睡眠時無呼吸症候群(SAS)
◆近年増加中の睡眠時無呼吸症候群(SAS)
当薬局でもご相談が増えています。
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome;SAS)は、睡眠中に無呼吸や低呼吸を繰り返す病気です。何度も呼吸が止まるので深い睡眠が取れません。そのため日中に強い眠気や倦怠感を催します。集中力も低下し、ひどい場合には、仕事や生活に支障を来すこともあります。
また呼吸が止まるため体内への酸素供給が不足し、血中の酸素濃度が低下します。高山病のような低酸素状態に等しく、身体に負担が掛かります。
酸素供給量の低下を補うために、心臓は心拍数を増やして全身に酸素を供給しようと働きます。このような心臓や血管への負担が持続、長期化すると、高血圧症、動脈硬化症、心疾患、脳血管障害、糖尿病などを引き起こす危険があります。
睡眠時無呼吸症候群の多くは、気道が狭くなって呼吸が困難になる閉塞性で、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と呼ばれています。首周りの形態と関係があり、体重の増加、加齢、生活習慣、飲酒、鼻炎などにより上気道を空気が通るスペースが狭まり、症状が悪化します。
閉塞性のほかには、中枢性睡眠時無呼吸(CSA)タイプとよばれる、中枢からの呼吸指令が失調するものがあります。
近年の食生活や生活習慣の影響により、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは増えています。
(睡眠時無呼吸症候群が改善した漢方治療の症例紹介ページは こちら)
◆食生活や生活習慣の乱れがある場合には、漢方が効果的
西洋医学では
一般には、寝ている間に顔に装置を付け、陽圧を掛けた空気を鼻から気道に強制的に送り込んで気道を広げる持続陽圧呼吸療法(CPAP、シーパップ)を行ったり、軽度の睡眠時無呼吸の場合にはマウスピースなどを用いたりして治療します。
気道を塞ぐ原因とみられる扁桃や軟口蓋を切り取る手術で治療される場合もあります。
漢方では
漢方では、睡眠時無呼吸症候群の原因の1つとして、痰飲(たんいん)を重視しています。
痰飲とは、体内にたまった過剰な水湿のことで、これが気道にたまり、気道を狭めることが、睡眠時無呼吸症候群を引き起こすと捉えています。
痰飲がたまる原因は、体液代謝の失調や低下、炎症、循環障害、ホルモン異常、代謝産物の体内蓄積、食べ過ぎ、食事の不摂生、運動不足などです。食生活や生活習慣の乱れにより、痰飲は体内にたまります。
漢方では、この痰飲を取り除く漢方薬や、痰飲が気道にたまる根本原因を解消する漢方薬により、睡眠時無呼吸症候群を改善します。
◆睡眠時無呼吸症候群になりやすいタイプ・・・あなたはどれ?
<体質やタイプを漢方で証(しょう)といいます>
無呼吸症候群の根治のためには痰飲を取り除くだけでなく、その根本原因にも目をむけなくてはなりません。多種多様な要因の中から最大の根本原因を見極め、そこに働きかける漢方薬を選ぶのが治療のカギです。
実際には、複数の要因が絡み合っているケース、特に強い特徴のある体質など、個人差が千差万別なので、効果的な漢方薬にたどりつくためには漢方の専門知識が必要です。
参考までに、以下に主なタイプを紹介します。
(1)「痰飲(たんいん)」証
体内にたまった過剰な水湿である痰湿が気道にたまり、気道が狭まり、睡眠時無呼吸症候群を発症する典型的なタイプ。
→ 痰飲を取り除く漢方薬を用います。
(2)「水腫(すいしゅ)」証
水腫(浮腫・むくみ)が生じやすい体質。水腫が気道に表れて塞ぎ、睡眠時無呼吸症候群を発症。
水腫は全身に見られることもあれば、局所的に表れる場合もあり、多くは、水分の代謝と関連が深い五臓の肺、脾、腎の機能失調により生じます。
◎ 水腫で出やすい症状
むくみが顕著、からだの他の部位にもむくみがある など
→ 水腫を除去する漢方薬を用います。
◆水腫については むくみ のページもご参照ください。
(3)「胃気上逆(いきじょうぎゃく)」証
飲食物を受け入れて消化吸収した残りを下方に送るという胃の機能が失調した状態。胃から痰飲が上逆し、喉の辺りに停滞し、喉が狭まり睡眠時無呼吸症候群を発症。
◎ 胃気上逆で出やすい症状
吐き気、げっぷ、しゃっくり、悪心 など
→ 胃気をおろし、喉に鬱滞する痰飲を除去する漢方薬を用います。
(4)「肺気逆(はいきぎゃく)」証
呼吸を調えて体内の水分を下方に推し進めるという五臓の肺の機能が失調している体質。肺から痰飲が上逆し、上気道に鬱滞し、上気道が狭まり睡眠時無呼吸症候群を発症。
◎ 肺気逆で出やすい症状
咳嗽、胸苦しい、喉の不快感、呼吸困難 など
肺気を降逆して上気道に鬱滞する痰飲を除去する漢方薬を用います。
◆以上が、痰飲が気道に集まりやすい証です。それ以外にも、睡眠時無呼吸症候群を起こしやすいタイプがあります。
(5)「中気下陥(ちゅうきげかん)」証
気の機能の1つである固摂(こせつ)作用(臓器を定位置にとどめる機能)が低下している状態。寝ている間に舌などが下垂して上気道を閉塞して睡眠時無呼吸症候群を発症。
◎中気下陥で出やすい症状
内臓下垂がある、日中の眠気がひどい、疲れやすい、胃腸が弱い など
→ 気の固摂作用を高める漢方薬を用います。
◆中気下陥のベースには「脾気虚(ひききょ)」証(消化吸収力が弱った状態)があります。
(6) 鼻炎との関連が深いタイプ
→ 患者さんの証に合わせた漢方薬で鼻炎の根本治療を進め、睡眠時無呼吸症候群を治します。
鼻炎に関する具体的な証と治療法については 鼻炎 副鼻腔炎 鼻づまり の各ページをご参照ください。
(7) 肥満が明らかな場合
→ 患者さんの証に合わせた漢方薬で肥満を改善し、睡眠時無呼吸症候群を治します。
肥満に関する具体的な証と治療法については ダイエット をご参照ください。
◆睡眠時無呼吸症候群に効果的な漢方薬
上記のように睡眠時無呼吸症候群のタイプによって治療法が異なるため、使われる漢方処方も数多くあります。
比較的よく使われる処方は以下の通りです:
補中益気湯、半夏瀉心湯、小柴胡湯、半夏厚朴湯、二陳湯、温胆湯、防已黄耆湯、大柴胡湯、荊芥連翹湯
複数のタイプが混合している場合や上に挙げた以外の要因が強い場合など、個人差は千差万別なので、当薬局では時間をかけて問診し、じっくりと体質を見極めたうえで慎重に処方を選びます。
自分にベストの処方を知るには、漢方の専門家に相談するのが近道です。
◆睡眠時無呼吸症候群に関するニュース
2018年5月9日
京都大学の松本健 医学研究科客員研究員らは、7000人以上の調査にもとづき、肥満と睡眠呼吸障害が高血圧および糖尿病と関連があり、しかもその関連の度合いに性差・閉経前後で相違がみられることを解明したと発表しました。
睡眠障害と糖尿病および高血圧との関連を実証 -世界最大級、7000人以上を調査した「ながはまコホート」資料から-
研究結果は国際学術誌「SLEEP」にオンライン掲載されたとのことです。
関連ページ・症例・エッセイなど
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- 睡眠時無呼吸症候群の症例 (改善症例)