食欲不振と食べ過ぎ
◆食欲の不振・亢進はどのように起こるのか
当薬局では、食欲に関する体質的な問題に対処し適切な食欲を回復するための漢方薬を提供しています。
食欲は、一般に消化管内の食物貯留の状態と関与しており、胃など消化管内に食物があるときには食欲を自覚せず、逆に消化管内に食物がなくなると胃腸が収縮し、空腹を感じます。
また食欲は、脳の視床下部にある食欲中枢と満腹中枢との関係が深いため、胃腸の中の食物貯留状態以外の要因にも左右されます。
食欲に影響を与える要因としては、消化管の収縮程度のほかに、血中の遊離脂肪酸やホルモンの濃度、血糖値、また嗅覚や視覚など五感への刺激、睡眠や疲労度、体温や健康状態、季節や気候、人間関係や精神状態、そしてそれに伴うストレスの関与などがあります。
また、胃炎や胃・十二指腸潰瘍、肝炎や膵炎などの消化器系疾患や、糖尿病や甲状腺機能低下症などの内分泌・代謝系疾患、また循環器系や呼吸器系、腎不全などの泌尿器系疾患などでも食欲が低下します。また躁うつ病のうつの期間や自律神経失調症、各種神経症でも食欲が落ちます。
漢方で食欲不振が治った症例はこちら
逆に、甲状腺機能亢進症や糖尿病などの内分泌・代謝系疾患や、躁うつ病の躁の期間などの場合は、食欲が亢進します。
しかし一般にはこのような重い病気にかからなくても、ちょっとした体調や精神状態の変化や、女性の場合は生理前のホルモンバランスの変化などで、食欲が増進したり減退したりするものです。
◆食欲不振、食べ過ぎに対する西洋医学と漢方の違い
西洋医学では
西洋医学では、食欲減退や食べ過ぎの原因となっている病気が明らかな場合は、その病気を治療することにより正常な食欲を取りもどすことができます。
しかしとくにはっきりした原因が分からない場合は、とくに治療をせず、経過の観察のみ行うのが一般的です。
漢方では
漢方では、食欲不振や食べすぎの原因を、体調や心身のバランス、また内臓など諸機能の失調にもとめ、そのバランスを調整し正常化することで適切な食欲を回復できるよう努めます。
漢方薬には、自律神経やホルモンバランスの失調、精神面のストレスや不安定に対して働きかける作用がありますので、大きな病気ではなく西洋医学的には原因不明の食欲減退や食べすぎに対しても効果が期待できます。
食欲中枢や満腹中枢に対して不自然に作用している過剰な刺激を取り除くなどして、自然なかたちの食欲を自覚できる状態を取りもどす、これが漢方の方針です。
五臓六腑では消化吸収に関わる脾と胃、身体の諸機能を調節する肝の状態や働きが不調になっていると考えます。食欲不振の状態にはどのような場合があるか、次に説明します。
◆食欲不振の12のタイプ・・・あなたはどれ?
<体質やタイプを漢方で証(しょう)といいます>
(1)「脾気虚(ひききょ)」証
消化吸収や代謝をつかさどる脾の機能(脾気)が弱い体質。消化吸収機能が弱いため空腹にならない。
腹部がもたれて張りやすく、味覚の鈍化もみられます。
→ 脾気を強める漢方薬を用います。
(2)「脾陽虚(ひようきょ)」証
(1)の脾気虚証に加えて、身体を温める力が衰えている体質。
食欲不振に加えて、お腹や手足が冷えやすく、お腹がしくしく痛む、などの寒証がみられます。
→ 消化吸収機能を調えて体内のエネルギーを高め、身体を芯から温めてくれる漢方薬を用います。
(3)「脾気陰両虚(ひきいんりょうきょ)」証
(1)の脾気虚証に加えて、脾の陰液(血液や体液など必要な水分)も不足している体質。
脾気虚が長期化した場合にみられやすい証です。
食欲不振や腹部膨満感に加え、陰液が少ないので、口唇の乾燥、喉の渇き、硬い便、手足のほてり、などの燥証がみられます。
→ 脾気と陰液を補う漢方薬を用います。
(4)「肝気犯脾(かんきはんぴ)」証
身体の諸機能を調節する臓腑である肝の気(肝気)の流れが滞り、その影響が脾に及んで脾気が停滞し、運化機能が失調し、食欲不振になっている体質。
腹部膨満感や胸脇部の痛み、下痢、便秘、腹鳴、排ガス、軟便などの症状が生じます。
→ 肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにする漢方薬を用います。
(5)「胃気虚(いききょ)」証
胃の機能(胃気)のうち、特に食物を受け入れ消化する機能が低下している体質。
消化能力や胃の蠕動運動が低下している状態です。
お腹が空いても少ししか食べられない、食べてもすぐお腹が張ってしまい無理して食べようとしても吐き気が生じる、などの症状が見られます。
→ 胃の機能を立て直す漢方薬を用います。
(6)「胃陽虚(いようきょ)」証
(5)の胃気虚が長期化、あるいは悪化して、気の身体を温める力が衰えた状態。
食欲不振のほかに、胃・みぞおちの辺りの冷えや痛み、唾液やよだれが多く出る、などの症状も表れます。
→ 胃を温めて胃気を高める漢方薬を用います。
(7)「胃陰虚(いいんきょ)」証
胃の陰液(血液や体液など必要な水分)が不足している体質。
飲食物の受入、消化、腸への送り出しができないため、お腹は空くけれども食べられない状態になります。
陰液不足で乾燥するので口渇が生じ、口の中が粘つく、唾液が少ない、などの症状があらわれます。陰液が少ないために相対的に熱が余るため、空えずき、口臭などもみられます。
→ 胃の陰液を補う漢方薬を用います。
(8)「肝気犯胃(かんきはんい)」証
身体の諸機能を調節する肝の気(肝気)の流れが滞り、その影響が胃に及んで胃気が停滞し、腸へ送り出す機能が妨げられて食欲不振になっている体質。
上腹部膨満感、みぞおちが張る、呑酸、吐き気、嘔吐、ストレスに左右される、紅色の舌 などの症状がみられます。
→ 肝気の鬱結を和らげつつ胃気を回復させる漢方薬を用います。
(9)「胃内停水(いないていすい)」証
脾の運輸機能が弱いために胃内の水分を吸収できず、胃内に水飲(過剰な水分)が停滞している状態で。
胃中にいつまでも水分が停留するために飲食物が入りません。
胃がつかえ、お腹がぐるぐる鳴り、胃部を叩くとちゃぽちゃぽと音がします。
→ 胃内の水飲を除去する漢方薬を用います。
(10)「湿困脾胃(しつこんひい)」証
水分代謝の不調により脾に過剰な水湿が侵入し消化を阻害している状態。
脾が正常に機能していると、飲食物は脾に停滞することなくどんどん消化されるため、脾は乾燥しているのが理想的ですが、これが余分な水分や湿気(湿邪)に侵されています。
腹部膨満感や吐き気を伴います。舌にべっとりとした白い舌苔がみられます。湿邪は病邪の一つで、湿気のようにねっとりとした症候を引き起こす病邪です。
→ 脾胃の湿邪を除去する漢方薬を用います。
(11)「脾胃湿熱(ひいしつねつ)」証
体内で過剰な湿邪と熱邪が結合した湿熱が消化を阻害している状態。
(10)の湿困脾胃証が長期化して熱を帯びると、この証になります。あるいは、脂っこいもの、刺激物、味の濃いもの、生ものやアルコール類の日常的摂取や大量摂取、不潔なものの飲食などによっても、この証になります。
吐き気、口が粘る、腹部膨満感、泥状便、べっとりとした黄色い舌苔 などの症状を伴います。
→ 湿熱を除去する漢方薬を用います。
(12)「食滞(しょくたい)」証
暴飲暴食や、消化が悪い物の飲食により、脾胃に負担がかかっている状態。
胃の降濁機能が失調し、食欲不振が生じます。胸やけや吐き気、腹部膨満感、げっぷもみられます。
消化吸収機能を促進して停滞を緩和させる漢方薬を用います。
◆漢方薬は人それぞれ、自分のタイプに合うものを
食欲不振や食べすぎに用いられる漢方薬は、その状態や特徴、それにひとりひとりの体質によって大きく違ってきます。
漢方薬で胃腸の調子を整えればいいのか、内臓の働きを正常化させて体調を整えればいいのか、ホルモンのバランスを整えればよいのか、精神的なストレスに対する抵抗性を高めればいいのか、などにより、用いる処方が違ってくるのは当然です。
食慾不振に比較的よく使う漢方処方は以下の通りです:
小柴胡湯、大柴胡湯、四逆散、逍遙散、六君子湯、小半夏加茯苓湯、呉茱萸湯、麦門冬湯、茯苓飲、四君子湯、香砂六君子湯、人参湯、参苓白朮散、啓脾湯、平胃散、胃苓湯、茵蔯蒿湯、茵蔯五苓散
食欲不振にはこの漢方薬がいい、食べすぎにはこの漢方処方がいい、などというものはありません。
漢方薬を飲む際は、中医師など漢方の専門家のカウンセリングを受けて、自分に最適な漢方処方を選んでください。
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