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自律神経失調症に漢方は効く?
自律神経失調症に漢方が効く、漢方で治ったという話を聞きますが、漢方が効果的なのはどんな人、どんなケースなのでしょうか。西洋医学のアプローチとはどう違うのでしょうか。
マルガリータ・ユキが、帝国ホテルプラザ内の「薬石花房 幸福薬局」の中医師・幸井俊高先生に、お話をうかがいました。
自律神経失調症で出やすい症状
ユキ:自律神経失調症とは、どのような病気なのですか。
先生:自律神経は、心臓の拍動、呼吸、消化吸収、発汗などさまざまな機能を無意識のうちに遂行、調整しています。そのバランスが不調となって多様な症状が出ている状態が自律神経失調症です。
症状は多岐にわたり、たとえば次のような症状のいずれかです。
▢肩こり▢頭痛▢めまい▢吐き気▢胃もたれ▢腹痛▢下痢▢便秘▢疲労倦怠感▢食欲不振▢不眠▢動悸▢いらいら▢憂鬱▢冷え▢微熱▢のぼせ▢顔のほてり▢手足のしびれ▢のどの違和感▢発汗▢生理不順 |
症状の種類や強さは人それぞれです。
ユキ:肉体的、精神的、いずれの症状もありますね。
先生:これらの症状が出た場合、頭痛なら脳神経外科など、該当の診療科を受診することと思います。そして検査で異常がみつからない場合に自律神経失調症と診断されるケースが多いようです。
脳神経に異常はなく、自律神経による体内機能のコントロールが不調になったために頭痛が出ている、との判断です。背景にあるのはストレス、心配事、生活の乱れなどです。
西洋医学 は
対症療法で症状緩和を目指す
ユキ:西洋医学ではどのような治療が行われますか。
先生:心因性の場合が多いので、抗不安薬、抗うつ薬、自律神経調整薬、睡眠導入剤などで症状を和らげるほか、ホルモン剤なども用いられます。あとは鎮痛剤など症状を抑える薬やビタミン剤です。
ユキ:自律神経失調症と診断されても決め手となるような治療方針が示されないまま症状が長引き、本当に治るのか心配になっている方も多いようです。
漢方 は
背後にあるバランスの乱れを調整
ユキ:漢方では自律神経失調症をどのように扱いますか。
先生:自律神経や精神的な働きと関係の深い五臓の肝(かん)や心(しん)の機能を調えることによって根本治療を目指します。
ユキ:漢方では、肝や心の機能が不調になり、バランスが乱れて諸症状が表れている状態だと考えるのですね。
先生:その通りです。頭痛に鎮痛剤、胃もたれに胃薬というように症状に対してそれを抑えるというアプローチではなく、自律神経失調症のもとになっているバランスの乱れそのものを調えるのが漢方による治療方法です。
西洋医学と全く違う理論をもとに、的を絞った治療方針が打ち出せるのです。
また複数の症状が出ていても実は背景の原因は同じことが多く、その人に効果的な漢方処方を見つけることができれば、ひとつの漢方薬で多くの症状を改善することが可能です。
漢方が効く自律神経失調症は、5タイプ
ユキ:自律神経失調症に効果的な漢方処方は何ですか。
先生:ケースによって多種多様で、いろいろな処方の中から慎重に選びます。
たとえ同じストレスが引き金でも、体質の違い、不調の程度、進行度合いなどによって状態が異なります。
漢方が効く自律神経失調症は、おおまかに次の5つのタイプです。自分にあてはまるのはどれか、参考にしてください。
(1) ストレスが原因の自律神経失調症の初期(肝鬱気滞)
(2) 長期化して症状が激しくなっている人(心肝火旺)
(3) 激しい頭痛やふるえがある人(肝陽化風)
(4) 気苦労が絶えない人の動悸・発汗など(心気虚)
(5) 驚きやすい人の不眠・疲労倦怠など(心血虚)
以下の表で詳しく説明します。
タイプ(証)と処方 | よくある背景要因 | 出やすい症状 |
(1) ストレスが原因の自律神経失調症の初期
代表処方: |
ストレスの蓄積、緊張の持続、人間関係のプレッシャーにより、気の流れが停滞して自律神経に影響 | ▢情緒不安定▢憂鬱感▢いらいら▢ため息▢のどの違和感▢排便の不調▢生理不順▢白い舌苔 |
(2) 長期化して症状が激しくなっている人
代表処方: |
上の肝鬱気滞の長期化や、強いストレスや感情の起伏によって熱症状が加わる | ▢激しいいらいら▢怒りっぽい▢寝つきにくい▢のぼせ▢ほてり▢顔面紅潮▢焦燥感▢落ち着かない▢不安▢強い不眠▢動悸▢胸苦しい▢赤い舌▢舌苔は黄色 |
(3) 激しい頭痛やふるえがある人
代表処方: |
栄養・睡眠の不足、失血などによって肝血(肝の血液や栄養)が不足した結果、陽気が立ち上り体内を吹き荒れる | ▢頭痛▢のぼせ▢いらいら▢しめつけられるような激しい頭痛▢めまい▢手の震え▢まぶたのけいれん▢耳鳴り▢肩こり▢暗紅色の舌▢ふらつき▢引きつり |
(4) 気苦労が絶えない人の動悸・発汗など
代表処方: |
考えすぎや、心労の積み重ねにより、「心」の気(エネルギー)が不足 | ▢動悸▢息切れ▢めまい▢発汗▢不安感▢疲労倦怠感▢胸苦しい▢普通の人なら気にならないことでも気になってしまう▢舌は白っぽい▢白い舌苔が薄く付着 |
(5) 驚きやすい人の不眠・疲労倦怠など
代表処方: |
過度の心労や、思い悩み過ぎ、過労が続くことで「心」の血が消耗した結果、精神が不安定に | ▢どきどきしやすく、驚きやすい▢疲労倦怠感が強い▢物忘れが多い▢寝つきがよくない |
回復へのカギは
ベストの処方に出会うこと
実際には複数のタイプが混在していたり、特に強い症状があったりと人それぞれですのでケースバイケースで注意深く処方を選びます。
すでに漢方薬を長く服用していて効果が見られない場合は、処方が適切でない可能性がありますので、信頼できる漢方の専門家に再度相談するとよいかもしれません。
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