更年期障害

更年期障害が出ない人はナゼ?・・・漢方の視点で解き明かす

漢方ガイドのマルガリータ・ユキです。更年期障害について、帝国ホテルプラザ内の「薬石花房 幸福薬局」の中医師・幸井俊高先生に、お話をうかがいました。

ユキ:更年期障害にはずいぶん個人差があるようです。ホットフラッシュ、肩こり、動悸、感情のコントロールができなくなるなど、様々な症状が強く出て困っている方も多いようですね。なぜこのような症状が出るのですか。

先生:更年期障害のおもな原因は女性ホルモン量の急激な減少です。加えてこの時期に体内では自律神経系の失調や、循環器系や消化器系、泌尿器系、皮膚や筋肉の機能低下も同時に進行しています。精神面でも、家庭内のストレスや老後への不安が高まる年齢です。

これらの変化についていけず、心身の各所でバランスが崩れて症状として表れるのです。

ユキ:更年期障害が全然出ない方もいらっしゃるのはなぜですか。

先生:年齢による体内の変化は起こっているはずですが、いい意味でからだが「鈍感」なため不快な症状が表れないのでしょう。変化に対して過敏に反応するのではなく、それを受け止めるしなやかさがあるのです。柔軟なバランス調整力があるのですね。

漢方では、このバランス調整力を強化して更年期のダメージを受けにくい体質にしていくことを目指します。それが健康な老後にもつながっていきます。

ホルモン治療と漢方の関係は?

ユキ:症状を抑えるためにホルモン治療が効果的と聞きますが。

先生:ホルモンを補充すれば体内のホルモンの急激な減少を緩和できるので症状が抑えられます。生活に困るほどの症状の場合は一時的な選択肢として考えてもいいかもしれません。

しかしダメージを受けやすい体質はそのままですから、漢方薬を服用し、自分自身でバランスを調整していく力を強化することも重要でしょう。

ユキ:更年期障害の漢方薬相談に見える方はどんなケースが多いですか。

先生:つらい症状はいろいろで、たとえば肩こり、疲れやすい、頭痛、のぼせ、腰痛、発汗、不眠、いらいら、皮膚掻痒感、動悸、気分がしずむ、めまい、胃もたれ、冷え、のどの違和感などです。

ホルモン療法に不自然さや副作用の心配を感じて見える方がほとんどです。

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漢方の視点による更年期障害のタイプと対処法

ユキ:漢方ではどのような処方を用いるのですか。

先生:一言で更年期障害といっても、心身のどのあたりのバランスが崩れているのかは人によって違います。漢方の視点からそれを見極め、根本的な問題部分に作用する処方を選びます。

ユキ:多くみられる例を教えてください。

先生:更年期障害の背景としてよく見られるのは五臓の腎、肝、あるいは心の不調です。

腎(じん)・・・女性ホルモンと関係が深い
肝(かん)・・・自律神経や情緒の安定と関係が深い
心(しん)・・・安定した思考力や判断力と関係が深い

タイプとしては次の3つに類する方が多くみられます。混合型や症状の出かたの違いなど個人差がありますので実際には必ずしも明確に分類できるわけではなく、たとえばベースにある血行不良や水分代謝不良の改善を優先する場合などもあります。おひとりおひとりの状態を慎重に見極めて処方を選びます。

冷え症タイプの更年期障害は漢方で内側からも温める
(1)「腎陽虚(じんようきょ)」・・・腎の機能が低下して、体を温め元気にするエネルギーが不足した状態です。冷えを伴う症状が多く、胃腸や泌尿器科系の機能低下も見られがちです。

出やすい症状は、腰から下の冷え、水の中に座っているような感じ、下半身のむくみ、胃腸の不調、おなかの張り、生理の量が少ない、不正出血がある、重い腰痛、疲れやだるさ、頻尿、尿失禁など。他にも髪の質の低下や脱毛、健忘、骨量の低下、血圧の上昇、動悸、息切れなどの症状が見られることもあります。舌は白っぽくぽっちゃりしています。

代表的な処方:八味地黄丸、牛車腎気丸
腎陽虚ほどではないが冷えを伴う場合:五積散、温経湯、当帰芍薬散

乾燥タイプの更年期障害は漢方で潤いを補給してクールダウン
(2)「腎陰虚(じんいんきょ)」・・・やはり腎の機能の低下ですが、体液などの水分が減少したタイプです。水分の減少によって相対的に熱が過剰になり、熱証が生じます。

出やすい症状は、ほてり、からだの熱感、口の渇き、ドライアイ、肌の乾燥、かゆみ、耳鳴り、めまいなどです。手足がほてって寝ているときに布団から手足を出すことや、便も水分が減って硬くなり、便秘や痔になることもあります。舌は紅く、舌苔はほとんど付着していません

代表的な処方:杞菊地黄丸、六味地黄丸、知柏地黄丸、滋陰降火湯

精神不安定タイプの更年期障害は漢方で「肝」「心」を落ち着かせて
(3)「肝気鬱結(かんきうっけつ)」および「肝火(かんか)」「心火(しんか)」・・・自律神経系や情緒が不安定になり肝の機能が伸びやかでなくなっているタイプです。肝の機能は、精神的なストレスなどで乱れますが、ホルモンバランスの急激な変化にも影響を受けます。ひどくなると熱を帯びます。

出やすい症状は、いらいら、怒りっぽい、憂うつ、落ち込み、動悸、便秘と下痢を繰り返す、便秘のときはコロコロとしたウサギの糞のような便、頭痛、肩こりなどです。舌は紅く、舌苔は黄色です。めまい、のぼせ、頭痛が強い場合は心の機能亢進による「心火」も多くみられます。これらのタイプに対しては、肝・心の機能を安定させつつ、ホットフラッシュなどの熱証を取り除く処方で更年期障害を改善させます。

代表的な処方:四逆散、半夏厚朴湯、逍遙散、加味逍遙散、竜胆瀉肝湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、女神散

 

ホットフラッシュにはどう対応する?

ユキ:ホットフラッシュについて漢方の視点からアドバイスをお願いします。

先生ホットフラッシュが起こりやすいのは上の(2)、(3)およびその混合型のタイプです。症状がひどく迅速に熱をとりたい場合は黄連解毒湯など熱を冷ます目的の処方を併用しながら体質改善を目指すこともあります。

また体液が不足している(2)のタイプでは水分を補う必要がありますが、水をたくさん飲んでもあまり効果がありません。腎陰虚は、からだが水分を「保持」する能力が低下している体質です。飲みすぎた水分は尿などとして排泄されるだけです。

大事なのは、水分を「保持」する力です。からだの水分保持能力を高めるためには、漢方薬による腎陰虚の改善が有効です。

 

ユキの感想:
更年期障害とは、女性ホルモン低下などの急な変化に対して個々の体質に応じてさまざまな反応が出ている状態だということがわかりました。人によって不調が起こりやすい部分が違うので、各自の体質の違いに応じた漢方薬を調合してもらえるなら、いわばオーダーメイドの更年期障害治療ができそうです。体質をしっかり見極められる専門家に相談することが大事ですね。

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