女神散

更年期障害やPMSに女神散・・・効く人と効かない人がいる

漢方ガイドのマルガリータ・ユキです。女神散(にょしんさん)について、帝国ホテルプラザ内「薬石花房 幸福薬局」の中医師・幸井俊高先生にお話をうかがいました。

女神散の入手方法はこちら(保険適用など) → 漢方を手に入れる4つの方法

ユキ:女神散は更年期障害、月経前症候群(PMS)、自律神経失調症などにおける、いらいら、めまい、のぼせ、頭痛などに対して処方されることが多いようです。このような症状の方に効く漢方薬と考えればよいのでしょうか。

先生:女神散は、めまいやのぼせ、精神症状を伴う女性の不調などに効果を発揮する薬ですが、同じような症状が出ていても効かない場合もあります。そういう方にはベストの処方が他にあります。

漢方の場合、表面的な症状だけから、その症状にはこの漢方処方、とは一概に言えません。漢方薬は、症状や病名ではなく、患者さんの「体質」に合わせて処方が決まるからです。

女神散が効くタイプの人とは?

ユキ:では女神散はどのような「体質」の人に効くのでしょうか。

先生:女神散は「気滞血瘀、心火旺、気血両虚」証を改善する処方です。この「証(しょう)」というのが「体質」に近い概念です。以下に分かりやすく説明しますが、女神散は次の(1)(2)(3)の状態が重なっている体質の方に効く薬です。当てはまる症状が多い場合は女神散が効く可能性が高いといえます。

(1) 気滞血瘀(きたいけつお)の状態
体内の「気」の流れの停滞(気滞)と「血」の流れの停滞(血瘀)が同時に起こっています。両者は影響しやすいので併発しやすい状態です。

気の流れはトレスや、緊張、感情の起伏などで滞りやすく、憂うつ感、胸苦しい、腹部膨満感、吐き気、腹痛などの症状が生じます。これに加え、血の流れがわるいことにより生じる頭痛、肩こり、冷えのぼせ、月経痛などの症候がみられます。

(2) 心火旺(しんかおう)の状態
五臓の心(しん)は、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動をつかさどります。この心の機能が過度の刺激を受けて亢進し、熱を帯びたのが「心火旺」証です。

気が体内を上昇してのぼせ、めまい(眩暈)、頭痛、頭重感、焦燥感、落ち着かない、いらいら、不安、強い不眠、動悸、肩こり、胸苦しい、などの症状が表れます。

心火が上に行くので下半身は気血がめぐらず冷え、「上熱下寒」の状態となります。身体上部の充血や、自律神経系の興奮と関係があります。

(3) 気血両虚(きけつりょうきょ)の状態
背景には、「気」の不足(気虚)と「血」の不足(血虚)があります。疲れやすい、元気がない、食欲不振、目がかすむ、しびれ、月経不順、月経量が少ない、などの症状がみられます。

ユキ:3つも条件があり、女神散が合うタイプはかなり条件が限定されているように思われます。一方で症状に幅が合って見分けるのが難しそうで困ってしまいますが。

先生:説明すると複雑で捉えにくく聞こえますが、実際このタイプになっている方は少なくありません。たとえば月経異常や産前産後、流産後など、血虚や血瘀の状態に、ストレスが加わって気滞が重なった場合などです。

多種の証が絡み合っているために体質的な特徴を簡潔に言い表せない面もありますが、心火旺による上衝で生じる、ぐらぐらと動揺するようなめまい、のぼせといった症状は捉えやすい特徴といえます。

また神経症状も含めて症状が一定であまり変化せず、長期化している場合が多いのも特徴です。舌は紅く、薄黄色い舌苔が付着しています。

ユキ:タイプが合えばどのような病気・症状に効果があるのですか。

先生:女神散の臨床応用範囲は、自律神経失調症、更年期障害、月経不順、血の道症、不眠症、ヒステリー、うつ病、パニック障害、過呼吸(過換気症候群)、統合失調症、不安神経症など各種神経症、とくに産前産後の神経症、頭痛、腰痛、便秘、神経性胃腸炎、アトピー性皮膚炎、貧血などです。タイプが合えば、男性にもよく効きます。

女神散が効かない場合はどうする?

ユキ:タイプが合わない場合はどうすればよいですか。

先生:タイプが合わない場合や女神散を試しても効かない場合は信頼性の高い漢方の専門家に相談して証(タイプ)を判断してもらってください。女神散より効く処方を出してもらえるはずです。

→ どうすれば、信頼できる漢方の専門家に出会えるのか

以下は大まかな参考例です。他にも選択肢は多く、実際には詳しい問診や舌診をして体質を見極めることによって、初めてベストの処方にたどり着きます。

女神散か加味逍遙散か
加味逍遙散が適応する証と症状が似ていますが、加味逍遙散は比較的、虚証で症状が軽めの証に用います。訴えが多く、いろいろと変化するようなタイプに加味逍遙散は効きます。一方、女神散は、少数の症状に頑固に固執してこだわるタイプに効きます。上熱下寒も強めです。

女神散か釣藤散か
釣藤散が有効な証とも似ていますが、釣藤散は内風を鎮める処方なので、同じめまいでも、ふわふわとしており、肩こり、高血圧、神経質などの症候を伴う場合に使います。

女神散か抑肝散か
抑肝散の証とも似ていますが、女神散の証の神経症状が深く不変的なのに対し、抑肝散の証の神経症状は、興奮的で高揚していくようなところがあります。

女神散か桂枝茯苓丸か
桂枝茯苓丸などを使う証でものぼせやめまいがみられますが、血瘀による月経痛などの疼痛や不正出血が主で、神経症状はさほど重くはありません。


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