におなかにずっと持っておくと弊害もあるので下剤も必要ですが、並行して便秘体質の改善も行ったほうがいいでしょう。

 また多くの下剤には習慣性があります。常用すると癖になったり、下剤がないと排便しなくなったり、下剤の必要量が増えていったりしますので、注意が必要です。

 先の女性は、ストレス性の便秘です。気の流れをサラサラにして(必殺技3)ストレスの悪影響をやわらげます。木香、烏薬、枳実、檳榔子などの漢方生薬が効果的です。この女性も5ヶ月ほど漢方を続けて、すっきりと自然なお通じがつくようになりました。生理前のいらいらや不眠も、いつの間にかおさまっていました。これも気の流れが整った結果です。


■■便秘と下痢をくりかえす■■

 先の女性の場合はストレスが引き金となって、残便感や下腹部の膨満感など、すっきりしない感じがありましたが、便秘と下痢をくりかえす場合もよくみられます。

 この症状も、多くの場合、ストレスが関係しています。ストレスが原因となって自律神経のバランスがくずれ、腸管の運動がスムーズでなくなり、その結果、便秘になったり下痢になったりするようです。

 漢方では、先の症例と同じように、気の流れの停滞が原因となっていると考えます。気の流れがとどこおることにより消化器系の機能が不安定になり、それがもとで腸管内での便の移動に問題が生じ、その結果、便秘と下痢がくりかえされることになります。

 漢方生薬としては、先の木香など気の流れをサラサラにする(必殺技3)ものや、白朮のように内臓機能のバランスを調える(必殺技4)ものが使われます。このタイプの人には、おなかにガスがたまりやすいという人も多いのですが、それも気の流れを調整することにより緩和されていきます。


■■下剤を飲むと腹痛が■■

 32歳のデザイナーの女性は、若いころからの便秘症です。便意を感じてトイレに入っても、なかなか便が出ません。出ても細い便です。出はじめだけ硬めのときもありますが、だいたいは柔らかい便です。

 下腹が張って苦しいときは下剤を飲みますが、少量の下剤でもおなかが痛くなります。下剤を飲むと便は水のような下痢となり、体調によっては冷や汗をかくほど下腹が痛むときもあります。

 このかたは、漢方で虚秘とよばれる便秘体質です。腸管の元気が衰えており、便が出にくくなっています。

 こういう場合は黄耆や膠飴などの漢方生薬で元気を補って(必殺技1)、便秘体質の改善を進めます。麻子仁やニクジュヨウなどを用いる場合もあります。

 10年来のお付き合いの便秘でしたが半年後には健康的な感じの排便ができるようになり、その後漢方薬の量を少しずつ減らして1年後には漢方薬なしで自然なお通じがつくようになりました。このタイプの人は、もともと胃腸が弱いので、下剤のような強い薬には注意が必要です。


■■冷えにも要注意■■

 これまであげてきたタイプの便秘以外に、冷えがもとになっている場合もあります。冷えとともに消化器系の機能が衰え、その結果、排便が困難になります。手足だけでなく腹部も冷えやすく、また尿の量や回数が多い人によくみられます。

 ――薬に頼ってばかりじゃ、だめよね。

 便秘の解消には日常生活の改善も重要です。朝食をぬいてトイレに行く余裕もないまま仕事に出かけてしまうようでは、便秘は悪化するばかりでしょう。

 まず下剤にばかり頼らない姿勢が必要です。あまり我慢しすぎるのも不健康ですが、便秘体質を根本から改善していこうという気持ちが大切です。

 また一日に一度は時間を決めてトイレに行って排便しようとする習慣をつけるのも効果的です。ただ、どうしても排便しなくては、と無理に力まないようにしてください。

 食事内容にも気を遣いましょう。繊維質の食べものを多くとるだけで効き目があるかもしれません。とくに朝が大事です。朝食はきちんととり、そのあとトイレに行く時間の余裕をもちましょう。私たちは生理的に食後に便意をもよおすことが多いのですが、その反応は、朝食後にもっとも起こりやすいようです。

 腹式呼吸も効果的です。腹筋を使ってゆっくり呼吸をすると、内臓が刺激されてお通じがよくなります。また運動をやめたとたんに便秘するようになったという人は、運動不足も原因のひとつです。いつもの道を、少し大またで、少し早足で歩くだけでも効果がある場合もあります。

 あとは便意を感じたときは我慢しないでトイレに行くようにしたいものです。

 ドクダミ茶などの民間薬でお通じがつく場合もあります。必ずしも漢方のように便秘体質そのものが改善されていくものとはかぎりませんが、自分にあったものがあれば活用するといいでしょう。

 便秘といえば下剤となりがちですが、下剤で便秘が根本的に治るとはなかなか考えにくいものです。もちろん下剤が必要な場合もありますが、多くの場合、再発を繰り返すことになります。下剤という薬は、便秘を治す薬ではなく、便を強制的に排泄させる薬であることを忘れないでください。

あなたに合った漢方薬がどれかは、あなたの体質により異なります。自分にあった漢方薬が何かを知るには、漢方の専門家に相談し、自分の体質にあった漢方薬を選ぶようにするのがいいでしょう。

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★ 漢方道・四つの必殺技 ★

「補う」・・・ 足りない元気や潤いは、漢方薬で補いましょう。
「捨てる」 ・・・体にたまった余分なものは、漢方薬で捨てましょう。
「サラサラ流す」 ・・・漢方の力で血液や気をサラサラ流し、キレイな体内を維持しましょう。
「バランスを調える」・・・内臓機能のバランス・心身のバランス・ホルモンのバランス - 漢方の得意技はバランスの調整にあり。

自分に合った漢方薬に出会うには

自分の病気を治し、症状を改善してくれる漢方薬は何か。それを判断するためには、その人の自覚症状や舌の状態など、多くの情報が必要です。漢方の場合、同じ病気でも、その人の体質や病状により、使う処方が異なるからです。

 

そのために必要なのが、丁寧な診察(カウンセリング)です。中医師など漢方の専門家がじっくりと話を聴くことにより、あなたの体質を判断し、あなたに最適な処方を決めていくのが、漢方の正当な診察の流れです。

 

そして、その際に最も大切なのは、信頼できる実力派の漢方の専門家の診察を受けることです。
(一般によくみられる、病名と検査結果だけをもとに、漢方が専門でない人が処方を決める方法では、最適の処方を選ぶことができず、治療効果はあまり期待できません。)

 

当薬局では、まず必要十分な診察(カウンセリング)を行い、その人の体質や病状をしっかりと把握し、それをもとに一人一人に最適な漢方薬を処方しています。

 

あなたに最適の漢方薬に出会う秘訣は、信頼できる漢方の専門家の診察(カウンセリング)を受けることです。

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