過敏性腸症候群(IBS)

漢方の視点でみると、過敏性腸症候群(IBS)になりやすい人には4つのタイプがあります

過敏性腸症候群(IBS)は、腸、主に大腸の運動や分泌の機能異常により生じる病気の総称です。検査をしても一般に異常は見つかりませんが、便通や下腹部の不調が現れます。通勤や通学の途中でお腹が痛くなって途中下車する、いつ下痢に襲われるか心配で急行電車に乗れない、会議中や授業中にお腹が痛くなるなど、生活や仕事に支障をきたす場合も少なくありません。

一般には症状によって交替型(不安定型)、下痢型、便秘型、ガス型、分泌型などに分類されます。交替型は下痢になったり便秘になったりするタイプで、分泌型とは強い腹痛のあと粘液が排泄されるタイプです。

現代医学的には、腸の運動をつかさどる自律神経系の異常や、精神的なストレス、不安、過度の緊張などが原因と考えられています。暴飲暴食やアルコール類の飲みすぎ、喫煙、不規則な生活、過労などが原因となる場合もあります。大腸の蠕動(ぜんどう)運動が盛んになりすぎたり、大腸が痙攣したりしてしまうと、下痢や便秘、ガスがたまるといった症状が現れます。

漢方では、過敏性腸症候群になりやすい証(しょう)には、主に以下のようなものがあると考えています。

(1)「脾気虚(ひききょ)」証。消化器系の機能が弱い体質です。体力的にも丈夫でない人が多く、ちょっとしたことで下痢や便秘になりやすいタイプです。消化不良ぎみです。こういう体質の人には、胃腸機能を丈夫にする漢方薬を使って治療を進めます。

(2)「脾胃不和(ひいふわ)」証。ストレスや、食生活の乱れ、冷えなどの影響で、下痢や吐き気が生じやすくなっている体質です。ちょっとしたストレスや刺激でも胃腸が変調を起こしやすい体質なので、こういう場合は漢方薬で鎮静、整腸、健胃していきます。

(3)「肝気横逆(かんきおうぎゃく)」証。ストレスや情緒変動の影響で気の流れが悪くなっています。そのために自律神経系が失調しやすく、便秘や下痢が生じやすくなっています。漢方薬で気の流れを調えて治療していきます。

(4)「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」。もともと消化器系が丈夫でないために肝(自律神経系など)の機能を制御できず、ちょっとした緊張や不安で体調を崩しやすい体質です。心身のバランスが安定しにくい体質ともいえます。漢方では、消化器系の機能を高めつつ、ストレスを和らげていきます。

過敏性腸症候群の漢方治療の症例

■症例1「お腹の具合が良くなく、下痢と便秘を繰り返します。常に腹部に不快感があり、下痢に悩まされる日が何日間か続いたと思うと、今度は便秘になります。しばらく便秘の状態が続いたあと、また下痢になります」

下痢のときは、急にお腹が痛くなって下痢になります。便秘のときは、お腹が張って苦しい状態が続きます。排便したくてもなかなか出ません。やっと出ても、コロコロとしたウサギの糞のような便が申し訳程度に出るだけで、残便感がのこります。

普段からストレスを感じやすくてイライラしやすく、ストレスが強いときに便通の調子も良くないように思います。

この人の証は「肝気横逆」です。ストレスの影響を受けて気の流れが滞っており、そのために自律神経系が不安定になっています。その影響で大腸の蠕動運動が盛んになったり衰えたり、あるいは大腸が痙攣したりして便秘や下痢が生じ、交替型の過敏性腸症候群になっているようです。過敏性腸症候群で一番多くみられる証だと思われます。肝(かん)は五臓六腑のひとつで、自律神経系や情緒をつかさどる機能です。

このような場合は、漢方薬で気の流れを調えていきます。気の流れが落ち着けば自律神経系も安定し、便通も安定していきます。4カ月ほどで下痢の症状がなくなりましたが、まだときどきコロコロした便が出るとのことでしたので、それ以降は便通を促す漢方薬を一緒に飲んでもらい、その3カ月後にはすっかり体調がよくなり、漢方薬もやめてもらいました。

■症例2「下痢型の過敏性腸症候群に悩まされています。ちょっとした緊張や不安でお腹が痛くなり、すぐトイレに行きたくなります。電車のなかや会議中など、いつどこで便意を催すかわからないので心配です」

この患者さんは、もともとそれほど胃腸は丈夫ではありませんでしたが、大学受験のときにプレッシャーで頻繁に下痢をするようになりました。試験前や試験中にお腹が痛くなり、すぐ便意を感じることが多くなりました。就職してからも、通勤電車のなかで急に腹痛に襲われることが多く、我慢できずに途中下車して駅のトイレに行くことがしばしばあります。

休日は、何ともありません。ふつうの便が出ます。寝ている間も腹痛は起こりません。便意で目覚めることもありません。

この人の場合、緊張や不安、ストレスなどによる心理的な動揺が、下痢をする、しないという体調の変化に大きく影響しているのが特徴です。会社のストレスをあまり感じない休日や、ストレスを忘れていられる夜間には下痢になりません。

漢方では、心と体の関係を重視します。例えば五臓の肝(かん)は、肝臓だけでなく、自律神経系や情緒活動をつかさどる機能ですが、この肝の機能バランスが失調すると、情緒不安定、イライラ、憂うつ感、めまいなどの症状がよく出現します。

この人は、肝の状態が不安定なようです。それが、もともと丈夫でないという消化器系をつかさどる五臓の脾の機能を低下させ、ちょっとした緊張や不安で下痢しやすい体質になっているのでしょう。

このような証を「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」といいます。もともと消化器系が丈夫でないために肝の機能を制御できず、ちょっとした緊張や不安で体調を崩しやすい体質です。心身のバランスが安定しにくい体質ともいえます。

こういう場合、漢方では消化器系の機能を高めつつ、ストレスを和らげていきます。もし、疲れやすい、食欲にムラがあるなどの症状があれば、それも配慮します。

■症例3「ガス(おなら)のことで悩んでいます。お腹が張りやすく、特に緊張や不安があると下腹部がパンパンに張ります。排ガスで楽になりますが、またしばらくすると、お腹が張ってきます。胃のあたりにも膨満感があり、こちらもげっぷが出ると楽になります」

ガス型の過敏性腸症候群です。お腹がよくゴロゴロと鳴ります。食後すぐにガスがたまります。いまではガスが我慢できなくなっており、ガスが漏れやすく、食事中でも会議中でもガスが出てしまいます。臭いがするので、まわりの人にも気づかれてしまい、つらい思いをしています。映画館にも行けなくなりました。緊張が続くと胃の不快感や吐き気も生じます。

この人の場合、腸の症状と同時に胃の症状も出ています。このような証を「脾胃不和(ひいふわ)」といいます。ストレスの影響で、下痢や吐き気など、胃と腸の症状が生じやすくなっています。食生活の乱れや冷えが原因でこの証になる場合もあります。ちょっとしたストレスや刺激でも胃腸が変調を起こしやすい体質なので、こういう場合は漢方薬で胃を落ち着かせつつ、腸の機能を調整します。

下痢の状態がひどい場合、ガスのにおいが臭い場合など、さらに細かく症状を観察してきめ細かく判断して処方を選びます。

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漢方思考の一つに「心身一如(いちにょ)」があります。心と体は切っても切れない関係にあるという意味です。ストレスと関係の深い病気の治療には、この漢方の考え方が有効です。

今回の過敏性腸症候群は、そのような病気の一つです。症例2では五臓の肝(かん)についてふれましたが、それ以外にも、たとえば五臓の心(しん)は、心臓を含む血液循環機能だけでなく、高次の神経系機能も含む概念で、思考や判断、意思などは、この心と深い関係にあります。心の機能が衰えると、循環器系が弱くなったり動悸がしたりするだけでなく、不安感やのぼせが現れやすくます。

漢方処方を判断するときは、病気の実態、たとえば下痢や便秘がどういう状態かを聞くだけでなく、その背景にあると思われる心理状態や生活習慣などもきめ細かく聞き取ることが、ときに重要な鍵となります。

あなたに合った漢方薬がどれかは、あなたの体質により異なります。自分にあった漢方薬が何かを知るには、漢方の専門家に相談し、自分の体質にあった漢方薬を選ぶようにするのがいいでしょう。

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