加味逍遙散

(こちらの記事の監修:中医師 幸井俊高

加味逍遙散が合わない人もいる? – 自分に合った漢方薬の選び方

「加味逍遙散を飲んでいるのに効果を感じない」「加味逍遙散を飲んでも全然よくならない」など、加味逍遙散が合わないで困っている人が少なからずいます。湿疹、肌荒れ、吐き気、体重増加などの副作用に悩む人もいます。このページでは、加味逍遙散が合わない理由と、自分に合った漢方薬の選び方について解説しました。漢方薬局のスタッフが院長先生に質問する問答形式で、わかりやすく解説します。

1 加味逍遙散は効かない人もいる

ユキ(漢方薬局スタッフ):加味逍遙散について教えてください。少し調べたところ、月経不順、月経困難症、更年期障害、PMS(月経前症候群)などに効くみたいですね。

先生(院長):加味逍遙散は、そういう女性特有の病気だけでなく、男女を問わず、不眠症、情緒不安定など、精神的な病気や症状にも用いられる処方です。ニキビなどに使われることもあります。よく効くこともありますが、誰にでも効くわけではありません。

ユキ:それはなぜですか。

先生:漢方は、病名ではなく、その人の体質に合わせて処方が決まるからです。同じ病気や体調不良でも、それを引き起こしている体質やバランスの偏りといった根本原因が人によって違うので、効く人と効かない人が出てくるのです。

ユキ:同じ病気でも、加味逍遙散が効く体質だったら治るけど、加味逍遙散が効かない体質だったら治らない、ということですね。

先生:そうです。

2 では自分に合った漢方薬は何?

ユキ:加味逍遙散が合わない背景には何があるのですか。

先生:おもに3つ考えられます。

①処方を決めたのが、漢方の専門家かどうか
②十分なカウンセリングや診察を受けたかどうか
③原料は、品質の高いものかどうか

①について、加味逍遙散を処方した人は、中医師など、漢方の専門家でしたか?経歴や実績、学歴など、信頼できる人でしたか?いくら立派な医師や薬剤師でも、漢方に詳しくない人に正確な処方判断は難しいでしょう。

②について、しっかり話を聞いてもらえましたか?最低でも15分はカウンセリングをしないと、正確な処方は決められません。そして舌を見てもらいましたか?舌も見ないで漢方処方を判断するのは困難です。

③について、同じ処方でも、原料が良くないと、効き目が表れません。

ユキ:漢方に詳しくない医師や薬剤師が、その人の体質に合っていないのに、生理不順やPMSといった病名に惑わされて安易に加味逍遙散を処方した、というケースが多そうですね。

先生:加味逍遙散が合っているかどうかは、中医師など、漢方の専門家がカウンセリングすれば分かります。ちゃんとしたカウンセリングをせずに、たとえば更年期障害だから加味逍遙散、と処方された場合や、一般の人がネットや本で調べて加味逍遙散を選んだ場合は、まず間違っています。

ユキ:漢方を飲む場合は、信頼できる漢方の専門家に相談し、しっかりカウンセリングをしてもらい、舌を見てもらった上で、自分に合った漢方薬を処方してもらうのが一番、ということですね。

先生:私の薬局で生理不順やPMSに加味逍遙散を処方する割合は、5%もありません。多くの患者さんは、加味逍遙散以外の処方でちゃんと生理不順やPMSを治しています。信頼できる漢方の専門家に、自分に合った漢方薬を処方してもらってください。

(参考)加味逍遙散が効く体質

ユキ:参考までに教えてください。加味逍遙散は、具体的にはどんな体質の人に効きますか。

先生:少し専門的になりますが、加味逍遙散は「肝鬱化火、血虚脾虚」という体質の人にのみ効く処方です。簡単にですが、次の表にまとめました。表の中の症状が当てはまれば加味逍遙散が効く可能性が高くなります。あまり当てはまらないようなら、加味逍遙散を飲んでも効かない、つまり加味逍遙散は合わないでしょう。

漢方的な問題点 出やすい症状
①   肝鬱 気の流れが滞る(多くはストレスから) ▢憂うつ感▢情緒不安定▢いらいら▢怒りっぽい▢胸苦しい▢ため息が多い▢胸脇部が張って苦しい▢肩こり▢咳嗽▢動悸▢腹痛▢腹部膨満感▢便秘と下痢を繰り返す▢すっきり排便しない▢便が細い▢切れ切れの便が出る
②   血虚 (局部的に)栄養が行き渡らない ▢頭がぼーっとする▢ふらつく▢目の疲れ▢手足のしびれ▢動悸▢眠りが浅い▢夢をよく見る
③   脾虚 消化吸収力が弱い ▢食欲不振▢疲れやすい▢ガスの停滞▢腹部膨満感▢おなかが鳴る▢軟便▢下痢▢便秘
④   熱 余分な熱が発生 ▢微熱▢いらいらや怒りっぽさの高まり▢のぼせ▢ふらつき▢多汗▢頭痛▢顔面紅潮▢目の充血▢口の渇き▢湿疹▢便秘▢舌が赤く黄色い舌苔が付着

先生:私の薬局では、患者さんの症状の出方や背景となる情報をカウンセリングで丁寧にお聞きした上で、その人にあった処方を見極めます。加味逍遙散が合う体質でなければ、よりよい別の処方を組んでお出ししています。

ユキ:自分に合った漢方薬の判断は、漢方の専門家でないと難しそうですね。

先生:西洋医学が専門の医師が、自分の専門外の漢方薬を処方する場合、どうしてもマニュアルに基づいて判断してしまいます。その結果、「生理や更年期の問題なら加味逍遙散」と一律に出されることになっています。専門が違うためやむをえませんが、実際には合わない場合も多く、それではいくら飲んでも効きません。

では何を選べばよいかというと、やはり漢方の専門家が詳しくカウンセリングや診察をし、一人一人の体質をみさせていただかないと何とも言えません。専門外の人の判断や自己判断に頼らず、漢方の専門家に相談して自分に合った漢方薬を服用してください。


*執筆・監修者紹介*

幸井俊高 (こうい としたか)

東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。帝国ホテル内「薬石花房 幸福薬局」代表。薬剤師・中医師。『医師・薬剤師のための漢方のエッセンス』『漢方治療指針』(日経BP)、『舌をみれば病気がわかる』(河出書房新社)など漢方関連書籍を20冊以上執筆・出版している。『舌をみれば病気がわかる』は中国と台湾でも翻訳・出版されている。日本経済新聞社サイト「日経グッデイ」「日経DI(ドラッグインフォメーション)」にて漢方コラムを好評連載中。

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あなたに合った漢方薬が何かは、あなたの体質や病状により異なります。自分に合った漢方薬を選ぶためには、漢方の専門家に相談することが、もっとも安心で確実です。当薬局でもご相談、ご予約を受け付けています。どうぞお気軽にご連絡ください。

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