免疫力を高める漢方薬(症例)
(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高)
漢方で免疫力をアップ − 漢方薬で免疫力を高めて病気の予防や早期回復を
こちらは、免疫力を漢方で高めて病気を治療した症例を紹介するページです。免疫力の低下により発症する病気はたくさんあり、以下はほんの一例です。がん(癌)の漢方治療など、下記の症例以外の病気や症状については個別の解説・症例ページもありますので、必要に応じて参考にしてください。
漢方では、患者一人一人の証(しょう)に合わせて、処方を判断します。証とは、患者の体質や病状のことです。患者一人一人の証(体質や病状)に合わせて処方を決め、治療を進めるのが漢方治療の特徴です。
(こちらは症例紹介ページです。解説ページはこちら)
症例1 繰り返す口唇ヘルペスを漢方薬で根本治療
「忙しくなり寝不足が続くと、口唇ヘルペスが繰り返し出ます。口内炎にもなりやすく、体調がわるいときは歯ブラシの先が頬の内側に当たっただけで口内炎になります」
先日は歯が痛くなり、歯科で診てもらったところ、歯周病と診断されました。いろいろと体調を崩すので免疫力が低下しているのではないか、と言われました。もともと胃腸が丈夫ではなく、よく下痢をします。もっと丈夫になりたいと思っています。舌は白くぽってりと大きめで、白い舌苔がべっとりと付着しています。舌にも口内炎ができていました。
この患者さんの証は、「脾気虚(ひききょ)」です。五臓の脾の機能(脾気)が弱い体質です。気は、免疫力を含む生命エネルギーを意味しますが、その気がじゅうぶん脾で生成されないため体内の気が不足し、免疫力が低下しています。疲れると体調を崩す、口内炎、下痢しやすい、ぽってりと大きく白っぽい色の舌、べっとりとした白い舌苔などは、この証の特徴です。嘔吐、咳嗽などの症状がみられることもあります。
この証の場合には、漢方薬で脾気を強めることにより、免疫力低下の治療を進めます。この患者さんには、舌の状態などから判断し、香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)を服用してもらいました。口内炎は漢方薬を服用し始めて1週間で完治しました。胃腸の調子がいいので服用し続け、8か月後には寝不足が続いても口唇ヘルペスなど体調を崩すことなく生活できるまでになりました。
症例2 扁桃炎やインフルエンザにかかりやすい体質を根本から強化
「小さい頃からのどが弱く、よく痛みます。疲れがたまるとすぐ扁桃腺がはれ、扁桃炎になります。病院では慢性扁桃炎と診断されています」
かぜをひきやすく、このところ毎年インフルエンザにかかっています。免疫力が低いようなので栄養のいいものをバランスよく食べるように言われますが、前から食事には気を遣っているのに丈夫になりません。舌は紅く、舌苔はあまり付着しておりません。
この患者さんは、「肺陰虚(はいいんきょ)」証です。肺は五臓のひとつで、呼吸器や鼻、のど、皮膚と深い関係にあります。この肺の陰液(肺陰)が不足している体質が、この証です。陰液不足で呼吸器などの粘膜などがじゅうぶん潤わず、病原体に感染しやすくなっています。
この体質の場合は、肺の陰液を補う漢方薬で免疫力を強めていきます。この患者さんには麦味地黄丸(ばくみじおうがん)を服用してもらった結果、次第に扁桃炎にかかる頻度が減り、その年の秋冬にはインフルエンザにかかることもなく元気に過ごせました。
症例3 繰り返すカンジダ症や膀胱炎を漢方で完治
「ときどきカンジダ症にかかります。かぜをひきやすく、先日は、かぜをひいて抗生物質を服用した際に膣カンジダが再発しました」
カンジダ症について、最初は数年前に陰部のかゆみと白濁した帯下が生じて婦人科を受診し、診断されました。今回の再発は、免疫力の低下と抗生物質の使用により常在菌のバランスが崩れたのが原因でしょう、と言われました。婦人科系ではありませんが、膀胱炎や尿道炎にもかかりやすく、冷えるとすぐ再発します。尿の回数は少ないほうです。足が冷え、よくむくみます。舌は淡白色で湿っており、舌苔も白くて湿っています。
この患者さんの証は、「腎陽虚(じんようきょ)」です。生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵する腎の機能(腎陽)がじゅうぶんでない体質です。腎陽の衰えが正気の減衰につながり、免疫力が低下しています。冷え、淡白色で湿った舌、湿った白い舌苔などは、この証の特徴です。腰や膝がだるい、ふらつき、耳鳴りなどの症状がみられることもあります。
この体質の場合は、漢方薬で腎陽を補い、免疫力を高めていきます。代表的な処方は、八味地黄丸(はちみじおうがん)です。この患者さんには、むくみ、尿の回数が少ない、などの症状もみられたので牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を服用してもらいました。服用を始めて1か月で、むくみや尿の状態が改善され、翌年からはカンジダ症や膀胱炎にかかることがほとんどなくなりました。
(こちらの記事は「薬石花房 幸福薬局」幸井俊高が執筆・監修しました。日経DIオンラインにも掲載)
*執筆・監修者紹介*
幸井俊高 (こうい としたか)
東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。中国政府より日本人として18人目の中医師の認定を受ける。「薬石花房 幸福薬局」院長。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。日本経済新聞社のサイト「日経メディカル(日経DI)」や「日経グッデイ」にて長年にわたり漢方コラムを担当・執筆、好評連載中。中国、台湾、韓国など海外での出版も多い。17年間にわたり帝国ホテル内で営業したのち、ホテルの建て替えに伴い、現在は銀座で営業している。
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