血管運動性鼻炎（寒暖差アレルギー）
血管運動性鼻炎（寒暖差アレルギー）に効く漢方薬
（こちらの記事の監修：中医師 幸井俊高）
血管運動性鼻炎（寒暖差アレルギー）の漢方治療について解説します。一般には抗ヒスタミン薬などが処方されますが、対症療法ですので、完治せずにいつまでも薬に頼らざるをえなくなることも多い病気です。漢方薬としては小青竜湯などが使われることがあるようですが、これも体質が合わないと効きません。当薬局では、患者さん一人一人の体質に合わせて漢方薬を処方し、血管運動性鼻炎の根本治療を進めています。
＊目次＊
血管運動性鼻炎（寒暖差アレルギー）とは
症状
原因
一般的な治療
漢方薬による治療
よく使われる漢方薬
予防/日常生活での注意点
（症例紹介ページもあります）
血管運動性鼻炎（寒暖差アレルギー）とは
血管運動性鼻炎は、アレルギー性鼻炎や花粉症と同じ症状が起こるのに、ハウスダストやスギ花粉などのアレルゲンがみつからないタイプの鼻炎です。おもに温度差（寒暖差）によって症状が表れます。アレルギー検査で陽性となるアレルゲン（抗原）が見当たらないのがアレルギー性鼻炎との違いです。寒暖差アレルギー、あるいは非アレルギー性鼻炎とも呼ばれています。
症状
よくみられる症状は、アレルギー性鼻炎や花粉症と同様、鼻水、鼻づまり、くしゃみなどです。後鼻漏、咳、喉の痛みなども生じます。
原因
原因としては、温度差（寒暖差）のほかに、低気圧の接近、寝不足、疲労、精神的ストレス、温かい食事、たばこの煙や香料や排気ガスの刺激、過度の飲酒、季節の変わり目、妊娠などが引き金となることもあります。はっきりとした原因は究明されていませんが、自律神経系のバランスの失調により自律神経が過敏に反応するようになり、鼻粘膜の毛細血管が充血して鼻粘膜が腫れることにより、鼻炎症状が起こると考えられています。
一般的な治療
治療には、薬物療法によって鼻水や鼻づまりなどの症状を抑える対症療法や、鼻炎を生じやすい体質そのものを改善していく方法などがあります。西洋医学では、おもに薬物療法が行われます。抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬が使われます。
漢方薬による治療
漢方では、鼻炎を生じやすい体質そのものを改善していきます。
くしゃみや鼻水などの症状は本来、ウイルスやハウスダストなど、体に悪影響のあるものを体外に排除するために生じている正常な反応です。ウイルスなどが体内に入ろうとしても、くしゃみや鼻水とともに体外に排泄されるわけです。
しかし鼻炎の場合は、日常的に存在している些細な刺激に対しても過敏に反応し、鼻水などの症状が出てしまっている状態です。この「些細な刺激に対しても過敏に反応してしまう体質」そのものを改善しようというのが漢方の治療方針です。
いま鼻炎と関係が深いのは、漢方でいう「表証（ひょうしょう）」という概念です。漢方では、体表や粘膜など浅い部分を「表」、深い内臓などを「裏」、と人体を区分しています。その表に病邪が存在する状態を「表証」、病気が進行して病邪が深部や五臓六腑に侵入した状態を「裏証」と呼んでいます。寒暖差アレルギーは、病邪が鼻粘膜など浅い部分に存在しているので、表証のひとつです。
したがって漢方では、表証を治療することにより、血管運動性鼻炎の根治を目指します。表証を治療することを「解表（げひょう）」といいます。解表が進むと、自律神経が良い意味で鈍感になり、自律神経の乱れがなくなり、些細な刺激に対して過敏に反応しなくなります。漢方薬で解表することによりアレルギーの治療を進めるのが、血管運動性鼻炎に対する漢方治療の基本です。
（症例紹介ページもあります）
よく使われる漢方薬
漢方では、患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決めます。同じ血管運動性鼻炎（寒暖差アレルギー）という病名でも、体質や病状が違えば効く漢方薬も異なります。一般には小青竜湯などが使われることがあるようですが、だれにでも効くわけではありません。以下に、血管運動性鼻炎に使われることの多い漢方薬を、みられることの多い体質とともに紹介します。患者さん一人一人の体質や病状に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。
- ①荊防敗毒散
くしゃみ、うすい鼻水など、冷えによる症状がみられるようなら、漢方でいう「表寒（ひょうかん）」という体質です。悪寒、軽度の発熱、くしゃみ、うすい分泌物（さらさらとした鼻水や痰）、全身あるいは局所的な冷えなどの症状が表れます。舌には白い舌苔が薄く付着しています。荊防敗毒散（けいぼうはいどくさん）など、表寒を解表する漢方薬で、血管運動性鼻炎を治療します。
- ②銀翹散
喉の痛み、粘り気のある鼻水など、熱っぽい症状がみられるようなら、漢方でいう「表熱（ひょうねつ）」という体質です。発熱、のぼせなどの熱感、目の充血、口渇、粘稠な分泌物（粘り気の強い鼻水や痰）などの症状が表れます。舌は、舌尖（ぜっせん：舌先のこと）や舌辺（ぜっぺん：舌の左右辺縁部）が紅く、舌苔は乾燥しています。銀翹散（ぎんぎょうさん）など、表熱を解表する漢方薬で、血管運動性鼻炎を治療します。
- ③香蘇散
自律神経系の失調と関係が深いようなら、「気滞（きたい）」という体質です。気の流れが鬱滞している体質です。自律神経系の緊張や亢進による血流の停滞などに相当します。香蘇散（こうそさん）など、気の流れを促進する漢方薬で、血管運動性鼻炎を治療します。
- ④小青竜湯
さらさらと水のような鼻水が流れ出るようなら、「寒痰（かんたん）」という体質です。正常な体液（津液（しんえき）といいます）が水分代謝の失調などにより異常な水液と化した病理的産物のことを痰飲（たんいん）と呼びますが、この痰飲が冷えと結びついたものが、寒痰です。くしゃみ、後鼻漏などもみられます。小青竜湯（しょうせいりゅうとう）などの漢方薬で寒痰を除去し、血管運動性鼻炎を治療します。
- ⑤麻黄附子細辛湯
疲れやすく、寒がりで、かぜを引きやすいようなタイプなら、漢方でいう「陽虚（ようきょ）」という体質です。新陳代謝が衰えて、体が温まりにくい体質です。基礎代謝が低く、血行が悪いので、鼻炎がなかなか治りません。麻黄附子細辛湯（まおうぶしさいしんとう）などの漢方薬で代謝を高め、自分の力で体を温められるような体質に近づけ、血管運動性鼻炎を治療します。
ほかにも血管運動性鼻炎（寒暖差アレルギー）にみられる体質はたくさんあります。体質が違えば薬も変わります。自分の体質を正確に判断するためには、漢方の専門家の診察（カウンセリング）を受けることが、もっとも確実で安心です。当薬局では、漢方の専門家が一人一人の体質を的確に判断し、その人に最適な漢方薬をオーダーメイドで処方しています。
予防／日常生活での注意点
日常生活では、自律神経系のバランスを整えるために、規則正しい生活と、じゅうぶんな休養や睡眠をとるように心がけましょう。たんぱく質やビタミン、ミネラル類が豊富な食材を中心に栄養バランスの取れた食事で体調をととのえ、散歩やストレッチなどの軽い運動で血流を改善しましょう。アルコール類の飲み過ぎに注意し、喫煙は控えましょう。
（こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載）
＊執筆・監修者紹介＊
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を25冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社の医師・薬剤師向けサイト「日経メディカル(日経DI:ドラッグインフォメーション)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・連載・執筆。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル東京内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は東京・銀座で営業している。
あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの証（体質や病状）により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、正確に処方の判断ができる漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。どうぞお気軽にご連絡ください。
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