男性不妊症

(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高

丈夫で元気な正常精子 ー 漢方で造精機能を高めます

こちらのページでは、男性不妊症の漢方治療について解説します。当薬局では、「丈夫で元気な正常精子」をつくることができるようになるように、漢方薬で体質改善を進めます。

*目次*
漢方薬で「丈夫で元気な正常精子」を
男性不妊症とは
男性不妊症の漢方治療
体質別の漢方治療方針
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点

症例紹介ページもあります)

漢方薬で「丈夫で元気な正常精子」を

子どもができない原因のおよそ半分は男性側にあるといわれています。「じゅうぶんな量の精子が出ない」「精子の運動率がよくない」「奇形の精子が多い」などが主な理由です。精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)など原因が明らかな場合もありますが、多くの場合、原因不明です。

妊娠の成立に向けて、卵子の状態や女性の体調が大きく関係してくるのは当然ですが、同時に「丈夫で元気な正常精子」も必要不可欠であることに間違いはありません。

漢方では、漢方薬で造精機能(精子を造る機能)を高めて正常精子がつくられるようにし、さらに、出来上がった精子にたっぷりエネルギーや栄養を与えて精子を丈夫で元気にすることにより、男性不妊症の治療をします。

大事なのは、男性が「丈夫で元気な正常精子」をたくさんつくれる体質になることです。

男性不妊症とは

男性不妊症は、男性側に原因があって女性が妊娠しない状態を指します。食生活や生活環境の変化、あるいはストレスなどの影響により、近年では精子の運動率が低下し、精子数が減少している、という研究結果もあるようです。

男性不妊症には、以下のようなものがあります。

乏精子症   :精子の数が著しく少ない
無精子症   :精液中に精子が見当たらない
精子無力症:精子の運動率が低い
奇形精子症:精子の奇形率が高い(正常な形態の精子が少ない)

男性不妊症の漢方治療

漢方では、五臓六腑の腎(じん)を、男性不妊症に最も関連が深い臓腑と捉えています。五臓六腑は漢方の言葉で、人体の機能的単位です。腎はその五臓六腑のひとつで、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質(「精(せい)」といいます)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、ならびに水液や骨をつかさどる機能を指します。

したがって、精子の数や運動率、形態などは、生殖のために極めて重要な要因ですので、まさに腎の状態に大きく左右されることになります。腎の状態がよければ、精子の状態もよくなります。

腎の機能は、年齢とともに弱まります。精子も、年齢とともに老化して染色体異常が増えるという報告もあります。染色体の異常があると、たとえ受精卵ができて妊娠しても、その後成長し続けることができずに成長が止まり、流産となります(不育症)。腎気を高めておくことは、これらの予防にも有効です。まず大事なのは腎を養うことです。

当薬局では、以下の方針で男性不妊症の漢方治療をしています。

  • 方針A  造精機能を高めて正常精子をつくる
  • 方針B  出来上がった精子にたっぷりエネルギーや栄養を与え、精子を丈夫で元気にする


方針Aのためには、前述の「腎(じん)」を漢方薬で補い、養うことが基本となります。また、方針Bのためには、エネルギー(漢方で「気(き)」といいます)や栄養(漢方で「血(けつ)」といいます)を補い、かつ流れをさらさらにし、気(エネルギー)や血(栄養)がしっかりと細部にまで届くようにする漢方薬が重要な役割を果たします。

症例紹介ページもあります)

体質別の漢方治療方針

漢方には、「病気ではなく病人を治す」という基本概念があり、使う処方は、病名ではなく、その人の体質によって決まります。その人の体質や病状のことを漢方では「証(しょう)」といいます。したがって、男性不妊症にはこの処方が効く、というものはなく、ひとりひとりの証により、使われる漢方処方は異なってきます。

男性不妊症の患者さんに多くみられる証には、たとえば以下のようなものがあります。


(1) 腎陽虚証・・・冷えと機能低下で精子の運動率がダウン


精子の運動率がよくないなど、機能面で問題があり、同時に冷えが強いようなら、「腎陽虚(じんようきょ)」証です。五臓の腎の陽気が不足している体質です。陽気とは生命エネルギーに近い概念で、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて陽気と呼びます。

加齢や、生活の不摂生、過労、慢性疾患による体力低下などによって人体の機能が衰え、冷えが生じてこの証になります。腎陽が虚弱になると、性機能やホルモン内分泌機能が低下し、精子の機能も衰え、男性不妊症になります。

腎陽を補う漢方薬で男性不妊症に対処します。


(2) 腎陰虚証・・・腎精の不足で精子が少なく


精子の数が少ない、あるいは見当たらないような場合は、「腎陰虚(じんいんきょ)」証かもしれません。腎の陽気ではなく、腎の陰液が不足している体質です。陰液とは、血液や体液、それに前述の「精」のことを指します。

過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良、性生活の不摂生、加齢などにより精が減り、精子が減り、男性不妊症になります。腎の精など、腎陰を補う漢方薬で男性不妊症を治します。


(3) 肝鬱気滞証・・・ストレスで精子の元気が低下


ストレスも男性不妊と関係があります。ストレスの影響で精子の元気がないようなら、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。からだの諸機能を調節する臓腑である五臓の肝(かん)の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。

ストレスや緊張が持続することにより、この証になることがよくあります。肝気の流れの悪化の影響がホルモンバランスの失調に及び、男性不妊となります。

仕事の激務による疲労やストレスの蓄積、深夜残業による不規則な生活、家族や周囲からのプレッシャーなどが継続あるいは繰り返すことにより、この証になってしまう例をよくみます。

漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、男性不妊症を治していきます。


(4) 血瘀証・・・血行不良で精索を圧迫

精索静脈瘤など、血液の流れがわるいために精子の状態がよくないようなら、「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。

精神的ストレスや、冷え、体内の過剰な水液、生理機能の低下などにより、この証になります。病気や体調不良が慢性化して長引いて血流がわるくなり、この証になる場合もあります。

血流の悪化により腫れが生じて精索が圧迫されると、睾丸の温度が上昇したり、精巣にじゅうぶんな酸素や栄養が供給されなくなったりし、精子を造る機能(造精機能)が低下し、男性不妊症になります。血行を促進する漢方薬で男性不妊症を治療します。


(5) 痰湿証・・・不摂生が精巣の機能を阻害

食事の不摂生が原因で精子の元気がなくなるケースも少なくありません。「痰湿(たんしつ)」証です。痰湿というのは体内にたまった過剰な水分や湿気のことです。

食べすぎ、食事の不摂生などにより、この証になります。痰湿が精巣の機能を阻害するため、男性不妊症になります。痰湿を取り除く漢方薬で体質を改善し、男性不妊を治していきます。


(6) 湿熱証・・・湿熱邪が精巣の機能を阻害

痰湿が熱を帯びてさらに造精機能を低下させる「湿熱(しつねつ)」証もあります。湿熱は体内で過剰な湿邪と熱邪が結合したものです。

痰湿の長期化、あるいは、脂っこいもの、刺激物、味の濃いもの、生もの、アルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔なものの飲食などにより、この証になります。湿熱邪が精巣の機能を阻害することにより、男性不妊となります。漢方薬で湿熱を除去し、男性不妊症を改善していきます。

 

ほかにも男性不妊症にみられる証はたくさんあります。証が違えば薬も変わります。自分の証を正確に判断するためには、漢方の専門家のカウンセリングを受けることが、もっとも確実で安心です。

よく使われる漢方薬

  • ①八味地黄丸、牛車腎気丸など

精子の運動率がよくないなど、造精機能が弱く、同時に冷えが強い場合は、たとえば、八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)など、腎陽虚(じんようきょ)証を治療する処方を用います。

  • ②六味地黄丸、杞菊地黄丸など

精子の数が少ない、あるいは精子が見当たらないような場合は、たとえば、六味地黄丸(ろくみじおうがん)、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)など、腎陰虚(じんいんきょ)証を治療する処方を用います。

  • ③四逆散、逍遙散、加味逍遙散など

ストレスの影響で精子の元気がないようなら、たとえば、四逆散(しぎゃくさん)、逍遙散(しょうようさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)など、肝鬱気滞(かんうつきたい)証を治療する処方を使います。

  • ④桂枝茯苓丸、桃核承気湯など

精索静脈瘤など、血液の流れがわるいために精子の状態がよくないようなら、たとえば、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)など、血瘀(けつお)証を治療する処方を使います。

  • ⑤六君子湯、大柴胡湯など

食事の不摂生が原因で精子の元気がなくなるケースも少なくありません。その場合は、たとえば、六君子湯(りっくんしとう)、大柴胡湯(だいさいことう)など、痰湿(たんしつ)証を治療する処方が効果的です。

  • ⑥茵蔯蒿湯、竜胆瀉肝湯など

痰湿が熱を帯びてさらに造精機能を低下させている場合は、たとえば、茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)など、湿熱(しつねつ)証を治療する処方を用います。

 

ほかにも男性不妊症を治療する漢方薬は、たくさんあります。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の証(体質や病状)を的確に判断し、その人に最適な処方をオーダーメイドで調合しています。

予防/日常生活での注意点

漢方では、両親が心身ともに健康で充実しているときに妊娠できると考えています。ですから妊娠しにくいときは、漢方薬と日常生活の改善で男女両方の体調をととのえ、健康で元気な体調、ひいては「丈夫で元気な正常精子」を獲得していきます。そうすることにより、たとえば精子の数が少なくても、運動率が低くても、奇形率が高くても、妊娠する確率が高まります。

食生活においては、旬の新鮮なものを食べるようにしましょう。規則正しい生活を心がけることも大切です。ストレスをためないことも大切です。さらに、十分な睡眠や休養を心がけ、からだを冷やさないようにしましょう。喫煙は、控えましょう。

漢方薬と日常生活の改善を続けて体質が改善されると、精子が元気で丈夫になっていきますので、前向きに取り組んでください。

(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)

*執筆・監修者紹介*

幸井俊高 (こうい としたか)

東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社のサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・執筆、好評連載中。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は銀座で営業している。

あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証(体質や病状)により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。あなたの体質に合った漢方薬ですと、飲み続けるうちに体質が改善され、次第に「丈夫で元気な正常精子」をたくさんつくれる体質になっていきます。からだの内側から、体質そのものを漢方薬で改善してみてはいかがでしょうか。どうぞお気軽にご連絡ください。

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自分に合った漢方薬に出会うには

自分の病気を治し、症状を改善してくれる漢方薬は何か。それを判断するためには、その人の自覚症状や舌の状態など、多くの情報が必要です。漢方の場合、同じ病気でも、その人の体質や病状により、使う処方が異なるからです。

 

そのために必要なのが、丁寧な診察(カウンセリング)です。中医師など漢方の専門家がじっくりと話を聴くことにより、あなたの体質を判断し、あなたに最適な処方を決めていくのが、漢方の正当な診察の流れです。

 

そして、その際に最も大切なのは、信頼できる実力派の漢方の専門家の診察を受けることです。
(一般によくみられる、病名と検査結果だけをもとに、漢方が専門でない人が処方を決める方法では、最適の処方を選ぶことができず、治療効果はあまり期待できません。)

 

当薬局では、まず必要十分な診察(カウンセリング)を行い、その人の体質や病状をしっかりと把握し、それをもとに一人一人に最適な漢方薬を処方しています。

 

あなたに最適の漢方薬に出会う秘訣は、信頼できる漢方の専門家の診察(カウンセリング)を受けることです。

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