保険適用の漢方の3大デメリット

保険適用の漢方処方は安い、
しかし・・・

漢方を試したい人に共通する願いは

早く治したい。
値段を抑えたい。

そして多くの人が

保険診療の漢方なら値段が安くてよいのではないか。

と考えます。

保険が使える漢方薬は確かに値段が安いです。

でも残念ながら「早く治したい」という願いに対して必ずしも期待に応えてくれないのも実情です。

漢方を専門とする薬剤師や医師が、治療効果の高さで保険適用の漢方をお勧めすることはあまりないでしょう。

その理由を漢方ガイドのマルガリータ・ユキが分かりやすく解説します。

 

漢方を入手する4つの方法の値段比較

保険が適用される漢方は、4つの入手方法のうちの1つです。

A  病院で医師が保険診療で処方する漢方

B  病院で医師が自由診療で処方する漢方

C  漢方相談薬局で薬剤師が処方する漢方

D ドラッグストア等で自由に買える漢方

保険が効くのは A「病院で医師が保険診療で処方する漢方」だけです。

まずは4つの方法による漢方薬の価格を比べてみましょう。

1か月分の漢方薬代の目安
煎じ薬 エキス剤
A ]病院で医師が保険診療で処方する漢方 処方によるが5000円程度が目安(3割自己負担の場合)
B 病院で医師が自由診療で処方する漢方 2~4万円が目安だが処方によってそれ以上の場合もある 1~3万円程度
C 漢方相談薬局で薬剤師が処方する漢方 3~5万円が目安だがそれ以下・以上の場合もある 1~3万円程度
D ドラッグストア等で自由に買える漢方 なし 5000円~1万円

こうしてみるとAの保険診療による漢方薬の価格は魅力的です。また保険診療においては薬価が定められているため、同じ処方であればどこの病院・薬局でも値段は同じです。

Dのドラッグストア等も値段が安いので、自分に合う薬がわかっている場合は利用価値が高いといえます。

ただ、Dの漢方薬は一般用医薬品なので、医療機関で処方される医療用の漢方薬より用量が少なくなっており、その分効果がゆるやかです。

BとCは、とても高いですね。値段だけで考えるとちょっと手が出ないと思われるのも無理がありません。

実はBとCは高いだけの価値があるから高いのです。「早く治したい」という願いをかなえるために、なぜ保険診療の漢方がおすすめできないのか、ご説明しましょう。

4つの方法をもっと詳しく
漢方を入手する4つの方法を比較

保険適用の漢方の 3大デメリット 

保険適用の漢方薬には治療効果上、3つの大きなデメリットがあります。

①煎じ薬より効き目の劣る「エキス剤」が主体

②漢方薬の原料(生薬)の品質を下げざるを得ない

③漢方の専門知識を持たない医師が処方することが多い

以下に順番に説明します。

 デメリット1  煎じ薬より効き目の劣る「エキス剤」が主体

保険診療が適用される漢方薬は厚生労働書が指定する処方に限られ、ほとんどの場合、大手製薬メーカーが製造した「エキス剤」が用いられます。「ツムラの〇〇番」とメーカー名で称されるような顆粒状の漢方薬がこれにあたります。

これに対して煎じ薬は、数種の生薬(薬効のある植物を乾燥させたものなど)を煮出して煎じ液を薬とするものです。

煎じ薬の方が薬効が高く、エキス剤との違いは、本格的なコーヒーとインスタントコーヒーとの差以上のものがあるといわれます。

実は保険適用は煎じ薬でも可能なのですが、煎じ薬を保険で処方してくれる医療機関はとても限られている上、その処方箋を受け付けて調剤してくれる薬局も少ないのが現実です。

次項で説明しますが、現在の薬価制度の中で煎じ薬を保険調剤すること自体が困難になっているため、煎じ薬に対応できない薬局が増え、続けていても原料の品質を下げざるを得ない状況となっているのです。

このため、保険適用の漢方薬は、煎じ薬より効き目の劣る「エキス剤」が主体となっています。

これに対し、病院の自由診療や、漢方相談専門の薬局では治療効果が高い煎じ薬を推奨し、提供しているところが多いのです。これは「早く治す」ことにつながります。

漢方外来で実績を持つ 北里大学 漢方鍼灸治療センターのサイトには、良質な生薬を用いた煎じ薬の治療効果について次のように記してあります。

「当センターの煎じ薬は、一般用医薬品はもちろんエキス製剤と比べても、多くの有効成分を含んでいます。(中略)薬局や保険の漢方薬で十分効果が見られず、当センターの(同じ種類の)煎じ薬で症状が改善することは珍しくありません。」(【当センターの特徴】漢方鍼灸治療センター|北里大学東洋医学総合研究所 (kitasato-u.ac.jp)

 

 デメリット2  漢方薬の原料(生薬)の品質を下げざるを得ない

保険調剤においては厚生労働省の定める薬価を守って薬を販売しなければなりません。そして漢方薬の薬価は低く抑えられています。

一方で原料の生薬の価格は上昇しています。調査によると日本の漢方薬の原料の大半(約80%)を占める中国産の生薬の価格は2014年までの8年間で2.4倍となりました。(日本製薬製剤協会 中国産原料生薬の価格調査 第3回(2015年実施)

このような状況で煎じ薬の保険調剤を続けている薬局からは次のような悲鳴が上がっています。

「薬価差が少なく、逆ざやになっている」「逆ざやを避けるために品質を落とさざるをえない」「伝統医学である煎じ薬がこのままでは無くなる恐れがある」(日本東洋医学雑誌60巻6号掲載「煎じ薬の調剤の現状と問題点」

品質の悪い生薬とは薬効に劣る原料のことであり、それを使った漢方薬の治療効果が低いのは当然です。保険適用で効き目に優れた煎じ薬を入手するのはほぼ不可能になりつつあるといってよいでしょう。

この品質の問題はエキス剤にも影を投げかけています。

エキス剤大手のツムラの空田幸徳医薬営業本部長は、次のように語っています。

「今後、毎年改定で薬価の引下げがさらに続くと、高品質な医療用漢方製剤の供給に支障を来すことも予想されます。」(日本医事新報Web版(No.4944 (2019年01月26日発行) P.14))

各メーカーとも品質保持のために最大限の努力をしているに違いありませんが、保険適用の漢方薬が一様に品質低下の圧力に直面していることは否定できません。

これに対し、病院の自由診療や、漢方相談専門の薬局では、自由な価格設定ができるため、良質の生薬を選んで使うことで漢方薬の高い品質を保つことができます。それはすなわち「よく効く」「早く治る」ということを意味します。

 

 デメリット3  漢方の専門知識を持たない医師が処方することが多い

「保険診療で処方された漢方が効かない」という場合、一番典型的なのがこの理由です。

中医師の資格を取得するなど漢方を十分修得した医師の数は少なく、医療機関で漢方薬を処方してもらう場合、漢方に詳しい医師ばかりではないのが現状です。

専門知識がない医師は、エキス剤メーカーなどが作成したマニュアルなどを頼りに、患者の症状に対応させて漢方薬を選びます。たとえば更年期障害のホットフラッシュなら加味逍遙散か知柏地黄丸など。

それが結果的に体質に合う処方だったためよく効いた、という場合は大変結構なのですが、本来その患者にベストな処方ではなかった、的外れであった、というケースが少なくありません。

漢方を専門とする薬剤師や医師は、時間をかけて問診し、表れている症状自体よりも、その症状が引き起こされるに至った根本原因をさぐりあてます。その人の「証(しょう)を見る」といわれ、処方を決めるのに不可欠なプロセスです。

従って、同じ症状が出ていても人によって処方が異なります。出ている症状に対して薬を選ぶ西洋医学とは全く違うアプローチです。

処方された漢方薬が的外れであった場合、いくら飲んでも効果はありません。

また不適切な処方で却って体調が悪化する恐れもあります。

これに対し、漢方相談専門の薬剤師や自由診療を行う医師は、証を見る方法を身に着けており、じっくりとカウンセリングすることを通じて的確な処方を選ぶことができます。

「早く治す」ためには、正しい処方を用いることが不可欠なのは言うまでもありません。

 

それでも保険適用の漢方にするか

以上、保険適用の漢方薬の3つの大きなデメリットを説明しました。

①煎じ薬より効き目の劣る「エキス剤」が主体

②漢方薬の原料(生薬)の品質を下げざるを得ない

③漢方の専門知識を持たない医師が処方することが多い

これらはいずれも、漢方の治療効果上の大きなマイナス要因です。

もちろん、保険適用の漢方が多くの患者さんに効果を発揮しているのも事実です。

本格的な漢方の専門知識を身につけた医師が保険適用内での処方を駆使して成果を上げている病院もあります。(慶応大学漢方医学センター、東邦大学大森医療センター、千葉大学医学部付属病院、一部の開業医など)

保険をつかいながら効果的な治療が受けられ、症状が改善するならば、それが何よりです。

初めて漢方を試そうとお考えの方は、こうしたさまざまなメリット・デメリットを考慮の上、入手先を選ぶようにしましょう。

また保険適用の漢方を長く服用しているが、あまり改善がみられない場合、3つのデメリットのいずれかが原因かもしれません。安いとはいっても漫然と続けているのは無駄なことです。信頼できる専門家を見つけて治療効果をアップするほうが結局はよい選択ではないでしょうか。

信頼できる専門家の見つけ方は次のページで解説します。

→ 信頼できる漢方相談の選び方